目次
・CES 2026の基調講演に見る「真のトレンド」
・今年の業界動向を読み解く上で重要な3社
・エヌビディア:「AIネイティブ」を前提とした構造転換
・AMD:AMD:より多くのユーザーに届けるAI戦略
・レノボ:「AIを核とするプラットフォーム」への転換
・デバイスはプラットフォームへ
CES 2026の基調講演に見る「真のトレンド」
まず、今年のCESを俯瞰してみると、自動車の展示は控えめだった一方で、昨年以上にヒューマノイド(人型ロボット)の存在感が際立っていました。昨年、エヌビディアがAIの進化の方向性の1つとして「フィジカルAI」を打ち出し、ステージ上に人型ロボットをずらりと並べたのは記憶に新しいですが、あれからわずか1年でフィジカルAIがこれほど進展した様には目を見張るものがあります。
そのほか、スマートグラスや次世代液晶技術「マイクロRGB」を搭載したテレビ、折りたたみ式デバイスの展示エリアも活気があり、数年前のCESと比べて来場者にとってはより親しみやすい展示が増えた印象を受けます。
共通トレンドは、やはりAI。あらゆる業界のブースに「AI」という言葉が掲げられ、会場内では「今年もAIばかり!」とうんざりした様子で漏らす参加者の姿も。確かに、こうした展示の表層だけを見ると、CES 2026は昨年までの延長線上にあるようにも映ります。実際の変化は、完成品の展示そのものよりも、企業トップが登壇する基調講演の内容に色濃く表れていました。昨年までは見られなかった大きなパラダイムシフトの兆しです。
それこそがCES 2026で語られるべき真のトレンド。今後、あらゆる産業や業界で加速するであろう「AIネイティブ時代」の幕開けだと感じました。
今年の業界動向を読み解く上で重要な3社
CES 2026では、本イベントの開幕に先立ち、プレス向けカンファレンス「メディアデー」を中心に、複数の基調講演(Keynote)が行われます。その中で、今年の業界動向を読み解く上で特に重要な存在として注目を集めていたのが、エヌビディアとAMD、そしてPC大手のレノボの3社です。
エヌビディアは、CEOのジェンセン・フアン(Jensen Huang)氏が自社の基調講演に加え、提携企業のステージにもゲストとして登壇し、AI市場における中核的プレイヤーとしての存在感を強く印象づけました。一方、AMDはCEOのリサ・ス―(Lisa Su)氏がメディアデーのトリを務め、AIの普及を見据えた自社戦略を前面に打ち出しました。
そしてレノボは、ラスベガスの新たな象徴とも言える球体型アリーナ「スフィア(Sphere)」を会場に基調講演を実施。会長兼CEOのヤンチン・ヤン(Yuanqing Yang)氏が登壇し、エヌビディアとAMDの両CEOをゲストに迎えながら、AI PCから大規模AIインフラに至るまで、レノボの取り組みを包括的に紹介しました。
これら3社の基調講演で語られていたのは、個々の製品発表にとどまらない、AI時代における産業構造そのものの変化です。一般展示だけでは捉えにくいこうした視点が、基調講演を通じてより明確に浮かび上がってきました。
こうした構造的な変化を最も端的に示していたのが、エヌビディアの基調講演でした。
___________________
主な基調講演 企業一覧
LG Electronics/Bosch/Hisense/The LEGO Group/Hyundai/Sony Honda Mobility Inc./Samsung/Nvidia/AMD/Siemens/Lenovo
___________________
エヌビディア:「AIネイティブ」を前提とした構造転換
今年のCESでも、基調講演を通じて強い存在感を示したのがエヌビディアでした。2025年のCESでは、最新GPUに加え、フィジカルAI開発の基盤となる「NVIDIA Cosmos」や「NVIDIA Omniverse」を発表し、AIを現実世界に拡張するための土台づくりを強調していました。
一方、CES 2026で前面に打ち出したのは、AIを「使う」段階から「自律的に動かす」段階へと進めるための基盤です。エージェンティックAIの構築を支援するオープンモデル「NVIDIA Nemotron」には、自動運転向けに最適化された新モデル「Alpamayo」が追加されたほか、次世代AIスーパーコンピューターを実現する6つの新チップで構成される「Rubin」プラットフォームが発表されました。
さらに、特別な冷却設備や複雑なケーブル配線を必要としないデータセンター向けラックの発表も注目を集めた。これは、AIモデルやチップの性能向上だけでなく、AIインフラの導入・運用コストを含めた全体最適を視野に入れていることを示している。
これらの発表から見えてくるのは、エヌビディアが単なる高性能GPUベンダーにとどまらず、AIシステムを「構築する前段階」から支援する存在へと役割を拡張している点です。オープンモデルの提供によって、これまで参入障壁が高かったAIモデル開発を後押しし、自社のチップやプラットフォームを前提としたエコシステムを形成する狙いがうかがえます。
CES 2026におけるエヌビディアの基調講演は、AIネイティブ時代において競争の主戦場が「個々の製品性能」から、「どの基盤の上でAIを動かすか」という構造的な領域へ移りつつあることを、最も分かりやすく示していました。
(image : TECHBLITZ撮影)
こうしたエヌビディアの戦略を象徴する説明として、フアン氏は、AIの構造を「五層のケーキ」に例えて解説しました。最下層には土地や電力、建物、あるいは車といった物理的な基盤があり、その上に半導体、インフラストラクチャ、AIモデル、そして最上層にアプリケーションが積み重なるという構造です。
この比喩が示しているのは、ユーザーが直接触れるアプリケーションであっても、その価値はAIモデルや計算基盤に大きく依存するようになり、今後はアプリケーションがAIモデルを前提に設計される時代に入るという認識ですね。
この考え方は、エヌビディアの自社講演にとどまらず、他社の基調講演でも繰り返し言及されました。例えば、レノボの基調講演にゲストとして登壇したフアン氏は、過去1年間で「AIネイティブ企業」──AIを基盤に製品やサービスを設計する企業──への投資額が約1500億ドルに達したことを紹介しました。その上で、アプリケーションを展開するための土台が、従来のPC中心の世界から、AI(大規模言語モデル)を中心とした構造へと移行しつつあると指摘しています。
さらに、この「AIネイティブ」という概念は、シーメンスの基調講演に登場した際も繰り返し用いられました。フアン氏は同社のステージにおいて、「AI-native Simulation」や「AI-native Chip Design」といった表現を通じて、産業分野においてもAIを前提とした設計思想が広がりつつあることを強調。これは、製造業やエンジニアリング領域においても、AIが補助的なツールではなく、システム全体を支える中核として位置づけられ始めていることを示しています。
エヌビディアがCES 2026で示したのは、AIを単に高速化・高性能化する競争ではありませんでした。AIを中心に、半導体からインフラ、モデル、アプリケーションまでを再構成する「AIネイティブ」な産業構造への移行が、すでに現実のものとして進行しているというメッセージだったのです。
(image : TECHBLITZ撮影)
AMD:より多くのユーザーに届けるAI戦略
メディアデーの最後を締め括ったのが、AMDの基調講演。登壇した女性CEOのスー氏は、世界的企業のトップでありながらその飾らない人柄や、ジェンセン・フアン氏の親戚でもあることから何かと注目度が高く、ライバルであるエヌビディアが強い思想性とビジョンを前面に出すのに対し、AMDがどのようなメッセージを示すのかに注目が集まっていました。
昨年のCESにおけるAMDの講演は、ゲームやAI PC向けの中価格帯CPUが中心で、「AI」を前面に押し出す内容ではありませんでした。しかし、CES 2026ではその印象が大きく変わります。今年のスローガンとして掲げられたのは、「AI Everywhere, for Everyone(あらゆる場所、あらゆる人にAIを)」でした。
スー氏は講演の中で、2029年を目処に世界のAIアクティブユーザー数が50億人に達する予測を示しました。これは、AIが一部の先進企業や専門家に限られた技術ではなく、社会全体のインフラとして浸透していく段階に入るという認識を前提としています。
その上でAMDが強調したのが、CPU、GPU、NPU、さらには用途特化型のカスタムアクセラレータまでを含む幅広い製品群を通じて、データセンターからPC、エッジまでをカバーする戦略です。最先端の計算基盤を集中的に構築するアプローチとは異なり、AMDはAIを多様な環境に展開し、より多くのユーザーに届けることを重視していることが見てとれます。
CES 2026におけるAMDの基調講演が示していたのは、AI競争の軸が性能や規模の一点集中だけではなく、「どれだけ広く、現実の用途に浸透させられるか」という段階に移りつつあるという視点だったのがユニークです。エヌビディアがAIネイティブな基盤構築を牽引する存在だとすれば、AMDはAIを社会全体へと広げる役割を担おうとしている。その違いが、両社の基調講演からはっきりと浮かび上がっていました。
さらにAMDは、基調講演にOpenAIのプレジデントであるグレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)氏や、「AIのゴッドマザー」とも称されるフェイフェイ・リー(Fei-Fei Li)氏などをゲストとして招きました。講演では、LLMにとどまらず、航空宇宙、医薬、映像制作といった多様な分野での協業事例が紹介され、AIが特定の産業や用途に閉じない技術であることが強調されています。
これらの構成から見えてくるのは、AMDが単に高性能なAI向け半導体を提供する企業ではなく、AIを幅広い産業に行き渡らせるための「選択肢」を提供するプラットフォーマーとしての立場を確立しようとしているという点ではないでしょうか。AIの民主化を掲げる同社の姿勢は、CES 2026におけるAMDのメッセージをより明確にしていたように感じました。
___________________
発表されたAMDの主な提携企業
OpenAI/Luma AI/Liquid AI/World Labs/Blue Origin/Generative Bionics/AstraZeneca/Absci/Illumina
___________________
(image : TECHBLITZ撮影)
レノボ:「AIを核とするプラットフォーム」への転換
AIを前提としたプラットフォームシフトを最も分かりやすく体現していたのが、レノボの基調講演です。本来、PCメーカーの発表といえば、通常は最新ハードウェアの性能やスペックが前面に出るはず。しかし今回、レノボが講演の中心に据えたのは、製品そのものではなく、パーソナルAIシステム「Qira」でした。
Qiraは、レノボおよび傘下のモトローラ製デバイスを横断して機能するパーソナルAIエージェントであり、個々の端末に閉じたAI機能とは一線を画す存在として位置づけられています。スマートフォン、PC、ウェアラブル端末などに分散した情報や作業状況をAIが統合的に把握し、ユーザーの文脈に応じて支援する点が特徴です。
例えば、スマートフォンを通してQiraへ「この1時間の進捗は?」と問いかければ、「こんな内容のメールを受信しました。また、あなたがPCで作っていた動画も準備が完了しました」と、デバイスの垣根を超えた回答を提示してくれます。
「ハードウェアの上にAIを載せる」のではなく、「AIをプラットフォームの核に据え、その周囲にデバイスを配置する」。この設計思想こそが、本格的なパーソナルAI時代に向けたレノボの回答といえるでしょう。レノボは、PCやスマートフォンを価値の終着点とするのではなく、パーソナルAI体験へと接続するための入口として再定義しています。
講演では折りたたみ式携帯やペンダント型デバイスなども披露されましたが、講演のポイントは「ハードの性能」ではなく「AIがいかに体験を規定するか」にシフトしており、製品開発における本質的なパラダイムシフトが鮮明に表れていました。
このようにレノボの基調講演は、完成品メーカーがAIネイティブ時代において果たす役割が、単なるデバイス提供から、AIプラットフォームの設計と統合へと変わりつつあることを示していました。
(image : TECHBLITZ撮影)
デバイスはプラットフォームへ
CESの主催団体であるCTAも、メディアデー初日に行ったテックトレンドに関する発表「CTA Tech Trends to Watch」において、「フィジカルAI」や「SDVs」などと並び、「Devices to Platforms(デバイスからプラットフォームへ)」というキーワードを掲げました。
この言葉が示しているのは、PCやスマートフォン、自動車といったデバイスそのものが価値の中心だった時代が終わりです。今後、デバイスは単体で完結する製品ではなく、「AIサービスを提供する窓口」へと変わることを意味しています。
重要なのは、「既存の製品にAIを付け加える」という発想から、「AIという中核が先にあり、その価値を届けるためにデバイスやインフラが設計される」という構図へと、設計思想そのものが逆転している点です。この変化は、エヌビディアが示したAI基盤中心の世界観、AMDが打ち出したAI普及戦略、そしてレノボが描いたパーソナルAIを核とする体験設計とも一致しています。
かつて「クラウドネイティブ」がソフトウェア開発の前提となったように、今後はAIの存在を前提に、製品や事業、さらには産業構造そのものが設計される「AIネイティブ」の時代が加速していく――。
CES 2026は、まさにその転換点がすでに現実のものとなりつつあることを示したイベントだったと言えるのではないでしょうか。