今年も米国ラスベガスで、世界最大級のテクノロジー展示会「CES」が開幕した。1月5~6日には開幕に先立ち、報道陣など向けのメディアデーが催され、選りすぐりの世界的企業が注目の新製品やプロダクトコンセプトを伝える記者発表を行った。今回、話題をさらったのはAI時代をリードする米半導体大手NVIDIAによる1時間超えの基調講演。生成AIの次のステップと位置付けられる「AIエージェント」に言及があるなど期待を裏切らない内容の濃さで、2025年のテックトレンドを占う重要な場となった。TECHBLITZでは、今年も米国在住リサーチャーの目から見たカンファレンスの概況をお伝えする。

今年のメディアデーにおけるプレスカンファレンスでは、11社の企業が記者発表を行いました。過去に20社弱の企業が発表を行っていた時期と比べると、今年は企業数が絞られた印象です。一方、プレスカンファレンスに続く基調講演として、NVIDIAのCEO ジェンスン・フアン氏の登壇が大いに注目を集めました。下記はカンファレンス開催企業一覧ですが、今回はリサーチャーが参加した一部企業について取り上げます。

メディアデーのカンファレンス開催企業一覧
LG Electronics/Hisense/Bosch/John Deere/TCL/AMD/Siemens/Toyota/Samsung/Zeekr/Sony/NVIDIA(基調講演)

目次
今年のポイントは「半導体」と「AIエージェント」
【NVIDIA】世界最先端のGPU
【AMD】中価格帯のCPUにフォーカス
【LG】愛情深いAIが生活をサポート
【Samsung】「AI for ALL」は今年も継続
日本企業による推進プロジェクトにも関心が集まる

今年のポイントは「半導体」と「AIエージェント」

 2025年のメディアデーは、NVIDIAのジェンスン・フアン氏による基調講演が一大プログラムとして注目されていました。NVIDIAはAI分野を牽引する企業として、世界中から注目を浴びています。近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)を支えるサイバーセキュリティやクラウド、そして更なる進化が期待されるAIやロボティクスは、半導体やデータインフラストラクチャ無くしては語れません。半導体の進化はAI技術の進化に直結しており、NVIDIAのCEOが語る今後のAIの未来や最新製品の発表には、多くのメディア関係者やエンジニアが視線を注いでいました。同日のプログラムには、同じく米半導体大手AMDの名前もあり「NVIDIA 対 AMD」の構図も早くから話題になっていました。

 昨年のメディアデーでは当初の期待に反して、AIに関する具体的なソリューションはあまり聞かれませんでした。あれから1年が経ち、今年のメディアデーではより多くの企業で、AIを活用した製品の発表がありました。中でも印象的だったのが「AIエージェント」です。『AI x ハードウェア』に関連する話題は発表の中で度々でましたが、そのAIの活用法は要約や検索だけではありません。CES本会場内にて登壇したデロイトのBill Briggs氏が口にした「AI is the new UI(AIは新たなUIだ)」という表現の通り、各社の発表の中で、AIは人間に寄り添い(時に会話しながら)、ハードウェアを柔軟にコントロールする存在でありました。

 CES本会場内における自動車メーカーの発表でも、「EV」「自動運転」「インフォテインメント」などのトレンドに加え、音声認識によるAIエージェント機能を伝える企業も複数見られました。あくまで本メディアデーからの観点にはなりますが、これらの動向を踏まえると、2025年のテックトレンドを読み解く上で半導体とAIエージェントは重要なカギとなりそうです。

NVIDIA - 世界最先端のGPU

(TECHBLITZ編集部撮影)

 NVIDIAのジェンスン氏の基調講演は、ホテル内に併設されたアリーナで行われました。ミュージシャンのコンサートなどが行われるほどの広い会場でしたが、観客席はほぼ満員。トレードマークである黒いジャケットを着たジェンスン氏がステージに上がった際には、ミュージシャンさながらの大きな歓声があがりました。

 事前に期待されていた通り、講演冒頭では同社最新のハイエンドGPU「GeForce RTX 50シリーズ」が発表されました。AI向けのBlackwellアーキテクチャを採用した同GPUは、1秒あたり3352兆回のAI演算(TOPS)を可能とします。また、最大2,000億パラメータの大規模言語モデルを実行できる、手のひらサイズのAIスーパーコンピューターも発表され、中小企業や個人でも手が届くその価格に会場から、賞賛交じりのどよめきが起きました。サーバー向けに72個のGPUが巨大なコンピューターチップとして機能する事例も紹介し、そのチップをキャプテン・アメリカの盾に見立ててポーズを取った際は、そのコミカルな仕草に笑いが起こりました。

(TECHBLITZ編集部撮影)

 講演の中でジェンスン氏は、AIの進化が今後「Generative AI(生成AI)」から「Agentic AI(エージェンティックAI)」、そして「Physical AI(フィジカルAI)」へ進んでいくとの展望を示しました。具体的に、エージェンティックAIではコーディングアシスタントやカスタマーサービスが、フィジカルAIでは自動運転車や汎用型ロボットがその適用対象例となります。これら分野でのAI活用をハード面のみならずソフト面でも支援するため、自動運転や人型ロボット開発向けのプラットフォームやAIモデルも発表しました。また、様々な企業が、社内のタスクに対してAI エージェントを活用する未来を示唆し、AIエージェント開発向けのツールも紹介されました。

AMD - 中価格帯のCPUにフォーカス

(TECHBLITZ編集部撮影)

 AMDの発表会は、NVIDIAの講演会よりも早く催されました。メディア関係者の間では、同社GPU(Radeon RXシリーズ)最高クラスの詳細情報の発表、またNVIDIA製ハイエンドGPUとの競り合いを期待していましたが、残念ながらその予想は外れることとなりました。

 本発表ではそのGPUについてはあまり語られず、主に「ゲーマーやクリエイター向け」「AI PC(Copilot+ PC)向け」の最新CPUに焦点を当てていました。NVIDIAの講演内容を懸念して、あえてGPUの詳細発表は避けたとも噂されています。しかし、中価格帯の高性能CPUは実際に多くの一般消費者が求めるものであり、その顧客層を狙った発表は堅実な戦略とも言えます。事前の予測からは外れたものの製品そのものは素晴らしく、発表資料ではIntel Core UltraやApple M4 CPUに対する優位性が示され、最新「Ryzen AI Maxシリーズ」の1種においてはNVIDIA RTX 4090 GPUと比べ最大2.2倍早いAIパフォーマンスを誇ることが語られました(観客からは「なんだって!?」という驚きの声が上がり、会場内が和やかな雰囲気になりました)。

 また法人用PCのニーズを反映したCPUの紹介と同時に、AMDとDELLの提携についても発表がありました。今後DELL製PCにAMD製チップの搭載が進むとのことです。

LG - 愛情深いAIが生活をサポート

(TECHBLITZ編集部撮影)

 LGの発表では、ステージ上に各種家電が設置され、『家電 x AI』による新たなユーザー体験が、短い演劇を通して伝えられました。毎年クリエイティブな展示内容でCESに華を添える同社ですが、本発表は、観客の目の前にてリアルタイムで活用法を見せることにより現実味が増す様、念密に作られた構成になっていました。同社ではAIを“Affectionate (愛情深い) Intelligence”と再定義し、AIエージェント「LG FURON」がユーザーに質問や提案を行い、家電や車を通して生活をパーソナライズする世界観を示しました。具体的には、家を出る前に「雨が降りそうだから傘を持っていくように」と促したり、車内で「車のカップホルダーにタンブラーがないけど、コーヒーショップに立ち寄りますか」といった提案をしてくれるようです。

 なお、事前情報で話題に上がっていた、フラットな状態から曲げられる5K2Kゲーミングモニターや昨年の目玉となった透明の有機ELテレビは同発表会では触れられず、代わりにヒップホップグループ「ブラック・アイド・ピーズ」のメンバーであるwill.i.amとのコラボレーションで生み出した新型のオーディオ製品が取り上げられていました。

Samsung - 「AI for ALL」は今年も継続

(TECHBLITZ編集部撮影)

 毎年注目されるSamsungの記者発表会は、今年も会場に入るため参加者による長蛇の列ができていましたが、その内容は昨年と比べやや落ち着いた印象でした。昨年掲げた「AI for ALL」というコンセプトは変わらず、冷蔵庫や洗濯機、オーブン、掃除機などあらゆる家電にAIを搭載し、パーソナライズを基本としたスマートホームの実現を目指す内容でした。これらの基盤として、Samsung Knox(セキュリティ・プラットフォーム)、Bixby(AI音声アシスタント)、Smart Things(デバイス間ネットワークシステム)を活用する点も昨年と同様でした。

 発表会の中で思いの外話題になったのは、家庭用ロボット「Ballie」の最新情報です。昨年は同ロボットの開発プロジェクトが健在していることに歓声が上がりましたが、今年は同ロボットが「2025年前半」に発売される見通しと伝えられました。参加者の多くにとって想定外の発表だったため、会場でも大きな歓声が上がりました。また、前述のSmart Thingsにより今後、船舶システムも管理できるようになるとの発表もありました(観客から出た「ワオ!」の声にプレゼンターも喜んでおり、思いの外雰囲気が和んでいました)。

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日本企業による推進プロジェクトにも関心が集まる

 メディアデーでは、日本勢としてToyotaとSonyの発表もありました。

 Toyotaの発表会は時間枠に対してやや短くはありましたが、代表取締役会長である豊田章男氏のジョークも交えたスピーチが観客から好反応を得ていました。発表内容の軸は、モビリティのテスト環境として長く建設が進められていた「Toyota Woven City」の最新情報です。この度、フェーズ1エリアの建設が完了し、2025年秋以降に公式運用が開始されることが伝えられました。今後、住民の入居が進められるほか、スタートアップや大学、研究機関による利用も想定されているようです。

 また、補足情報として「ロケット研究」についても発表され、観客から驚きの声とどよめきが起こりました。日本のインターステラテクノロジズが設計するロケットの画像が披露された以外に詳細情報はありませんでしたが、スペースXに続く取り組みとして観客の関心を大いに集めました。

 Sonyの発表ではSony Honda Mobilityのコンセプトカー「AFEELA」について、価格が公開されたこと、また予約注文を開始する点が観客の注目を集めました。それ以外の発表内容はエンタメ分野の情報が主で、現在手がける映画やアニメの速報、またゲームデザイナーやコンテンツクリエイター向けに開発された各種制作ツールの紹介が行われていました。CES本会場内の自社ブースでクリエイター向け制作支援ソリューションの展示が多かったことからも、コンテンツ制作側にも同社ファンを増やそうとしている姿勢が感じとれました。

(TECHBLITZ編集部撮影)



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