目次
・「Apple Vision Pro」の発売に至るまで
・一部の人は熱狂していたけど...?
・”初動”としては大成功
・課題は「装着疲れ」と「価格」
・話題の火を絶やさないことが重要
「Apple Vision Pro」の発売に至るまで
AppleのCEOのTim Cook氏が「Apple Vision Pro」の試作機を試したのは、少なくとも6年以上前と言われています。当時の試作機はカメラやファンが無骨に搭載された大型の箱のようなもので、別室のスーパーコンピューターに有線で繋がれていたようです。
流石に"着用"できるサイズ感ではなく、スキーゴーグルサイズに改良するまで長い年月を要することは明確でしたが、それでも同氏はその試作機に将来の大きな可能性を感じていたようです。また、一部の人々は2016年時点ですでにAppleが顔に装着するディスプレイ機器の特許を取得したことに気づいており、将来的なAppleのXR分野への参入を噂していたようです。
さて、XRデバイス市場に目を向けると、すでに多くの競合企業が独自のVRヘッドセットを展開しています。有名な例としては、Metaの「Quest」、Microsoftの「HoloLens」、Sonyの「PS VR」などです。これらの製品はこれまで堅実に累計販売台数を増やしていますが、実際にはまだ"様子見"状態にある一般消費者が多く、期待されるほどの大きな躍進が見られないXRやメタバース市場に不安と停滞感を抱く人々の声も聞かれていました。
この状態を打破するには、購買意欲を焚き付ける大きな衝動が必要です。その点において「Apple Vision Pro」は、コンシューマー向けハードウェアにおいて絶大な信頼をもつAppleが手がけるXRデバイスというだけで話題性は十分であり、「Apple Watch」のように、新しいテクノロジーを普及させる大きな起爆剤としての役割が期待されていました。
一部の人は熱狂していたけど...?
「Apple Vision Pro」の発売当日は、事前予約をしていた人々が商品受け取りのためにアップルストアに集まり、その様子がテック関連メディアや一般のTVニュースでも取り上げられました。商品を手にした人の歓喜の様子が伝えられたり、早速商品レビューの動画がYouTubeに上がりましたが、アップルファンやガジェット通などの熱狂的な層ではない“普通の人々”は、「その商品聞いたことがある。今日発売なんだ」程度の薄い反応を示すケースが多かったです。
発売日以降、米国のアップルストアでは事前予約にて30分の製品デモ体験を行っています。発売から1カ月が経ってもApple本社周辺のアップルストアでは、予約が取りにくい状況ですが、遠方のストアでは翌日にはあっさり予約が取れるなど、その注目度には若干の地域差を感じます。製品デモ体験では、「Apple Vision Pro」の特徴であるアイトラッキング操作やアプリの利用、AR映像の視聴などが体験できます。
image: Apple HP Newsroom
初動としては大成功
商品を手にしたアーリーアダプター達の反応は、どうだったのでしょうか。肯定的な意見、否定的な意見、両方聞かれましたが、総じて初動としては大成功だったのではないでしょうか(発売1週間後にはすでに約20万台の販売が報じられました)。
まず、製品が持つその技術力と魅力について、人々の反応は総じて好評です。新コンセプトを伴った初代製品であるゆえに、不満点も多く挙がっていますが、それでも購入者の多くが、この新たな商品をすぐに「使えない」と手放すことなく、「どんな使い方ができるか」と興味を持って試しています。アーリーアダプター達から見放されることなく、また彼らにXR活用に対する高い興味関心を与えられたことは、今回の大きな成果ではないでしょうか。
特に、綿密に計算されたユーザーインターフェースには賞賛の声が上がっており、ハードウェアを強みとする同社の力が再認識されました。実際の使用感がデモ映像と遜色ないことは驚くべき点です。筆者自身も発売日の翌週に早速試しましたが、デジタル画面が生活空間に浮かび上がる様はまさにデモ映像の通りでした。この現実空間とパソコンが融合する不思議な感覚こそ、Appleが同製品を"空間コンピュータ"と称する所以かと思います。
具体的に、以下の性能や機能への好意的な評価を多く耳にします。
- アイトラッキングの活用
- 画像 / 映像解像度
- ARの没入度(透過度)の調整
- iMacやMacbookで展開中のWebブラウザやアプリを、ARにて表示する機能
- ARで展開するWebブラウザやアプリの位置を、現実空間の特定箇所に固定する機能
- 飛行機内の揺れに対処するトラベルモード
目の前の空間に複数の画面が出現する( Apple公式Youtubeの動画のスクリーンショット)
また、ユーザーの中で比較的好評な活用例は大画面での映画鑑賞と、新たな作業空間の創出です。
前者は、現実の背景を遮断した状態で映画を高解像度なパノラマ映像で展開しベッドで寝そべりながら、また飛行機内で座りながら楽しむ方法です。後者は、マルチモニターを置いた作業机から離れ、「このWeb画面はソファー前に固定」「あのアプリ画面はダイニングキッチン前に固定」することで新たな作業環境を生み出す活用の仕方です。
キッチンに立ちながらメニュー画面に視線を向ける男性(Apple公式Youtubeの動画のスクリーンショット)
課題は「装着疲れ」と「価格」
一方で、課題として多く挙げられたのは装着の不快感です。
「Apple Vision Pro」はバッテリーをヘッドセットから分離させています。機器の重量バランスは損ないますがヘッドセット重量を大きく抑制できたため、「懸念していたほど悪くない」という意見が多かったものの、やはり長時間使用ののちは顔への圧迫感や首の疲れを訴える声がよく聞かれました。
価格についての不満の声も多い状態です。ヘッドセット本体は約$3,500となっておりますが、持ち運び用ケースや度付きレンズ、AppleCareなどを付属すると、価格は$4,500を超えます(2024年3月時点)。一人一台の利用が望ましい同製品ですが、まだ大衆を魅了するような用途が定まらない中で、この価格帯に対する抵抗感は強いでしょう。
他にもアイトラッキングの設定時間の長さや"ペルソナ"の違和感など、小さな不満点はありましたが、これらは今後のシステムアップデートで一層改善されていくでしょう。
話題の火を絶やさないことが重要
総じて「Apple Vision Pro」は発売1カ月で好調なスタートを切りました。2025年までにその販売台数が147万台に達するとも予想されていますが、今後はハード / ソフト面、更には価格面での改良によって更にファンを広げていくことが期待されます。なお、市場関係者からは「第二弾は、安価な”非Pro”機ではないか」なんて予測も上がっています。
製品が"成長期"に移行するための大きな原動力は市場からの高いニーズが挙げられます。今回は「Apple Vision Pro」について言及しましたが、先に挙げた他社VRデバイス含め、競合各社が切磋琢磨し、話題の火を絶やさないことが、XRやメタバース市場拡大の重要なポイントになるでしょう。