image: arslaan / Shutterstock
世界有数のVCであるAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)が2022年、「アメリカン・ダイナミズム」という投資方針を打ち出したのをご存じだろうか。これは一言でいうと、「米国の国益を増進するテクノロジー企業を構築する」という構想。国家安全保障や宇宙開発、住宅問題、教育格差など、政府をもってしても解決が困難な国家レベルの課題を、革新的なテクノロジーこそが解決できる、そうしたスタートアップに投資するという考えだ。星の数ほどあるスタートアップの中からa16zが選び抜いた50社を俯瞰して、業界のオピニオンリーダーが描く米国の未来、世界の未来をのぞき見しよう。

※TECHBLITZでは、国内外のスタートアップを独自に調査。記事後半では、「アメリカン・ダイナミズム」に選ばれたスタートアップの中から注目の5社を紹介します。

Andreesen Horowitzとは:
Andreessen Horowitzは、マーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツによって2009年に設立された。Facebook、Slack、Airbnb‎、GitHubなど、多くの有名スタートアップへの投資実績を持ち、積極的な情報公開、投資後の支援強化、人材ありきの投資などそれまでのVCのあり方に捉われない独自戦略で急成長を果たした。略称の「a16z」は、社名の最初の文字の「a」と最後の文字の「z」の間に16文字あることに由来する。

<目次>
「アメリカン・ダイナミズム」を体現するスタートアップたち
「アメリカン・ダイナミズム」でa16zが伝えたいこと
「アメリカン・ダイナミズム」選出企業から、TECHBLITZが選ぶスタートアップ5選
 1. Astranis(米国)
 2. Hermeus(米国)
 3. Gecko Robotics(米国)
 4. KoBold Metals(米国)
 5. Flexport(米国)

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「アメリカン・ダイナミズム」を体現するスタートアップたち

 a16zは「アメリカン・ダイナミズム」を体現するスタートアップとして選りすぐりの50社を紹介。分野は航空宇宙や防衛、教育、サプライチェーン、製造業など10項目に大きく分類されている。

 航空宇宙分野からは、SpaceXの元エンジニアらが立ち上げ、シンプルな設計を採用した小型衛星打ち上げ用ロケットのABL Space Systems、小型で軽い静止通信衛星 (GEO)を利用してアラスカのような非人口集中地域への高速通信を提供することを目指すAstranis、微小重力環境となる宇宙空間での医薬品製造プラットフォームを提供するVarda Space Industriesなどが選ばれている。

 製造業・ロボティクス分野では、ヤモリのように壁をはう小型ロボットが発電所や石油・ガス施設などの基幹インフラ設備を自動点検するGecko Robotics、交通・物流分野では、サプライチェーンの崩壊を防ぐべく、複雑で前時代的な商慣習の残る国際物流の効率化を図るFlexportなど、いずれも社会課題を劇的に改善し得るスタートアップがリストアップされている。

「アメリカン・ダイナミズム」選出企業50社の全リストはこちら

image: Andreessen Howowitz社Facebook / Post

「アメリカン・ダイナミズム」でa16zが伝えたいこと

 例えば、小型衛星の打ち上げのような宇宙開発はかつて国の専売特許だったが、現在は民間部門の打ち上げ実績が国を上回り、億万長者たちが宇宙に行く時代になった。a16zは、これは政府が二の足を踏む中、並外れた民間投資がロケットの打ち上げコストを低下させた結果だとし、テクノロジーこそが政府が手をこまねいている「停滞」を打破すると説いている。

 そして、宇宙開発だけでなく、さまざまな分野でスタートアップが国家レベルの課題を解決できる時代が到来しており、米国を活性化させるそうしたスタートアップに投資しようというのが「アメリカン・ダイナミズム」の根底にある考え方だ。

「アメリカン・ダイナミズム」の大元は、新型コロナウイルスのパンデミックに終わりが見え始めた2022年1月にa16zの投資パートナーのKatherine Boyle氏が発表した『Building American Dynamism』という論考。米国を覆っていた停滞ムードを逆転させ、テクノロジーの力で国を再生しようと社会を鼓舞する内容だった。

 このように、a16zは業界のオピニオンリーダーとしての側面を持つことでも有名だ。2020年4月、新型コロナの広がりに世界が右往左往していた時には、マーク・アンドリーセン氏が『It’s Time to Build』と題する論考を発表。不足する医療用ガウンの代替として雨合羽を募らねばならない米国の置かれた状況を憂い、製造業からインフラ、教育制度から医療制度まで、イデオロギーの対立を超えて「今こそ構築すべきだ」と強く訴えるなど、投資先情報の発信だけでなく、より大局的な観点からのアドボカシー活動にも取り組んでいる。

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「アメリカン・ダイナミズム」選出企業から、TECHBLITZが選ぶスタートアップ5選

 a16zの「アメリカン・ダイナミズム」選出企業から、TECHBLITZ編集部が選ぶ注目のスタートアップ5社はこちら。

1. Astranis

Astranis
特定地域に通信を提供する小型静止通信衛星
設立年 2015年
所在地 米国 カリフォルニア州 サンフランシスコ
 Astranisは、特定地域に高速通信を提供する小型で軽い静止通信衛星 (GEO)*を開発。従来の通信衛星では難しかった、人口集中地域以外への安定的 / 高速 / 安価な通信の提供を実現。2023年4月にAndreessen Horowitzから$200Mの大型調達を実施。
*地球の自転に合わせて周回。地球との角度が一定のため静止して見える。
image: Astranis

2. Hermeus

Hermeus
「極超音速」の空の旅、大西洋横断を90分で
設立年 2018年
所在地 米国 ジョージア州 アトランタ
 Hermeusは、最高速度マッハ5の極超音速旅客機。現在開発中の無人操縦機「QUARTERHOURSE」は最高速度マッハ4、最大飛行高度8,000フィート、航続距離450海里を目標スペックとし、2024年に初飛行を予定。これはLockheed Martinが開発した超音速機「SR-71」が保有する記録を超えるスピードとなっている。クを搭載。これにより、周囲のドローンと連携しながら作戦行動を遂行することが可能。
image: Hermeus

3. Gecko Robotics

Gecko Robotics
産業用設備の自動点検ロボット
設立年 2013年
所在地 米国 ペンシルベニア州 ピッツバーグ
 Gecko Roboticsは、ヤモリ (Gecko) のように壁を登るロボットを活用し発電所や大規模プラントなど工業設備の点検を自動化するソリューション。専門の産業用ロボットが工業設備にヤモリのように接着移動して直接的にデータをキャプチャする。従来比で1,000 倍以上の情報を収集しながら、同平均10倍の速度で検査を実行。
image: Gecko Robotics

4. KoBold Metals

KoBold Metals
AIベースの電池用資源探査ツール
設立年 2018年
所在地 米国 カリフォルニア州 バークレー
 KoBold Metalsは、AIを利用した鉱物資源探査の効率化ソリューションを提供。世界的な専門家チームが開発したAIによって、EV用バッテリー生産や再生可能エネルギーの開発に不可欠なコバルト、ニッケル、リチウム、銅といった鉱物資源を効率的に探索できる。日本からは三菱商事などが出資。
image: KoBold Metals

5. Flexport

Flexport
国際物流をITテクノロジーで刷新
設立年 2013年
所在地 米国 カリフォルニア州 サンフランシスコ
 Flexportは、国際物流の実務をIT技術で効率化するソフトウェアを開発。配送遅延やコスト構造の複雑化が常態化している国際物流において、同社はデータを用い配送状況や各業者ごとの料金を可視化し、効率的な物流業務を実現する。
image: Flexport

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