「遊ぼう」を意味する社名を持つYanolja(ヤノルジャ、本社:韓国・ソウル市)は、元ホテル従業員の創業者イ・スジン氏によって設立された旅行予約サイト運営企業。創業当初はホテルの広告プラットフォームとしてスタートしたが、その後、オンライン宿泊予約サービスやホテルチェーン運営、クラウドベースの宿泊管理システムの提供へと事業を拡大している。特に成長著しいクラウドやAIサービスについて、ヤノルジャのCSOを務めるキム・ジョンユン(Jongyoon Kim)氏に話を聞いた。

目次
単なる旅行予約サイトじゃない、ヤノルジャのビジネスとは
韓国外での成長が1年前の7倍に
Googleなどでの経験経てヤノルジャに参加
ソフトバンクも出資する理由とは

単なる旅行予約サイトじゃない、ヤノルジャのビジネスとは

―ヤノルジャは旅行予約サイトと紹介されることが多いですが、ビジネスの本質はどのような点にあるのでしょうか。

 私たちは旅行業界を変革するために、データに関する問題解決を行なっています。ホテルや航空会社などのサプライヤーは質の高いプライマリーデータを提供する必要がありますが、彼らのシステム上、そのデータは不完全なことが多いです。特に航空会社は手動プロセスに依存しており、これがデジタル技術の導入を妨げています。そこで私たちは、サプライヤー向けにソフトウェアを通じてサービスを提供し、データの質を向上させています。

 ただ、サプライヤーからのデータが良好でも、配信プロセスが整理されていないとデータが失われる可能性があります。旅行代理店などがデータを交換する際にも、データの損失や古い情報が使われることが問題となっています。これを解決するために、私たちはサプライヤーと販売店をつなぐデータパイプラインのサービスを開発し、配信プロセス全体でデータの保護を強化しました。これに加え、ユーザーのレビューなどのデータを管理できるなど、より優れたサービスを提供しています。

 そして私たちはデータ基盤に投資し、そのデータを使ったAIサービスを展開しています。再価格設定や広告、フィンテックなどのサービスを提供しており、AIを使うことで顧客の収益性と生産性の向上に貢献しているのです。以上のように、現在のビジネスの3つの柱は、クラウドソフトウェアのサブスクリプション、トランザクションソリューションとしてのパイプライン、そしてAIサービスです。これらすべての中心には私たちの持つデータ基盤があります。

Jongyoon Kim
Group CSO
Yanolja Cloud CEO
ソウル大学で化学工学を専攻。2003年に3Mに入社し、2007年にはGoogleで勤務した。2009年から2年間はMBA取得のためTuck School of Business at Dartmouthで学ぶ。その後、McKinsey & Companyを経て2015年にYanoljaに参加。2019年から現職。

韓国外での成長が1年前の7倍に

―成功事例を教えていただけますか?

 まず、クラウドソフトウェアについて説明します。新型コロナウイルスの影響で多くのホテルがゲストを失いましたが、それでも従来のシステムに高い費用を払う必要がありました。その結果、多くのホテルが従来のオンプレミス型システムから、より柔軟でコスト効率の高いクラウドソリューションに移行しました。現在約21,000のホテルが私たちのサービスを使っています。

 トランザクションソリューションについては、在庫やコンテンツ配信の効率化で貢献しています。ホテルが複数の予約プラットフォームに在庫やコンテンツを配信する業務は複雑になりますが、当社のシステムを使うことで効率的にデータを管理できます。これにより、8万の販売テナントにデータを配信できます。現在グローバルで130万以上のサプライヤーがこのサービスを利用していて、その中でも13万は当社と直接契約しています。

 AIサービスでは先ほど説明したように、初期投資ゼロでダイナミックプライシングやフィンテックを提供しています。他社と競争することなく顧客の収益性を向上させ、利益を共有するモデルを構築し、より大きな価値を生み出し続けています。当社のAIサービスによって顧客の収益マージンを平均で0.5%向上させています。

image : Yanolja HP

―御社の成長を示す指標を共有いただけますか。

 2024年の第2四半期において、当社のグローバルビジネスであるヤノルジャ・クラウドは、売上高が前年同期比で2.6倍に成長しました。また、韓国外での成長については前年同期比の7倍ほどに成長しています。

 収益性については、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)のマージンが前年のマイナス24%から大幅に改善し、2024年第2四半期には28%に達しました。これは、当社が過去7年間にわたってAIサービスに投資し続けてきた成果であり、長期間の赤字を乗り越えた結果です。

 当社のクラウドソフトウェアとトランザクションソリューションは、データ基盤を通じて多くのデータを収集し、優れたデータ保護とセキュリティを基盤に、多くのAIサービスを提供できるようになっています。その結果、後発のAIサービスを含むデータソリューションが全体の売上の約34%を占めるまでに成長しました。この割合は、今後さらに加速して成長すると見込んでいます。

Googleなどでの経験経てヤノルジャに参加

―ヤノルジャに参加されるまでの経歴について教えてください。

 私は化学工学を専攻しました。当初は化学工場のエンジニアになりたいと思っていましたが、最初のキャリアを通じて、システムとデータ変革がこの業界で最も重要な変化であることに気づきました。ITシステムとデジタル化が、化学を含む業界全体のより大きな進歩に貢献すると信じ、そのためGoogleに入社しました。

 Googleの事業はグローバル展開と破壊的テクノロジーの面で素晴らしく見え、自分でもこのようなビジネスを構築したいと感じました。しかし、経験が十分ではなかったため、アメリカでMBAを取得し、その後McKinsey & Companyに入社し、ITやシステムのコンサルタントとして幅広い企業を支援しました。

 その後、ヤノルジャに参加するのですが、私には3つの重要なテーマがありました。グローバル化、デジタル変革、そして幸福です。特にデジタル変革については、オンライン化とAIを通じたデジタル化が旅行業界を含むすべての分野で重要だと考えています。私はグローバル旅行業界の変革をリードし、より多くの人々と幸福を共有したいと考えたのです。

ソフトバンクも出資する理由とは

―次のステップについてはいかがでしょうか。今後1〜2年で達成したいマイルストーンはありますか?

 当社は、非常に速い成長と大幅な収益性の改善を達成しました。これほど短期間で成長し、収益性の高いAIサービスは、あまり見られないと思います。この成功の理由は大きく2つあります。まず、通常のAIサービスはデータを収集するために多くの投資が必要ですが、当社はすでに優れたデータレイクを構築し、良好なデータ保護とセキュリティを備えた2つのビジネスモデルを展開しているため、新たにデータ収集に投資する必要がありません。これが他社との大きな違いです。

 通常のAI企業は新しい顧客を獲得し、接続を確立するために多大なコストをかけますが、当社はすでに200カ国以上で事業を展開しているため、既存の顧客基盤を活用し、新たな接続にコストをかけずにAIサービスを提供できる点が強みです。この既存の顧客に対して、追加のAIサービスを提供することで、さらなる成長を見込んでいます。

 当社はAIチームへの長期的な投資を行い、独自の大規模言語モデル(LLM)や翻訳ツールを開発してきました。これにより、独自のAIサービスを構築し、顧客の収益性向上に寄与しています。平均で0.5%の収益マージン向上を達成していますが、技術の進化により最大で2%〜3%の向上を実現できると考えています。顧客は何もせずに当社のサービスを利用するだけで、収益性を向上させることができるのです。

 今後も既存のM&Aビジネスモデルを活用して取引量をさらに拡大し、AI能力への投資によって、顧客の収益性向上をさらに進めていきます。

image : Yanolja Cloud Solution HP

―日本企業とのパートナーシップについて、どのような関係が望ましいですか。

 当社はすでに多くの日本のホテルにクラウドソフトウェアを提供しており、今後さらに多くの日本のホテルチェーンとの協力を望んでいます。特に、韓国では当社が最大で最も革新的なクラウドソフトウェアの提供者であり、日本のホテルチェーンも多くが当社のサービスを利用しています。この強固な関係を基に、日本市場においてもクラウドソフトウェアの提供を拡大し、さらなる協力を目指しています。私たちには、日本のホテルチェーンがグローバル化を進めるためのサポートを提供できる能力があります。

 ヤノルジャは韓国最大のオンライン旅行代理店であり、宿泊施設や航空券の予約、エンターテイメント、ツアーなど、幅広い分野で韓国ナンバーワンの地位を誇っています。これにより、多くの韓国人旅行者を日本の観光地に送ることができ、日本のホテルチェーンとの関係をさらに深めるチャンスがあります。

 さらに、当社はすでに楽天トラベルやじゃらんなどの主要な日本の旅行サービスと良好な関係を築いていますが、日本には他にも多くの優れたオンライン旅行代理店が存在します。そのため、こうした企業との提携をさらに強化し、関係を広げたいと考えています。

 また最近では、日本のエンターテイメント企業とも協力しています。多くの日本人旅行者がK-POPコンサートやファンミーティングを目的に韓国を訪れています。当社はそのほとんどの会場を運営しており、日本人旅行者が韓国の文化イベントや音楽スターに触れる機会も増えています。このように、日本と韓国の間で文化的な交流を促進することは非常に有益だと考えており、日本のエンターテイメント企業との関係もさらに広げていきたいと考えています。

―長期的なビジョンについて教えていただけますか。

 我々はSoftBank Vision FundやGICなどのグローバルファンドから投資を受けていますが、その理由は旅行業界の破壊的イノベーションにあると考えています。われわれの目標は、既存の市場価値の上にさらなる付加価値を創造し、業界全体の効率性、生産性、収益性を向上させることです。これにより、旅行業界のすべての企業がより良い消費者体験のために再投資する機会を得られると信じています。

 われわれはAIを活用できる旅行業界専門のデータ基盤を提供し、業界全体の収益性向上を支援したいと考えています。将来的には、AGI(汎用人工知能)などの新しいAIサービスが一般的になると予想されます。そのとき、我々のデータ基盤が、これらの新技術によって活かされ、全く新しい旅行体験を提供できると考えています。

 たとえば、現在はホテルチェックイン時に再度個人情報を求められますが、我々のシステムでは予約からチェックイン、旅行中、チェックアウト後まで、すべてのデータを垂直・水平方向に接続します。これにより、消費者はAGIを使用してよりシームレスなサービスを享受できるようになるでしょう。当社の目標は、ゼロサムゲームではなく、データとAI能力を活用してすべてのプレイヤーを支援する実現プラットフォームになることです。これが、パートナーと共に開発したい未来の姿なのです。



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