細胞・遺伝子治療の産業化を目指す
――まずはVinetiを設立した経緯を教えてもらえますか?
私は子どもの頃から、医療に興味を持っていました。そして、患者支援活動に携わり、そこから個別化医療に非常に興味を持つようになりました。
MBA取得後は、経済的側面から再生医療や遺伝子解析など様々な分野に関わりました。政策の開発に携わったこともあります。30億ドルの資金援助を可決させた、Proposition71(提案71号) カリフォルニア州の幹細胞研究・治療イニシアチブでは、Executive DirectorおよびVice Chairmanを務めました。
Vineti設立前には、GEベンチャーズで、個別化された治療、細胞治療や分子診断などの分野を担当しました。これまで一貫して精密医療や個別化医療に携わり、そしてVinetiの創業に至ったのです。
患者が適切な治療を適切なタイミングで受けられるよう、個別化医療を支援
――御社のサービスを説明してもらえますか。
Vinetiで私たちがやろうしていることは、細胞・遺伝子治療の「産業化」です。細胞治療は、生物学的製剤の中で、サプライチェーン、物流あるいはワークフローの要件が最も複雑です。私たちの目標は、複雑なサプライチェーンの規模拡大を支援し、患者がより簡単に、適切な細胞・遺伝子治療を適切なタイミングで受けられるようにすることです。
Image: Vineti 患者を取り巻く関係者は多く、個別化医療を実施する上で情報連携が欠かせない。
個別化医療とは、患者一人ひとりにカスタマイズされた医療を行うことです。当社は、個別化医療を実現させながら大量生産できる、マスカスタマイゼーションを可能にするプラットフォームを提供しています。
英国の企業TrakCelなど、同業他社はいますが、当社のアプローチとは違います。患者の同一性確認や一連の治療管理などに個別に対応でき、ワークフローとサプライチェーンをオーケストレーションしている、単一プラットフォームを提供している企業は他にはないと思います。
Image: Vineti Vinetiのプラットフォーム。
現在は、バイオ医薬品や医薬品を作る大手製薬会社が主な顧客です。そして、全ての顧客が同じプラットフォームを活用しています。他の同業企業は、顧客ごとにカスタマイズしたソフトウェアを提供していますので、この点で当社は大きく違います。
なぜ当社がプラットフォームを提供する形をとっているかと言うと、私たちの価値提案と目標は、細胞・遺伝子治療の「産業化」であり、市場の創造だからです。
――どんなビジネスモデルをとっていますか。
SaaSです。最初に導入費用がかかり、あとはユーザー数に応じて年間ライセンス料をいただいています。
患者が世界中で適切な個別化医療を受けられるように
――国ごとに違う規制にどのように対応しているのでしょうか?
そうですね、パートナー企業はいますが、当社はまだ若い会社ですので、ある意味“多変量的”にパートナー企業を探しています。資本投資だけでなく、当社の能力を拡張してくれるパートナー、そして、臨床段階あるいは商業段階で当社のプラットフォームを必要としている医療科学に携わっている企業や組織などです。
私たちは、今後例えば米国にいても日本にいても情報が共有され、患者が個別化医療を受けられるフレームワークが構築されることを望んでいます。そして、当社もグローバル展開を前提に事業を進めていきますので、日本でも優秀な人材を雇用したいと考えています。
Vinetiのプラットフォームは、細胞・遺伝子治療を支援するソフトウェアの1つですので、規制の対象にはなっていませんし、FDA申請は不要です。しかし、顧客である製薬会社等がFDA申請する際に必要になるCFR Part11(電子記録)への対応や、HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)や米国外の規則GDPR(EU一般データ保護規則)など、必要に応じて順守しています。
実は、私は2020年4月に訪日予定だったんです。日本市場における細胞・遺伝子治療や幹細胞技術の見通しを日本のパートナー企業と検討し、日本市場でツアーをする計画を立てていました。日本は幹細胞技術における世界的リーダーですし、医療科学の質の高さや、サプライヤーやベンダーが、細胞・遺伝子治療や個別化医療に積極的なことなどから、最重要市場だと考えています。前回、新型コロナウイルスの影響で訪日できず、非常に残念でした。次に訪日できるタイミングを楽しみにしています。