大規模なグリーン水素製造で重工業の脱炭素化を後押し
―2021年5月にグリーン化学企業のChemetryからスピンアウトしたVerdagyにCEOとして就任されました。会社の成り立ちを教えて下さい。
工業化学分野の脱炭素化に取り組んでいるChemetryの創業者が、そのノウハウを応用して大規模なグリーン水素製造を行う企業を立ち上げ、それをスピンアウトしたのがVerdagyの始まりです。Verdagyのスピンアウト時にCEOに就任しました。
Verdagyは、石油・ガス、工業化学、鉱業、鉄鋼、運輸など、重工業の脱炭素化に重点を置き、非常に大規模なソリューションを市場に投入しています。私は、Verdagyが重工業の脱炭素化に貢献するのを見たいのです。
重工業部門に対する脱炭素化への圧力は大きいです。私たちは長期的に脱炭素化を実現するために、これらの部門に大きな変化をもたらす製品を提供できると思います。
最終的に私が望んでいることは、太陽光発電が従来の送電網よりもコストが低くなったように、Verdagyによってグリーン水素が化学燃料よりもコストが低くなる世界を見ることです。そうすれば、何十年、何百年、何千年とソリューションの規模を拡大することができ、地球を助けると同時に、人々の利益にも繋がります。
Verdagyの使命は、化学燃料の既存のコストより低いコストで、より環境に優しい明日を実現することです。
―さまざまな水素製造法がありますが、顧客需要の増加と再生可能エネルギーのトレンドにより、グリーン水素市場は拡大傾向にあると聞きます。
グリーン水素は依然として初期段階にありますが、今後拡大が予想されます。水電解槽の技術自体は非常に古いものですが、今の時代で斬新なのは電解槽を再生可能エネルギーと組み合わせることができることです。なぜなら、太陽光発電と風力発電が非常に安価になっているからです。
自然エネルギーはますます豊富になり、コストもどんどん下がっている。つまり、グリーン水素のチャンスは非常に大きく、今後3年から5年のうちに、どの市場にいるかにもよりますが、補助金の有無にかかわらず、グリーン水素が化石燃料の同等品よりも安くなることは十分に予想され、グリーン水素の市場は拡大することが予測されます。
安価な再生可能エネルギーに水を加え、電解槽のコストさえ下がれば、グリーン水素を大規模かつ経済的に製造することができます。それが2021年以降、私たちが取り組んできていることです。
image: Verdagy 2メガワット電解槽
再生エネを使用したアルカリ電解槽モジュールでグリーン水素を製造
―御社の製品である電解槽技術「eDynamic」について、詳しく教えて下さい。
「eDynamic」は、アニオン交換膜を用いた先進的なアルカリ電解槽モジュールです。使用している電解セルは、インテリジェントなスマートセルであり、必要に応じてパフォーマンスを知らせるデジタル信号を使用して個別に実行する機能があります。また、各セルは高い生産性と高電流密度の動作も可能です。セル一個当たりの水素生成量が増え、電解効率が高いため、必要なセルの個数が少なくなり、安価になります。
さらに、シングル・エレメント・アーキテクチャを使うことで、プラントの出力を上げることも可能です。
再生可能エネルギーが使用できる時は積極的に稼働し、再生可能エネルギーが使用できない時は稼働率を下げることができます。私たちはこれを負荷低減と負荷増加と呼んでいます。このダイナミックな仕様は、再生可能エネルギーとの連携に不可欠です。
つまり、太陽光や風量が十分な時は思いっきり稼動する。太陽も風もない時はプラントを停止させ、例えば化石燃料を使用せずにシステムを動かすことで、最終製品としてグリーン水素を製造することができます。
image: Verdagy
―例えば、日照時間が少ない国はどうなりますか。
太陽光と風を一緒に使うことで、電解槽に必要な再生可能エネルギーを供給することができます。それが、世界のさまざまな地域に当てはまります。日本のように太陽光発電が限られている地域でも、他の再生可能エネルギーと組み合わることができます。
―御社は、2023年9月に「eDynamics」を製造する大型の新施設をカリフォルニア州ニューアークに開設することを発表されました。
新施設は高度な自動化エンジニアリングに重点を置いており、2024年に生産開始を予定しています。カリフォルニアは、同分野に最適なエンジニアがいる場所なのです。私たちはカリフォルニアで自動化エンジニアリングの多くを行なっており、将来的には世界の他の地域でも自動化された大規模なプラント生産を実現することができます。
当社は、電気化学のバックグラウンドを持つ研究者、機械工学の専門家が多くいます。なぜなら、電解槽を製造するときには、化学工学と機械工学が同時に必要になるからです。当社は、これらの領域で優れたリーダーシップを発揮しています。
―また、実証プラントもお持ちですね。詳しく教えて下さい。
2,500平方メートルの大規模な実証プラントです。スピンアウト時に事業譲渡契約書を通じて調達することができました。この実証プラントでは、100キロワット、500キロワット、2メガワットの電解槽が稼働しています。
プラントには、厳重な安全センサーと監視体制が敷かれています。昼間はオペレーターやエンジニアが常駐していますが。夜間は完全自動運転に切り替わり、週末や夜間は自動運転になります。つまり、実証プラントのパフォーマンスを遠隔で監視でき、必要な場合は遠隔で操作できるということです。それ以外の場合、プラントは現場のオペレーターなしで自律的に運用されます。商用プラントに必要な全てを備えた非常に有能な実証プラントです。
さらに、石油・ガス関連の安全基準に準拠して作られており、安全性も非常に高いのが特徴です。
image: Verdagy 500キロワット電解槽
世界の脱炭素化に貢献するために、ギガワット規模のグリーン水素製造者を目指す
―御社はBHP Ventures、Shell Ventures、TDK Ventures、Khosla Venturesなどから総額1億400万ドルの資金を調達しています。資金の使途を教えて下さい。
資金の主な使途は、人材を増やすためのチームの拡大、次に製造の拡大です。そして最後に、可能な限り初期の商業展開を行うことです。そのためにも資金が必要です。
―今後、日本を含めるグローバルで顧客ベースを拡大する計画はありますか?
はい。日本のTDK Venturesとは素晴らしい関係にあります。彼らは私たちにとって素晴らしいアンバサダーであり、日本ゼオンを含む多くの企業を紹介してくれました。
日本は必ずしも巨大な再生可能エネルギー供給国ではありませんが、国として最終的な脱炭素化のリーダーになるという野心は間違いなく持っており、この価値観が当社の価値観と合致していると考えています。
CEO Marty Neese talks about industrial hydrogen at scale from Verdagy on Vimeo.
―今後12カ月で達成する予定のマイルストーンと、長期的なビジョンを教えて下さい。
今後1年以内に、モスランディング以外で最初の20メガワットプラントを生産する予定です。最初の製品を商業化、それを現場に投入し、そこから発展させていく。とても楽しみです。
長期的には、複数の市場でギガワット規模の生産者になりたいと考えています。私たちが計画している自動化は、非常に大規模なものであり、その規模を世界の複数の地域で複製する能力を持っています。そうすれば、脱炭素化に向けて有意義な貢献ができると考えています。