電話による音声通話が主流だった時代と、スマートフォン時代ではカスタマーサポート(CS)のあり方も違うはず。指紋や顔認証で本人確認をしたり、ビデオや写真で情報を共有するなど、昔はできなかったことが今ならできる。このように、企業による顧客への「おもてなしのDX」を支援するのがUJET(ユージェット、本社:米国カリフォルニア州)。TECHBLITZは2020年にCEOのAnand Janefalkar氏にインタビューを行ったが、その後に普及した会話型AI技術の活用や2024年3月に発表したKDDIウェブコミュニケーションズとの業務提携などについてさらに詳しく話しを聞いた。

目次
スマホ時代のカスタマーサポートの形とは
会話型AIを実用レベルで運用
KDDI子会社と提携で日本事業を加速

スマホ時代のカスタマーサポートの形とは

―「おもてなしのDX」とも言えるスマホ時代のクラウド型コンタクトセンターソリューションを構築されていますね。あらためて、御社がCS分野のどのような課題に取り組んでいるのかを教えてください。

 私たちは、友人や家族とコミュニケーションを取るのと同じ方法で、企業とその顧客がコミュニケーションを取れるようビジネスに取り組んでいます。われわれのプラットフォームを使えば、顧客は企業に対して、モバイルアプリやサービスを通じて気軽に問い合わせやコミュニケーションできます。

 顧客体験(CX)やCS自体は新しい概念ではありませんので、この分野は非常に競争が激しいです。現在、多くの競合は自社運用システムからクラウドへの移行を支援することに注力しています。また、チャットボットや音声ボットに特化する企業もありますが、そのような限定的なアプローチでは全体像を見失う可能性があります。企業が製品やサービスを提供する際、エンジニアリング、マーケティング、IT、CX、ブランディングなど複数の異なるチームが連携します。これまでは、各部署の連携がITとの限定的な統合にとどまっており、システムも制約を受けていました。

 私たちは消費者の視点、特にモバイルやスマホをベースにしたアプローチを採用しており、これは競合他社とは異なる手法です。現代人はスマホを使ったコミュニケーションに慣れているため、私たちのアプローチには大きな強みがあります。従来の方法でエージェントにトレーニングを行っても、それが消費者の日常と異なるやり取りを伴うものであれば、本質的な違いが生じます。他の競合他社がレガシーシステムの進化に注力している一方で、私たちはより広範なユーザーエクスペリエンスの拡張を目指しているのです。

Anand Janefalkar
Founder & CEO
インドのムンバイ大学で電子工学の学士号、米国のサザン・メソジスト大学で電気通信の理学修士号を取得。MotorolaやJawboneで重要な役職を務め、さらに複数のテクノロジー企業のアドバイザーを務めるなど、モバイルテクノロジーと消費者コミュニケーションの分野で豊富な経験を持つ。コンタクトセンター業界がモバイルコミュニケーションの進展に追いついていないことを課題に感じ、新たなソリューションを展開するべく2015年にUJETを創業。

会話型AIを実用レベルで運用

―生成AIが台頭し、どのように活用するかがどの会社にとっても重要な課題です。御社は会話型AIをどのように活用していますか。

 社会全体を見渡すと生成AIは現在、主に実験的に使用されることが多く、確実な成果や収益を得られる分野は限定的です。そうした中で、CXは最も注目されている分野の1つと言えます。会話型AIは非常に進化しており、最新の大規模言語モデル(LLM)は、会話の中のフレーズ、発話者の意図、発音、アクセントを正確に把握し、より自然な会話が可能になっています。

 UJETのプラットフォームでは、これに加えて、画像や動画、画面共有、データブロック、位置情報API、エラーコード、最後のタッチポイントの情報なども活用できます。これにより、非常に高度な「仮想エージェント」を提供でき、航空券の予約変更や支払いモデルの検索など、専門的なタスクにも対応可能です。

 こうした機能は消費者だけでなく、企業の問い合わせ対応を行うエージェントや他の関係者にとっても役立つものでなければならないと考えています。私たちのAIは会話の文脈に基づいて仮想エージェントを提供するだけでなく、膨大な知識ベースや複雑な製品情報を理解し、エージェントがリアルタイムで正確な情報を提供できるようにサポートします。

image : UJET HP

 さらに、エージェントの皆さんは会話が終わった後にメモを残したり、要約を書いたりするために多くの時間を費やしますね。これは、エージェントの全体的な効率を低下させる大きな要因です。しかし、われわれのプラットフォームでは、会話の要約やキーワードのハイライト、感情分析を自動で行い、その会話を仮想エージェントに渡すべきか、人間のエージェントに渡すべきかを判断できます。

 会話の要点をメモし、エージェントや技術者が修正を加える機会を提供し、そのデータを要約ツールに組み込みます。さらに、フォローアップのメールやSMS通知を送るべきかなどを自動で判断し、ケース管理システムとの連携も行います。これにより、会話全体がより効率的に進行し、個別のプロセスを効率化するだけでなく、全体の流れを改善することが可能になります。生成AIは非常に強力なツールであると私たちは考えています。

KDDI子会社と提携で日本事業を加速

―会社の成長や、日本でのビジネスについてお聞かせいただけますか。

 私たちは順調に成長しています。特に過去には年々倍増する年もありましたが、2023年は約50%の成長を遂げました。2024年も同じく45〜50%の成長を見込んでいます。今後は特に日本市場に大きな期待を寄せています。私自身も日本での生活経験があり、さらにKDDIウェブコミュニケーションズとのパートナーシップがあることも大きな要因です。何より、日本のカスタマーエクスペリエンスは他国と比べても非常に高い水準にあるため、ここでの展開に大きな意義を感じています。

 私たちのアプローチと視点が、日本市場に適応し、新しい仮想エージェントとして消費者に受け入れられると確信しています。従来の自動音声応答(IVR)システムを置き換えるだけでなく、要約機能や人間のエージェントを支援する機能も提供し、すべての面で高いレベルのソリューションを提供できると考えています。

 特に強調したいのは、私たちのシステムが企業のCRMシステムとの迅速かつシームレスな統合を実現している点です。日本企業は自社開発のシステムや、Salesforce、Zendeskといったプラットフォームを使用していることが多いですが、KDDIウェブコミュニケーションズとの協力により、これまでの6〜12ヶ月かかっていたプロセスから4〜6週間に短縮されるようになりました。

 2024年11月には日本を訪れ、『コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2024』に出展する予定です。その後もこのCRMとの統合に注力していきます。

―今後の長期的なビジョンと、短期的な次のステップについて教えてください。

 私たちのビジョンは、私たちのプロダクトが非常に広く使われることにあります。例えば難しい問題が発生したり、Bluetoothが接続できなかったり、請求書の支払いに問題があったり、ドローンを飛ばそうとしているときに、「UJETに相談しよう」と言えば解決策が得られるような存在になることです。

 私はUJETという名前が動詞として使われるようになってほしい考えています。たとえば、コピーすることを「ゼロックスする」と言ったり、どこかに行くときに「Uberする」や「Liftする」と言ったりするように、UJETも日常会話の一部として広まってほしいです。

 これが最終的に達成したいことであり、大きな影響を与えたい理由です。なぜなら、こうしたサービスが企業にブランドフォロワーを生み出し、人々がその製品やサービスを愛するきっかけとなるからです。現在、企業と消費者のコミュニケーション方法には大きなギャップが存在しており、それを改善することが私たちのビジョンであり目標です。



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