MITのスピンアウトで創業 コンセプトは「どこでも太陽光発電を実現」
Ubiquitous Energyの設立は2011年。マサチューセッツ工科大学(MIT)の科学者とエンジニアによって、太陽光発電技術を日常の製品や表面に透明でシームレスに組み込むことによって、二酸化炭素(CO2)排出量を削減する新しい方法を模索するグループによってスタートした。
創業当初のコンセプトは「どこでも太陽光発電を実現すること」。従来の黒いソーラーパネルではなく、透明にしてビルの窓から電力を供給できる技術を追求したのだ。そして、半導体材料を用いながらも、透明性を維持したまま光を電気に変換する透明な太陽光発電コーティング「UE Power™」を開発した。
CEOのStone氏は、金融を専門分野としてきた。JPMorganにて投資銀行家として主にM&Aに携わったあと、彼女はベンチャーキャピタルに転身した。Stone氏はキャリアの過程で、地球規模の気候変動の課題に興味を持ち、自分たちの世代で解決しなければならないと感じていた。
「私はクリーンエネルギーに興味を持つ中で、Ubiquitous Energyと出会いました。シリーズAのリード投資家として参加して役員となり、2019年にCEOになりました。私にとって重大な決断でしたが、Ubiquitous Energyの技術が成熟しビジネスを開拓する時期に来ていたため、創業者でCTOのMiles Barrと密接に仕事をするうちに、自分が会社の成長に役に立てると思ったのです」
「性能・美観・製造」 3つを兼ね備え、実用化へ 条例も後押し
UE Power™は透明な太陽電池のための素材で、商業施設や住宅に利用できる窓ガラスに発電の機能を提供できる。米国では、国際的な窓・ドアのメーカーであるAndersen Corporationと資本提携し、窓ガラス用の太陽光発電ユニットを提供している。今後は製造ラインを稼働させていく。
日本では、2019年には日本板硝子(NSG)と建物一体型太陽光発電窓の共同開発について合意。2021年には、ENEOSホールディングスから戦略的出資を受けており、技術をライセンスして日本市場に投入する計画だ。2021年9月〜2022年8月の間には、ENEOSホールディングスと日本板硝子は、Ubiquitous Energy製品による透明太陽光発電ガラスの実証実験を国内で初めて実施した。省エネ性能(遮熱・断熱)や発電能力が日本の日照条件や気象条件下で機能するかどうかを検証した。
UE Power™の窓は、高層ビルや住宅にも設置できるため、太陽光ガラス設置のための広い土地を確保する必要がなく、これまで難しかった小さな建物でも発電することが可能だ。
性能についてStone氏は「建物のすべての窓がUE Power™のものであれば、その建物のエネルギー需要の約3分の1を削減できます。UE Power™なら可視光線を通過させますので、従来の太陽光パネルと比較すると効率は低いですが、これまで発電できなかった面で発電できるメリットがあります。従来のパネルとも相性が良いのです」と説明した。
What if every surface invisibly generated renewable energy? from Ubiquitous Energy on Vimeo.
透明な太陽光発電ガラスを提供する競合について尋ねたところ、多くが研究段階でUE Power™のような実用化はなされていないという。Ubiquitous Energyでは、ガラスとして発電装置としての性能や美観に加え、ビジネスが成立するためにガラスメーカーが製造可能なことも重要だ。
米国カリフォルニア州では2020年1月から、新築住宅への太陽光発電設置を義務付けている。2022年12月には東京都で新築住宅への太陽光パネルの設置を義務化するための条例が成立。2025年4月から施行される。このような条例や導入費用の補助などは同社のビジネスを後押しする。UE Power™のガラスを導入するには、既存の窓の代替となるため、メーカーが調達しやすくする必要がある。
Stone氏は「性能・美観・製造の3つをすべて備えているのは当社だけです」と強調した。
Image:Ubiquitous Energy
量産フェーズに向け、製造ライン構築中 「全てのガラス」で発電を
UE Power™は試作を終え、現在は製造ラインを建設する資金調達中だ。Stone氏によると、現在1億ドル規模の注文が数件あり、非常に高い需要を感じているという。目下のチャレンジは、製造ラインの確立とチームの成長だ。これから2年かけて製造ラインをつくり、3年以内に米国市場での量産を開始し、ほどなくして日本市場でも販売をしていく計画だ。
日本市場でのビジネスについてStone氏は「日本において重要なパートナーは、私たちの製品の市場投入にコミットしてくれる方々です。おそらく2つ目の生産ラインは日本に建設するのではないでしょうか。NSGのようなパートナーも迎え入れたいです。そして最も重要なパートナーのひとつが不動産関係者です。ENEOSやNSGにとっても重要な存在です。私が気候テックを好きなのは、多くの関係者と協働したいからです。他のアイデアにもオープンです」とコメントした。
Ubiquitous Energyのビジョンは、2030年までに、新しく設置されるガラス1枚1枚が発電できるようにすること。その先には、太陽に面した部分すべてが電気を作れるようにバリエーションを増やし、多様なニーズに応えていきたいとしている。建物だけでなく、家電製品や農業施設、自動車など、当初のコンセプトである「どこでも太陽光発電」を追求していくのだ。Stone氏は将来のパートナーや顧客に向け、最後に次のようなメッセージを残した。
「太陽は私たちにいつもエネルギーを与えてくれています。私たちが住み、働く建物は創造的で、持続可能であるべきです。そのためには、すべての人たちの力が必要です。開発や建設に携わる方はぜひ当社製品の採用を検討し、創造性を発揮していただきたいです」