インドネシアをはじめ、東南アジアで人気の旅行プラットフォームを展開するTraveloka(本社:インドネシア・ジャカルタ)。ホテル、航空券、交通機関、ツアー、アクティビティなどを検索、予約することができるだけでなく、旅行に関した保険や金融サービスも扱う。パンデミック以前の水準に急速に業績を回復しているという同社のCSO(最高戦略責任者)であるJoydeep Chakraborty氏に、事業の状況や成長戦略を聞いた。

オンラインの旅行予約が未発達のインドネシアで便利な仕組みを提供

 Chakraborty氏は大学を卒業後、主に東南アジアの金融機関において投資銀行業務に従事してきた。対象は東南アジアにおけるハイテク、メディア、テレコムセクターだ。そしてTravelokaとは、取引先として出会う。Chakraborty氏は「経営陣、特に創業者でCEOのFerry Unardiとの出会いが私に深い印象を与え、彼らからの協力要請に私は興味を持ちました。短期間のサポートと考えていましたが、既に4年以上在籍しています」と振り返る。

 Travelokaのアイデアが誕生したのは2012年。CEOのUnardi氏がハーバード大学MBA課程に在籍していた頃のことだ。ボストンから、故郷のインドネシア・パダンへ帰るためのフライトを予約しようとした際、予約できるWebサイトがないことに気づいた。オンラインの旅行業界について調べたが、大手の企業でも東南アジア地域は未整備の状態だったのだ。

Joydeep Chakraborty
CSO
RBS Global Banking & MarketsやMerrill Lynch、UBSなど、およそ12年の間投資銀行業務に従事。東南アジアのハイテク産業の進化を観察し、Travelokaを含む主要プレーヤーをサポートしてきた。2019年にCSOとしてTravelokaに入社。

 その後、2012年に2人の共同創業者が加わり、Travelokaが立ち上げられた。主な目的は、インドネシアという大規模な市場において旅行へのアクセスを解決することだった。初期のステージでは情報提供が主であったが、時間の経過とともにチケットの予約、ホテルの予約など、多様なサービスを展開するようになった。

「当時、インドネシアにおける旅行アクセス事情は、非常に原始的であり、多数の問題を抱えていました。Travelokaは市場における先行者ではありませんでしたが、独自の提案を行いました。当時はフライトの予約確認が取れるまでには、4時間から6時間、場合によっては1日待たねばならなかったのですが、Travelokaによる予約では、即座に予約完了の確認がメールボックスに届くようにしたのです。これが最初のグロースハック(ユーザーから得たデータを分析し、改善してマーケティングの課題を解決していく手法)ですね」(Chakraborty氏)

 当時の支払いから確認までの流れは、ユーザーが支払いを行い、その情報が銀行に送られ、銀行がチェックを行った後、最終的に確認が送り返されるというプロセスだったため、非常に時間がかかった。Travelokaではテクノロジーによって支払い確認プロセスを大幅に高速化し、即座に処理が行えるようにした。

image: Traveloka HP

地域ユーザーに寄り添ったサービス提供で、圧倒的な支持を得る

 Travelokaでは、航空券、バス、電車、レンタカーなどの交通手段はもちろん、ホテルや民泊施設、アトラクションやアクティビティの予約も扱っている。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック以降にニーズが高まった保険や、30種以上の決済サービスなど金融関連の商品も扱う。例えば、ユーザーの決済方法の選択肢を広げるために「Buy Now Pay Later(後払い)」のサービスも提供している。収益モデルはシンプルで、各種サービスの利用で発生する手数料が中心だ。

 主な市場はインドネシア、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、フィリピンの6つ。これらの各市場に深く浸透しているが、中でも最大の市場はインドネシアで高いシェアを誇る。Travelokaの最も重要な競争優位性は、東南アジアのユーザーを対象として設計されていること。そのサービスは極めてローカライズされており、各国のパートナーと密接な関係を築き、ユーザーが求めるサービスを提供している。Travelokaは、東南アジアの多くの旅行事業者をオンラインに移行させ、その事業を支援しているのだ。

「今、東南アジアは非常に重要な旅行先となっています。私たちは、各市場のユーザーに製品を提供するために、多様な市場のパートナーと協力しています。各国のパートナーに対し、当社のサービスに接続する仕組みをAPI(Application Programming Interface)として用意しています。これによって柔軟に対応することが可能です。Travelokaはこの地域に需要を生み出し、多くのリピーターを生み出して、パートナーと一緒に成長してきたのです」(Chakraborty氏)

 Travelokaの月間のアクティブユーザー数は平均で4200万〜4500万人。パンデミック以前の2019年は約60億ドル近くの売り上げがあったが、2020〜2021年はコロナ禍によって苦戦を強いられた。この間、ライブストリーミング、ゲーミフィケーション、食品配達などのサービスを立ち上げてユーザーを失わないように努めたという。そしてパンデミック関連の規制が緩和された2022年以降は、これらの活動は停止し、本業の旅行分野にフォーカスし、2023年には2019年頃の取引レベルに回復しつつあるという。

「まだ完全に健全な状態に戻っていませんが、全力で前進しています。各市場には未開拓の領域があり、成長の余地が大いにあります。日本も含めてより大きな影響力を持つ存在になろうとしているのです。今後12〜24カ月には、各国のパートナーと協力しながら、より強いプレーヤーになりたいと考えています」(Chakraborty氏)

日本においても、旅行事業者やSI企業のパートナーシップを求める

 Chakraborty氏は、日本企業とのパートナーシップについては、2つの視点があるとした。1つは、Travelokaユーザーの訪日だ。そのために旅行サービスやアクティビティを提供できるよう、多くの日本企業とのパートナーシップを求めている。もう1つの視点は、日本に住む人がTravelokaを利用して東南アジアを訪れることだ。旅行事業者だけでなく、システム統合のパートナーも必要としているのだ。Chakraborty氏は、「このテクノロジーはそれほど複雑なものではないが、日本や他の市場で、できるだけ多くのパートナーと協力したいと考えている」と語った。

 創業から10年以上もの間、東南アジアのオンライン旅行市場をリードしてきたTraveloka。長期ビジョンは、この地域でのリーダーシップを保ち、ExpediaやTrip.comに並ぶ、世界的なブランドへと昇華させることだ。Chakraborty氏は最後に次のように呼びかけた。

「私たちは、東南アジアの旅行を重要なビジネスと考える方々とのパートナーシップに対して非常にオープンです。日本での需要を掘り起こすことができるパートナーを求めています。我々は若くて機敏です。皆様の要求に柔軟に対応できますので、ぜひお問い合わせください」



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