Tines(本社:アイルランド・ダブリン)は、企業のセキュリティチーム向けのノーコード自動化プラットフォームを提供しているスタートアップである。自動化できる作業は自動化し、セキュリティ担当者がよりインパクトのある仕事に集中できるようにするための使いやすい製品を作り、「世界で最も信頼されるノーコード自動化プラットフォームになること」をミッションに掲げるTines。共同創業者でCEOのEoin Hinchy氏に起業のきっかけやノーコード自動化の特徴、日本進出への可能性など聞いた。

自身も経験したセキュリティが抱える問題を解決すべく起業

――Hinchy氏の経歴とTinesを立ち上げたきっかけを教えて下さい

 私自身はサイバーセキュリティに15年ほどエンジニアやチームの責任者として携わっていました。eBayやPayPal、DocuSignなどのセキュリティチームに所属し、インシデントレスポンスからセキュリティオペレーション、統合脅威管理、サイバー脅威ハンティングなど、かなりテクニカルな分野を担当していました。

 正直に言うと、当初は「起業しよう」という野望は持っていませんでしたが、インシデントレスポンスやセキュリティチームの監督に携わる中で、私自身が「手間のかかる作業が多い」「人手が足りない」「インシデントを避けることができない」という大きな問題に直面しました。

 具体的には、繰り返し行われるルーティンワークで過労に陥り、ヒューマンエラーによって企業に多額の損失が出てしまうようなことを目の当たりにしたのです。私自身が経験した問題を解決するため、独自のノーコード自動化プラットフォームを開発し、2018年にTinesを設立することになりました。

Eoin Hinchy
Co-Founder & CEO
Technological University Dublinで学士号、Dublin City Universityにてセキュリティとコンピュータ・フォレンジックの修士号を取得後、約15年間に渡り、企業のサイバーセキュリティに携わる。eBayのグローバル脅威管理チームにおけるシニアエンジニア、DocuSignでサイバーセキュリティのシニアディレクターなどを勤めた後、2018年にTinesをThomas Kinsella氏 (Co-Founder & CCO)と創業。CEOに就任し現在に至る。

――御社のノーコード自動化プラットフォームの特徴や他社製品との違いを教えて下さい。

 私たちが必要としていたのは、セキュリティチームが単調な作業から解放され、会社に付加価値を生み出し、彼らのスキルをより有効に活用できるようなプロジェクトに集中できるようにすることでした。自動化できるものは自動化してしまい、セキュリティの担当者はより高度な専門性を必要とされる業務に専念することができます。

 さらに、フィッシング攻撃への対応、不審なログイン、従業員の入退社などのプロセスを、ドラッグ&ドロップ操作で自動化することが可能です。自動化はチームの作業を数日から数週間短縮し、セキュリティ専門家をインパクトの大きいプロジェクトに集中できるようにし、全体の生産性を向上させる可能性を秘めています。

 自動化の領域について考えてみると、大きく分けて3つのカテゴリーがあります。1つ目は非常に使いやすいシンプルでコード不要の自動化プラットフォームです。シンプルなものは、メールを受信し、Salesforceで自動的にリードを作成することはできますが、それよりも複雑なこと、あるいはもう少しクリティカルなことをしようとすると、これらの製品は適さないでしょう。

 2つ目は、UiPathやAutomation AnywhereのようなRPA(Robotic Process Automation)ツールです。人間が手作業で行っているルーティン業務をロボットで自動化することができ、ポイント・アンド・クリックの自動化に非常に適していますが、堅牢性という点ではあまり優れているとは言えません。

 3つ目は、エンジニアでなければできないコードベースの自動化です。つまり、コードを書くこと、ソフトウェアの整備、インフラの管理、そしてそれらを実装するためのソフトウェアエンジニアであることが必要になってきます。

 Tinesの製品は、これら3つの良いところを取り入れて1つの製品にしているのです。カスタムコードと同じように、パフォーマンスと堅牢性に優れていて、かつ単純化された自動化製品のように使いやすいのです。

Image:Tines

設立4年で3倍の売り上げを記録。急成長を遂げ、日本進出にも意欲

――御社は最近米国ボストンにもオフィスを開設しています。従業員は現在(2022年11月取材時点)、何名ほどいらっしゃいますか?

 全世界で約160名のスタッフが働いています。2020年3月にCovid-19の流行が始まったときは5人だったので、ここ数年で非常に速いスピードで成長しています。

 従業員160名のうち、大半は米国にいます。エンジニアリング、プロダクト、デザインの仕事の多くはダブリンとボストンの間で行われ、主に市場投入、カスタマーサクセスは米国を拠点としています。欧州には約50人、そしてアジア太平洋地域、オーストラリア、シンガポールにも数人のスタッフがいます。嬉しいことにここ数年で、売上も毎年3倍に伸びており、今年も3倍を見込んでいます。

 私たちがここまで成長できたのは、お客さまに提供した価値が高く評価された結果だと思います。企業内で自動化を進めたいというニーズがある一方で、組織内のセキュリティを強化する手段としても、私たちの製品への需要が高まっているのです。

――本当に急成長されていますね。国際的に既に展開されていらっしゃいますが、日本への参入はお考えでしょうか?参入する場合、どのようなパートナーシップを求めていらっしゃいますか?

 自動化に携わる私たちにとっても、日本は非常に興味深い市場ですし、拡大の可能性は十分にあるでしょう。日本の文化は、他の国の文化よりも進んで自動化を受け入れていると思います。ですので、ヨーロッパと北米の中核市場以外では、日本が最も重要な市場の1つと捉えています。

 私たちはすでにアクセンチュアやデロイトのようなグローバルなシステムインテグレーターと良好な関係を築いていますから、日本におけるパートナーシップを探すうえで重要な事は現地のシステムインテグレーターでしょう。

 日本でやるべきことは、効率的に業務を拡張できるようなセキュリティ・ツールへの投資を検討しているMSSP(Managed Security Service Provider)を見つけることです。北米ではすでに多くのMSSPの顧客がいるので、日本においても重要な顧客層となると思っています。

Image:Tines

世界で最も信頼されるノーコード自動化プラットフォームを目指す

――2019年から累計9620万ドルの資金調達をされています。直近のシリーズBではBlossom Capital やAccelなどから出資を受けています。有力な投資家を引き付ける魅力は何だとお考えでしょうか?

 私たちが大きな成功を収めた理由は、DatabricksやCanva、Auth0、Okta、CrowdStrikeなど、非常に重要かつ影響力を持つ企業が私たちの顧客だということです。彼らは皆、最も重要なワークフローの多くに当社の製品を使用しています。製品の質、顧客の質、市場の質、この3つが、私たちが優秀な投資家から資金を調達することに最も成功している理由だと考えています。

――調達した資金の使途を教えて下さい

 私たちは、製品にとても重点を置いている会社です。自分たちが誇れるだけでなく、顧客やユーザーに大きな付加価値を与える製品を作ることに、全力を注いています。ですから、今回の資金調達で行う投資の大部分は、主に研究開発、製品、エンジニアリングに充てるつもりです。もちろん、チームの成長をはじめ、パートナーシップや海外展開などにも投資を続けますが、資金の大半は、製品の革新的な開発をさらに推進するために使うつもりです。

――最後に長期的なビジョンを教えて下さい。

 私たちは、世界で最も信頼されるノーコード自動化プラットフォームになることを目指しています。Tinesの製品の使用率をさらに増やし、製品への投資を続け、より使いやすく、よりパワフルに、誰もが信頼できるような製品を開発し続ける予定です。そして将来はサイバーセキュリティ以外の分野、例えばインフラやIT、クラウドなどにも進出していくことになると思います。

 企業の誰もが繰り返し行う作業を自動化し、よりインパクトのある作業に集中できるようにするための使いやすい製品のニーズは、今後ますます高まっていくと思います。自動化はより一層、進むでしょう。そのため、私たちはすべての人がより成功するための支援をすることができる唯一無二の存在であり続けたいですね。



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