大手ゲーム会社のライアットゲームズ、ブリザード、バンジーなどで活躍したメンバーが集結した新ゲームスタジオTheorycraft Games。2021年3月にシリーズAの資金調達で3750万ドル(約40億円)を調達し、コミュニティ主導型PVPゲームの開発を目指している。1万時間プレイできるほど没頭できるゲームづくりを目指すという、創業者兼CEOのJoe Tung氏に話を聞いた。

世界的大ヒットゲームに携わった専門家たちが集結

――これまでの経歴と、Theorycraft Games設立の経緯をお聞かせください。

 私は2013年から2020年までライアットゲームズに所属していました。『リーグ・オブ・レジェンド』のエグゼクティブバイスプレジデントを務め、経営、R&Dのほか、グローバルeスポーツに関連した職務も担当しました。ライアットゲームズの前職ではバンジーで『Destiny』のエグゼクティブ・プロデューサー、『ヘイロー:リーチ』のエグゼクティブ・プロデューサーなどを務めました。

 パンデミック以降、私はライアットゲームズで休暇を取り、次のやりたいことはなんなのか、じっくりと考えました。そしてすぐに、ゲーム会社を立ち上げることにして、2020年の11月に創業メンバーとともにTheorycraft Gamesを立ち上げました。

Joe Tung
Theorycraft Games
Co-Founder & CEO
人気ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)』を提供するライアットゲームズにて、エグゼクティブバイスプレジデントのほか、R&D、グローバルeスポーツに関連した職務を担当。ライアットゲームズの前職は「ヘイロー(Halo)」などで有名なバンジーでエクゼクティブプロデューサーなどを経験。バンジーの前職はマイクロソフトでプログラムマネージャーを務めた。1994年から1995年には上智大学でも学んだ経験も持つ。2020年にTheorycraft Gamesを設立し、CEOに就任。

 ゲーム会社を設立することは10年ほど前から考えていましたが、Theorycraft Gamesの創業には、2つの大きな理由がありました。ひとつは、ゼロから何かを作り上げたいということと、もう一つは、創業者全員がその意思を共有していることです。ゲーム業界にいて、それぞれの技術に精通した小さなチームが高速に活動することは、とてもエキサイティングです。

 創業メンバーは私を含めて5名です。PC向けゲームの開発者もいれば、トリプルAクラスのコンソールゲームを開発した者など、皆が世界最大級のゲームに携わってきました。私たちにとって、ゼロから何かを作り上げることは、私たちの誰もがやったことがない最後のフロンティアなのです。

 この3月に素晴らしいパートナーから資金調達ができたことに、本当に感謝しています。今回得られた資金は、チームの構築のために利用します。創業後に新たに2名が加わり、さらに4月以降に入社するメンバーもいます。

達成感とコミュニティを重視し、1万時間も費やしたくなるゲーム作りを目指す

――どんなタイプのゲームを提供するのでしょうか?

 「Theorycraft」とは、プレイヤーが最も深くプレイするゲームに与えられる名誉です。私たちは、何時間も没頭できるゲームを作ろうとしているのです。また、コミュニティも重視した作品にしたいと思っています。

 ゲームは人間の欲求に応えるものだと考えています。特に注目しているのが、「習得」と「帰属」のニーズに応えることです。たとえば、『リーグ・オブ・レジェンド』では、何かを習得し、リアルな達成感を得ることができます。本当に深く没頭できるゲームは、何度もこれを繰り返して、常に自身を向上させることができます。

Photo: Jimmy Tudeschi / Shutterstock

 コミュニティによる帰属も重要で、友達と一緒にプレイすることでより良いものになり、そして1万時間も費やしたくなるような深みのあるゲームを作りたいのです。そのために最適なのは、対戦型のPVP(Player Versus Player)だと考えています。

 パンデミックは私たちの生活の中に孤立を与えました。一方で、ゲームは友人や家族とのつながりを保つために有効な手段です。コミュニティとつながって「習得」と「帰属」の空間でプレイするのはとてもすばらしいことです。

 リリース日は決まっていませんが、できるだけ早く市場に投入したいと考えています。ゲームはサービスとして提供しますので、ラフな状態で市場に投入し、改善していくような運営ができると考えています。2年以内にはアーリーアクセスできる状態にしたいです。

――パンデミックはゲーム業界にどのような影響を与えているか、もう少しお聞かせください

 ゲーム業界はパンデミックで大きく成長したことは明らかです。既存のプレイヤーのプレイ時間は長くなり、新規のプレイヤーも増えています。私には8歳の娘がいるのですが、何百時間もゲームをプレイして、いとこやクラスメイトと連絡を取り合っています。おそらくパンデミック収束後も親しい人とつながるためにゲームをしたいと思うでしょう。

Photo: Pixel-Shot / Shutterstock

 一方で、パンデミックの最中に会社を設立することはとても難しいです。それぞれが自立して動く人材が必要になります。同じ部屋にいられないときでもコミュニケーションやコラボレーションを高度に保つための投資も必要です。実は、当社に新たに入社する人には、実際に会ったことがない人も多いです。今後、世界で最も優秀な人材を確保したいのであれば、全員がリモートで生産性を上げられるようにしなければならないでしょう。

日本のゲーム市場は特殊。ともに成功を目指すパートナーを広く募集

――ゲームは世界中の市場が対象になると思います。日本市場での提供も考えていますか?

 私たちは、世界のどこに住んでいても、プラットフォームに関係なく、プレイヤーがいる場所すべてに存在したいと考えています。私は大学時代に上智大学で1年間学びましたので、日本に住んでいたことがあります。当然、日本のプレイヤーに私たちのゲームを提供したいと思っています。

 ゲームに関しては、日本はとても興味深いです。業界の歴史もあり、売上高では世界有数の市場の1つです。しかし、日本以外の企業が参入するのは非常に難しいのです。世界的にヒットした『リーグ・オブ・レジェンド』は、何年もかけて試行錯誤したにもかかわらず、日本での足場を築くことができませんでした。アジアの中でも独特で、非常に特殊な市場なのです。欧米のデベロッパーが参入するのは非常に難しいと感じています。

 日本市場に参入する際に、さまざまなパートナーシップを受け入れることができると思いますので、私たちに興味を持ち、日本市場で勝つための手助けをしてくださる方がいらっしゃったらぜひ話をしたいです。

――今後の展望や長期的なビジョンをお聞かせください。

 現在、自分たちのゲームが、1万時間のプレイに耐えられるか、日々テストして確認・改善をしています。その確証を得られたら、すぐに市場に投入するでしょう。そのあとも改善を続けていくだけです。ゴールは、持続可能なゲームタイトルを成功させることです。

 何があっても常にプレイヤーにこだわり、深く、正直な関係を築きたいと思っています。彼らの声に耳を傾け、彼らが気にかけていることを理解し、ほかのどのゲーム会社よりも彼らのニーズに応えていきます。そして最後に、私たちは、ゲーム業界で最高の才能を持つ人たちが、自分のキャリアの中で最高の仕事ができる場所になれると思っています。世界で最もディープなゲームを作り、ゲーム業界で最も優れた才能を持つ人々の本拠地となりたいと考えています。しかも、永遠にです。



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