EVに代わるビジネス開発 toBのドローンに着目し創業
Terra Droneは、電気自動車(EV)産業を日本の技術力でリードする企業を目指して、2010年に創業されたTerra Motorsのグループ企業だ。関氏はTerra Motorsの創業直後から同社の経営に参画していた。そのきっかけを次のように語る。
「日本経済への危機感が広がる時代のなかで、ソニーやトヨタのように海外の方からも親しまれる企業を作りたいという思いから、創業間もないTerra Motorsに参画しました。フィリピンに2年、インドで3年滞在しながら目の当たりにしたのが、EV事業で先行する企業の強さです。テスラ(Tesla)は2008年にEV製造に参入していましたし、私たちが手がけていたローエンドの二輪・三輪のEV製造分野では、中国系のリチウムイオンメーカーなどさまざまな業種の企業が早々と参入していました」
「世界で勝てる」新領域へのビジネス開発を模索するなかで、有望視したのがドローンビジネスだ。
「次の時代の一大産業としてドローンが来ることは確実でした。当時のドローンビジネスはドローンメーカー大手のDJIをはじめとしてBtoCがメインでしたので、法人向けにドローンを活用したソリューションを提供すれば世界に展開できるのではないかという着想から、新たな事業の柱となることを念頭に、2016年にTerra Droneが創業しました」
インフラ点検、農業、物流、エアモビリティなど、ドローンの高性能化・小型化によりビジネス市場も拡大の一途をたどっている。しかし、Terra Droneの道のりは決して順風満帆ではなかったと、関氏は振り返る。
「一番難しかったのは、顧客から理解を得るまでのプロセスです。当時はまだドローンがオモチャ扱いだったころで、我々の提供する測量ソリューションに対する『こんなもので測量できるのか』『精度が出せるのか』といった顧客の疑念を解消するところからのスタートでした」
「実際にドローンを飛ばし、成果物となる3Dデータを見てもらってようやく納得いただけるというプロセスを繰り返しました。新しい技術への理解は、時代とともに徐々に浸透するもので、特に日本企業は保守的な感覚が強かったため、最初は大変でした」
映像撮影用に高解像度のカメラを搭載したドローンが測量にも使えるのではないかとのアイデアが、事業へと結び付いた。
Image: Terra Drone HP
「老朽化・人手不足・非効率」インフラの課題を解決へ
2016年の創業時12人だったTerra Droneの従業員数は、2022年12月末には80人へと拡大。創業から4期目で黒字化し、売上営業利益ベースでは毎年増収増益を記録するなど、着実な成長が続いている。その要因として関氏は前述の「ドローンに対する理解の浸透」に加え、「機能の進化」「規制の変化」の2点を挙げる。
「以前は両手で抱えるほどのサイズだったドローンが、カメラやバッテリーが高機能化・小型化されたことで手のひらに載るサイズになりました。各種スペック値は倍以上になり、測量精度も上がっています。さらに、安価になったことで企業の導入スピードが加速度的に上がりました」
「テクノロジーの進化に伴う規制の変化も大きな要因の1つです。行政側によりドローン環境整備の一環として規制が定められ、事業者がドローンを安全に飛ばせるようになりました」
同社のドローン事業の柱となっているのが、ドローンを活用した「測量」と「点検」だ。従来、人の手で行われていた土木測量や有人航空機などを利用していた森林測量も、ドローンを使えば作業日数は大幅に短縮できる。また、地形データをCADにインポート可能な3Dデジタルデータにすることも可能だ。デジタル化により「現場の親方の勘に頼っていた工事の進捗も一目で確認できる」(関氏)というメリットもある。
また、点検分野の安全性向上と効率化にもドローンは欠かせない役割を担うと関氏は語る。
「例えば、足場が組めずに人の手が届かない所にドローンを飛ばすことで、撮影による点検ができます。それまで見えなかった部分も安全に確認でき、3Dデジタルデータも取れるようになります」
同社は、自社開発製の特許取得済みである測量用・点検用ドローンを、日本を含む10カ国で石油ガス・化学・建設業界などへ提供している。
「国内において、道路などの土木系インフラや、ケミカルプラントなどの産業インフラの両者に共通する課題は、1964年の東京五輪前後に作られたインフラの老朽化と、若年層の労働者が入ってこない慢性的な人手不足、非効率な作業の多さです。これらの課題をドローンを使って効率性と安全性を高めることで解決しています」
「空飛ぶクルマ」業界への参入と管制システムの強み
Terra Droneがもう1つの事業の柱として現在注力しているのが、次世代の移動手段として開発が進む「空飛ぶクルマ」だ。同社は2021年9月に空飛ぶクルマ事業への参入を発表。2025年の大阪万博会場での実証を目的とした、ドローンとヘリコプターを用いた大阪府との実験も2023年1月下旬に共同実施した。
また、国土交通省と経済産業省が共同で設置した「空の移動革命に向けた官民協議会」にも参加している。測量・点検時の目視外飛行などですでに実績を持つ「Terra UTM」(ドローンの運航管理システム)も強みだ。UTMとは、無人機運行管理システム(Unmanned Aerial System Traffic Management)の略。これらのソリューションを活用し、来たるべき空飛ぶクルマ社会の課題解決に貢献したいと関氏は述べた。
「例えば今後、富裕層向けの羽田空港・成田空港行きシャトルバスのような形で、空飛ぶクルマが利用される時代になってくると考えています。これからの課題として挙げられるのが『空のインフラ整備』です」
「事故の防止には欠かせないドローンの管制システムとしてUTMがすでにあるものの、空飛ぶクルマの運航は従来の飛行機のように空港のみで離着陸するのではなく、離着陸地点が分散します。しかも空の飛行と道路走行も行いますから、空飛ぶクルマ用の航空管制システムが必要になります。ハードウエアとソフトウエアの融合という我々の強みを、空飛ぶクルマの航空管制システム開発で活用しています」
さまざまな企業と提携 リスクへのコミットメントが重要
Terra Droneは、早稲田大学と共同でドローン搭載型レーザー「Terra Lidar」を開発した。2021年には、開発・生産・操業業務におけるDX推進でINPEX(旧社名:国際石油開発帝石)との資本業務提携を、空飛ぶクルマ事業では三井物産、三井物産エアロスペースと業務提携を発表するなど、大学や企業との提携・協力関係を結んでいる。では、今後の日本企業との提携の形について関氏はどう考えているのだろうか。
「点検領域では建設、ガス、電力などのインフラ企業、空飛ぶクルマ領域では航空関連企業や、航空管制系のSIerなど、多岐にわたる企業との提携を進めています。提携の形態では、事業会社との資本業務提携が基本です。共同開発や共同研究も行いますが、いずれにせよ資本提携をしたうえでのソリューションを作り込むためです」
「代理店による拡販も同様です。最近では西華産業から出資を受けましたが、同社の持つ販売チャネルには発電所などのエネルギー事業者があり、そのルートを通じて拡販につなげることも視野に入れています。どのような形の提携にせよ、ドローンビジネスは新規事業であるがゆえに、お互いにリスクを取って取り組まないとうまくいきません。お互いのコミットメントが大変重要になるため、資本業務提携を前提とした協業を今後も行っていきます」
流行に乗ってドローンを導入するのではなく、「自社の課題を正しく認識・理解して、課題に対してリスクを取ってでも取り組む判断ができるかどうかが、パートナー選びでは一番重要」と関氏は説明する。また積極的に進めているのが政府機関との連携だ。
「i-Constructionでも協力している国土交通省、経済産業省との連携協力も重視しています。国との連携協力では、国土交通省傘下の官民ファンドである海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)からの出資を受けておりますので、省庁や政府機関の主催するイベントにも呼んでもらう機会もあります。これらのコネクションをさらに広げたいと考えています」
より大きな海外市場への展開については、コロナの影響で一時的にストップしていたが、今年から海外企業との提携や営業を積極化させたい意向だ。
Terra Droneの強みは「ハードとサービスを融合したドローンソリューションの提供、そしてグローバルなドローンネットワークを持っている点」だと関氏は言う。「ドローンの黎明期からM&Aを行い、中長期的にUTMにも投資している企業は少ないでしょう。複数のプロダクトが当社の海外拠点から、国際的に横展開できているのも強みといえます」
Terra Droneはこれまでも、オランダのドローン点検技術開発会社Terra Inspectioneeringの完全子会社化、インドネシアのUAVサービス企業AeroGeoSurveyとの共同出資によるTerra Drone Indonesiaの設立など、高い技術力を持つ企業の買収を優先的に行ってきた。現在も「ソフトもハードも理解しているROS(Robot Operating System)エンジニアの採用に力を入れている」という。
同社が描くマイルストーンは「2025年までにエンタープライズドローンプラットフォーマーになること、そして2030年にUTMのプラットフォーマーとなり、空の移動革命を起こすこと」。そのためは「2025年までに空飛ぶクルマが流行している環境作りが必要となる」と関氏は語る。空飛ぶクルマ社会が直面する課題をクリアする技術力を、同社は今後も磨いていく。