Splashtopの創業者たち。右から2番目がCEOのMark Lee氏(Photo: Splashtop)
リモートワークの課題に、社内ネットワークへのアクセス手段や、自宅での勤務環境の再現がある。これを解消するソリューションのひとつがリモートデスクトップであるが、パフォーマンス面での懸念があった。2006年創業のSplashtopは、エンタープライズでの利用に耐えうる高いパフォーマンスとセキュリティでリモートワーク環境をサポートする企業。近年、高い収益性とともに成長を続け、2021年にはシリーズE、5000万ドルの調達を果たした。台湾出身でアメリカ移住し、MIT(マサチューセッツ工科大学)卒業後は一貫してソフトウェア事業に携わってきた、同社の共同創業者でCEOのMark Lee氏に、製品の特徴や成長戦略について聞いた。

機密性や高い処理能力が必要な業務のリモートワークを支援

 パンデミックの影響で在宅勤務を展開する企業が増えた。従業員にPCやタブレットなどの端末を個人に支給する場合もあるが、機密情報を社外の端末にコピーすることを禁止するポリシーを持つ組織や、高性能のワークステーションを使った業務のため同じような端末を支給するわけにはいかない組織もある。また、社外から社内ネットワークにアクセスする場合、VPN接続をしてセキュリティを保つようにしている組織も多いが、社外からのアクセスが増えると、VPNの処理能力が問題となり、業務に支障を来すといった課題も現れている。

 そのような場合に有効なのが外部の端末から社内の端末を操作できるリモートデスクトップだ。従来のリモートデスクトップ製品には、データの参照程度なら良いが、社内のコンピュータを直接操作するほどのパフォーマンスが見込めないといったイメージがあった。Splashtopは、そんな常識を覆すパフォーマンスのソリューションを提供し、大きく成長している企業だ。  

 現在の中心となる製品は、外出先のノートPCやタブレット、スマートフォンなどのデバイスから社内のコンピューターに接続して操作できるリモートデスクトップサービス。1秒あたり30フレームでリアルタイムに高速描写する最新技術を採用。VPN接続過多によるパフォーマンス低下を気にせずユーザーを拡張できるスケーラビリティも魅力のひとつだ。外出先から会社PC接続して資料作成をしてメールを送信するような事務仕事だけでなく、ハイスペックな処理が必要な画像、動画編集の業務にも耐えられるのが売りだ。アニメ映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』などを製作する株式会社カラーもユーザー企業のひとつである。

 コロナ禍のリモートワーク需要を受け、Splashtopの売上は2020年に前年の2倍。日本においては4倍の成長を遂げた。この背景について共同創業者でCEOのMark Lee氏は「欧米では、ディズニー、CBS、NBC、BBC、ディスカバリーチャンネルなどの放送局が遠隔地からビデオ編集のために利用しています。ビデオ編集にはパワフルなワークステーションが必要ですが、コロナ禍以降、Splashtopのパフォーマンスを知った数々のメディア企業やゲーム企業が顧客になりました。これらの企業だけでなく、HarvardやCornell 、MITなどの大学などの研究機関も採用しています」と述べた。

Mark Lee
Splashtop
Co-Founder & CEO
台湾で生まれ、13歳のときにLAに移住。MITで学んだときに共同創業者たちと出会う。卒業後はソフトウェア企業をつくり、アジアにソフトウェア開発のチームを作ってアジアの製造業と密接に関わった。2004年にその企業を売却後、2006年にSplashtopを起業。

独自の技術による画面描画の最適化で、快適な操作をサポート

 Splashtopは最近登場したプロダクトではなく、2010年ごろ、iPadからWindowsパソコンなどを操作する個人向けアプリとして登場した。一躍人気となり、その後AndroidやPCとプラットフォームを拡充し、エンタープライズ向けの製品に発展していった。

 リモート環境でもユーザー体験を損なわないパフォーマンスを提供する秘密は、ユーザー環境によって最適化をする技術にある。Lee氏は「リモート描画は、フレームレートと解像度のトレードオフになります。私たちの技術は、ユーザーの使っているマシンのGPUやプロセッサの特性や、ネットワーク環境などをとらえて自動的に最適化できるようにしています。IntelやNVIDIAとも協力しながら、独自の特別なライブラリによって、パフォーマンスを最大限に引き出せるようにしています」と説明した。

Photo: Splashtop

 なお、2021年3月にはワコム社から技術提供を受けて開発したリモート環境でペンタブレットが使える機「リモートスタイラス」も発表。微妙な筆圧や傾きをリモート環境においてもリアルタイムに感知して利用できるなど、さらなるユーザー体験向上を果たしている。

 エンタープライズのソリューションとしては、パフォーマンス面だけでなくセキュリティも重要となるがこの点も抜かりない。企業が利用するシングルサインオンやディレクトリサービスの統合や、オンプレミス環境での動作もサポートしている。映像制作など現場では、業務委託のスタッフもいる。たとえばプロジェクト期間中はデータを編集できるが、終了したらアクセスできなくなるなど、各種権限の設定も管理者がリモート環境から設定可能だ。

Photo: Splashtop ユーザーがコンピュータにアクセスできる時間をスケジュールできる。

高い成長・収益性を維持しながら、未開拓の地域と業界への参入に意欲

 日本市場では2012年に支社であるスプラッシュトップ株式会社を立ち上げ、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった通信事業者を介した販売が功を奏し、順調に業績を高めている。

 今後の日本での展開についてLee氏は「Splashtopは、リモートデスクトップだけでなく、リモートでのサポートや、機器のモニタリングにも力を入れています。たとえば、工場のロボットや、物流現場で使われる端末の管理です。アメリカのFedex社では、荷物を届けるためにスキャナーを利用していますが、現在、その20万台のスキャナーをSplashtopで管理・監視しています。日本においても同様に、製造業や金融機関、医療期間、エネルギー、建設など業界に特化したソリューションを提供していきたいので、各分野のチャネルパートナーとの関係を構築していきたいです」と語った。

 現在のスタッフは米国に85名、日本が20名、そしてLee氏の地元である台湾に90名ほど。台湾には製品開発とサポートチームが組織されており、日本の顧客への手厚いサポートが可能な体制となっている。

 なお、Splashtopの地域別売上シェアは、米国・英国が60%、オーストラリアやカナダが10%、日本が25%となっている。残り5%は、ドイツやフランスなどの非英語圏のヨーロッパ市場で、ここを拡大するために、オランダに支社を開設する予定だ。

 パンデミック収束後もリモートワークやリモート学習の需要は続き、従来のVPN接続ではスケーラビリティやパフォーマンスが十分でないでないため、リプレイスの需要があるとし、今後も成長を見込んでいる。2021年もグローバルで2倍の成長を目標としているというLee氏は、今後の展望について次のようにコメントした。

「シリコンバレーのスタートアップ企業は急成長する一方で、多くの資金を費やしています。私たちのユニークな点は、成長しながら現金を生み出している点です。SaaS企業には、40%成長できれば利益率はゼロでもいいという『40%法則』がありますが、私たちは長期的には常に60%以上の成長をし、40~50%の利益をあげたいと思っています。急成長しながらも非常に高い収益性を実現しようとしているのです。そのために、顧客ロイヤルティを図るNPS(Net Promoter Score)も重視しており、現在のところ業界でも高水準の90%を獲得しています。今後も高い顧客満足を維持し、成長していきたいです」



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