メールをレガシーに追いやる
―Slackはメールに取って代わるコミュニケーションツールだと言われていますね。どんな点が優れているんですか。
Slackはオンラインのビジネスチャットツール。社内で簡単にメッセージやファイルのやり取りができ、チームの生産性を高めます。メールとの違いをいくつか挙げると、まずリアルタイムかつ簡単にコミュニケーションできる点。ドラッグ&ドロップするだけでファイルをメンバーと共有でき、メンバーはそれにコメントをつけてフィードバックすることもできます。
多数の外部ツールと連携していて、それらをSlack上で容易に利用できる点もメールにはない特徴です。現在、Google Drive、Dropbox、GitHubなど600以上の外部ツールと連携しており、来年にはBoxやSalesforceなど、100種類以上のビジネスコミュニケーションツールなどと連携する計画です。
―利用者数を教えてください。
1日に利用するアクティブユーザー数(DAU)は125万人で、有料会員が37万人(2015年9月時点)。利用者数は90日ごとに倍増するペースで伸びています。日本でも使われ始めています。日本での人気ぶりには、われわれも驚かされています。すべて英語表記だし、料金も米ドル対応なのに、日本は最近までアメリカに続いて2番目に売上の大きな国でした。
―課金率も高いですね。
Slackのユーザーは両極端。非常によく使うか、まったく使わないかのどちらか。ときどきしか使わないといった中途半端な利用はされていません。ですから、業務上で必要不可欠なツールとしてSlackを利用する人が多いため、課金率も高いのだと思います。比較的、低料金なのも課金率が高い理由でしょう。ひとりあたりのユーザーが1日にかかるコストは、わずか0.22ドルですから。
もとはゲーム会社
―どんなマーケティングをしているのですか。
全部クチコミです。大きな広告を出したことはありません。Slackを気に入ってくれたユーザーたちが、リアルやソーシャルツールで紹介してくれて、広まっているのです。
なぜ多くのユーザーが気に入ってくれているのか? その背景には、私たちがもともとゲームソフトなど消費者向けサービスをつくっていたことが大きく影響しているように思います。たとえば、なぜみんながFacebookやTwitterを使うのかを分析し、Slackのデザインなどに活かしています。一般的に、BtoB向けのソフトウェアは使いにくいものが多いですね。Slackは、そういうサービスにはしたくなかったんです。
―今年4月、1億6000万ドルの大型資金調達が話題になりました。前回調達した資金にはほとんど手をつけていないと聞いています。にもかかわらず、新たに資金調達した目的を教えてください。
おっしゃるとおり、前回調達した資金はほとんど手つかずで残っています。それなのに、なぜ新たに資金調達したのかというと、いまは資金調達しやすい時期だからです。将来の資金需要に備えて、有利な環境にあるうちに調達したのです。
いま、ベンチャーキャピタルは潤沢な資金をもっていて新しい投資先を探しています。でも投資先の企業数はそんなに増えていません。そのため、1社あたりの投資額が上がっており、いわば〝売り手市場〟の状況になっています。ですから、足元の資金需要はなくても、いまのうちに資金を確保する戦略的な判断をしたんです。
早すぎても遅すぎてもダメ
―2014年2月にサービスを開始し、わずか1年半で28億ドルの企業評価額がついています。こうした評価の急上昇について率直な感想を聞かせてください。
クレイジーですね。絶対にクレイジー(笑)。Slackをつくったときは、こんなに成功するとは思いませんでした。もともと当社はゲーム会社でしたし。そこから、なかば偶然のようにサービスができあがり、こんなに人気を得て成功するなんて。だれも想像していませんでしたよ。しかし、もし2010年にSlackを始めたとしても、いまのように受け入れられなかったでしょうね。新しいサービスが成功するかどうかは、タイミングが大事だと思います。早すぎても、遅すぎてもうまくいかないものです。
いまは誰もがコンピュータやインターネットを日常的に使い、さまざまなツールを活用して仕事を進めています。これまでのさまざまなインターネットサービスの積み重ねがあるからこそ、Slackは存在できているのです。
―そうした謙虚さも起業を成功させる要因なのでしょうね。最後に、グローバル展開の方針を聞かせてください。
まずはアメリカに力を注ぎます。そして次にヨーロッパに進出し、順次、ほかのエリアにも展開していきます。各国で独立採算制にして、その国の言語や決済システムが使える体制にしたいですね。いずれ、日本にもオフィスを置くと思います。
Slackが目指しているのは、仕事をよりシンプルに、より快適に、より生産的に、という価値の提供。そのビジョンを全世界に普及させていきたいですね。