新たなシステム構築の必要なく、一つのソリューションでデータを統合
あらゆるデジタルビジネスにおいて、開発チームはカスタマージャーニーを成功に導くデータをスピーディに調達・活用する能力がますます求められている。しかし、必要なインフラを構築するツールの選択肢が狭く、マーケティング担当者向けに設計されたクローズドなソリューションを利用するか、ゼロからすべてを構築するほかなかった。
こうした課題を解決すべく、自社のあらゆる顧客接点からデータを集め、データウェアハウスにCDP を構築し、ビジネスツールでのアクティブ化を容易にするのがRudderStackだ。開発者にアプリケーション、ウェブサイト、SaaSプラットフォームなどをつなぐデータパイプラインをオープンオープンソースで提供することで、リアルタイムな顧客情報統合やトラッキング、個人最適化、データ分析など、企業のデジタル戦略に柔軟性をもたらす。
RudderStackの創業者兼CEOのSoumyadeb Mitra氏は、マーケティングオートメーションの専門家だ。2013年に商業したB2B向けのマーケティングスタートアップMarianaIQ社にて、4年間、マシンラーニングを活用した次世代マーケティングオートメーションの開発に携わってきた。その後、MarianaIQは米大手通信会社8×8(エイトバイエイト)に買収される。そこでMitra氏は4000万人もの顧客データを収集し、行動を分析、スコア化と予測を行うマーケティングのミッションを遂行した。この時、マシンラーニングを使って最適なマーケティングを自動で起こさせる新たなソリューションの着想を得たという。
「従来のマーケティングオートメーションはルールベースでした。顧客を獲得するためには、ターゲットとなる顧客がどんなサイトを、どんな目的をもって探しているのか行動データを集めて予測する必要がありました。しかし、あらゆる場所に散乱するデータをリアルタイムに集め、統合することは非常に困難な作業です。そこで、私たちはこの問題を一つのソリューションで簡単に解決できないかと考えたのです」(Mitra氏)
パンデミックとプライバシー保護により、需要が高まる
RudderStackがほかのCDPと大きく異なる点は、すべてオープンソースによる開発を可能にしていることだ。その最大の理由としてMitra氏は、「私たちがメインターゲットとしているのはマーケティング会社ではなく、データを収集する開発チーム、つまりデベロッパーがだからです」と説明する。
ほとんどのCDPベンダーがマーケティング会社をメインターゲットとしているのに対し、デベロッパーに焦点を当てている。その理由は、開発チームはマーケティングだけでなく、プロダクトやサービス、自社プラットフォームのさまざまなユースケースに応える必要があるからだ。
Image: RudderStack HP
RudderStackのサービスはSaaSで提供され、集めた顧客データ量によって課金されるビジネスモデルだ。現在のところ主要顧客はBtoC企業が多く、中小企業からエンタープライズ企業までクライアント数はすでに数千社規模にのぼっている。また売上高、データ利用料も、昨年に比べてともに倍増を果たすなど急成長を遂げており、その背景としてMitra氏はCOIVD-19や、昨今規制が強化されているデータプライバシーの影響を挙げた。
「COIVD-19の影響で、世界は10年ほど先の未来に飛躍したと感じています。世界中の人々がどんどんオンラインでつながり、ビジネスの世界でもデジタルファースト重視の戦略が求められるようになりました。RudderStackはオープンソースで提供するため、他社にはない優れた柔軟性があります。また最近では、欧州のGDRPをはじめ、Apple・Googleなどもデータのプライバシー保護を強化する動きもありますが、これは我々にとってチャンスです。RudderStackは、お客様が持つデータをお客様自身の環境に収集するため、外部に出すことはなくプライバシーは保たれます。実際、多くの欧州企業が次々と私たちのサービスを選択しています」(Mitra氏)
プライバシー保護によって、サードパーティデータを使ったドメインをまたぐユーザー追跡などが規制されるようになった。このため、顧客自身でのデータ収集・分析が重要になる。エイトバイエイト時代に通信業会のさまざまな規制を目の当たりしてきたMitra氏だけに、プライバシー保護のトレンドをくみとったプロダクト開発がなされてきたのだ。
次なるビジョンは顧客データプラットフォーム上で動くアプリケーション群
RudderStackは2021年6月10日に2100万ドルの資金調達(シリーズAラウンド)に成功。これまで開発に重点を置いてきたリソースを、セールス、マーケティング、カスタマーサポートやカスタマーサクセスなどスケールアップするために必要なタスクに配分していく計画だ。今後1年間でオープンソースと商用サービスの利用者を3倍に伸ばす計画だ。
現在、US、欧州、インド、ギリシャの4か所に拠点があり、クライアントはこれらの国・地域に加えて韓国やロシア、オーストラリアなどにも広がっているが、日本ではまだ目立った実績がない。
「私たちのサービスは世界中に需要があると考えています。日本市場への進出の際には、マーケティング会社かコンサルタント会社のようなパートナーとの提携が良いと思っています」とMitra氏は日本進出への意欲を語った。
RudderStackは、Webサイト、アプリ、システム、SaaSなどからあらゆる顧客データをリアルタイムに収集し、さまざまなアプリケーションへの応用をサポートする。Mitra氏は、次のイノベーションは、データを集めるだけでなく、データを活用できるさまざまなアプリケーションを提供することだと言う。
「長期的な目標として、開発者が製品の上にさまざまな興味深いアプリケーションを構築できるようにしたいと考えています。しかしそれは少し未来の話ですので、現在はそのための最高のプラットフォームを構築することにフォーカスしています」