LCCでの経験から、「最適な選択肢の提案」に気づく
Buchanan氏は現在ニューヨーク在住だが、出身はオーストラリア。前職は日本などアジア太平洋地域で展開するLCC、Jetstar Airways(ジェットスター航空)のグループCEOだ。大学で工学を学び、テクノロジー関連の事業に携わった。その後、ビジネススクールで学び、Boston Consulting Groupに入社。アメリカに渡り2年ほど消費財やロイヤリティ、ブランディングなどの仕事に取り組んだ。
オーストラリアに帰国後、2003年にJetstar Airways設立に誘われた。当初は半年だけ勤務するつもりだったという。Chief Commercial Officerを経て、2008年から2012年の退職までGroup CEOを務めるなど、約9年間にわたり航空業界に携わった。各国への路線展開も担い、日本市場へのLCC導入にも尽力した。この体験が2012年のRokt創業につながっていく。
格安航空券の普及で、食事やホテルなど旅行で使える費用には余裕が生まれた。一方で、航空券の選択肢が増えると「選ぶ」ことが難しくなった。例えば、目的地によっては50もの選択肢がある中、そこから1つを選ぶには時間も労力もかかる。Buchanan氏は、多くの選択肢の中から顧客が興味を持つのは3種類程度である傾向に気づいた。その興味に合う選択肢を提示できれば、事業者側もコストを抑えられるなど経済性を「倍」にすることができると考えた。
「航空会社は経済性を2倍にできれば、航空路線、目的地を2倍に増やせます。コンサートなどのチケット販売を行う企業の経済性が2倍になれば、アーティストのツアーも2倍の数の都市で開催できます。でも、3つの最適な選択肢を見つけ出すソリューションはまだ誰も提供できていない。私はこの問題を解決しようとRoktを創業したのです」
トランザクションの最適化でスムーズに
Roktは当初、旅行やコンサートのチケット販売において顧客に最適な提案をするサービスを提供していたが、現在では小売や保険など多様なEC事業者をサポートしている。商品のレコメンデーションや広告などでカスタマーエクスペリエンスが高まり、EC事業者は買い物客と良好なエンゲージメントを築けるソリューションを提供している。
Roktはトランザクションといったファーストパーティデータに注目して顧客に関連商品を提案するというソリューションを展開している。EC向けのデジタルマーケティング分野には多くのプレイヤーがいるが、Roktのようなアプローチをとる企業は少ないという。
収益モデルは、ECサイトや保険会社のサイトなどで商品の推奨によって販売に成功した際に受け取るマージンや、特定のタイプの顧客層と企業をマッチングさせる成果報酬型の広告もある。
AIや機械学習といったテクノロジーを使って顧客に最適な提案をするソリューションに磨きをかけ、事業を成長させているRokt。Buchanan氏によると、この5〜6年は毎年50〜60%の成長を続けている。2021年の収益は2億2900万ドル(約263億円)で、2022年は3億5000万ドル(約403億円)を見込んでいるという。
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プライバシーの厳格化で急成長
近年、オンラインでのユーザーのターゲティングにかかわるプライバシー問題が話題になっている。異なるドメイン(ホスト)にまたがってユーザーをトラッキングするサードパーティデータの取得には規制が入り、Appleのような大きな影響力を持つ企業もプライバシーを強く規制している。
Roktは、事業を展開する国や地域の主要なプライバシー規制に準拠しながら最適なパーソナライズを提供している。Buchanan氏は、プライバシーの厳格化がRoktの成長を支えているとして、次のように説明した。
「オンラインマーケティングでは、ファーストパーティデータやサードパーティデータと呼ばれるデータによってユーザーを識別しています。ファーストパーティデータとは、一般的にお客様がブランドを直接利用する際の全ての情報を指します。私たちのユニークな提案は、Roktのプラットフォームを利用することで企業がファーストパーティデータをよりスマートに利用できるようになることです」
「つまり、オンラインで取引をする際に、ファーストパーティデータを利用してお客様の体験をパーソナライズできるのです。サードパーティデータに関する規制が、当社のビジネスを大きく前進させているのです」
日本は重点地域、グローバル展開をさらに進める
Roktは2021年12月、シリーズEラウンドでTiger Global Managementから3.25億ドル(約374億円)を調達し、評価額は19.5億ドル(約2246億円)のユニコーン企業となった。調達した資金はM&Aや技術開発、グローバル市場の強化に充てる。人員拡大に向けた採用計画も立てており、2022年1月現在370名ほどのメンバーを500名に増やす予定だ。
日本市場においては、事業拡大と顧客サポートを強化するための投資も行っている。現在、日本市場の取引企業数は20〜30社ほどで、今後広げていく計画だ。決済会社やチケット会社、大手eコマース企業とのパートナーシップも求めていく。
Buchanan氏は、Roktの長期的なビジョンについて次のように語った。
「私たちは、Eコマースによって接続された世界が、それぞれの買い物客に適したものになる、という世界を描いています。電子商取引の世界で人々が行うすべてのことを、顧客にとってより適切なものにすることで、新たな経済的なプラットフォームを作り出しています。私たちのテクノロジーで企業が顧客体験を向上させ、より多くの選択肢を提供できるようにしたいのです。これが私たちのビジョンです。読者の皆さんもECサービスを運営し、競合優位性や収益拡大にお悩みだと思います。競争力を高めるためにRoktはすばらしい選択肢となるでしょう」