まるで「レゴ」のように組み立てられるモジュール式ロボットを開発するスタートアップのRobCo(ロブコ、本社:ドイツ・ミュンヘン)がユニークな点は、大手の製造業者ではなく中規模企業向けに特化しているところだ。大手の製造業はロボットや自動化の導入が進んでいるが、中規模企業は自動化の度合いがまだまだ低く、ビジネスチャンスが大きいと考えた。共同創業者でCEOのRoman Hölzl氏に、プロダクトの特徴や事業戦略、将来展望を聞いた。

目次
産業ロボット市場の「ニッチ」を攻める
2人勤務2交代制 → 1人勤務3交代制に
日本市場向けソリューションの提供準備も

産業ロボット市場の「ニッチ」を攻める

―創業までの経歴や、現在提供しているソリューションについて教えてください。

 私はミュンヘン工科大学(TUM)で学士号と修士号を取得しました。その間、ハーバード大学での留学経験もあります。その後、ドイツの産業ロボット企業KUKAやTeslaなど、いくつかの企業でロボティクスに関する実務経験を積みました。これらの経験を経て、ロボティクスとAIに関する博士課程を開始し、その研究が実を結び、2020年末にRobCoを設立いたしました。

 当社は中小規模の企業向けに、完全にモジュール化されたロボットソリューションを提供しています。特許取得済みです。ハードウェア側にはモジュール型のロボットキットを使用し、ソフトウェア側には視覚化、シミュレーション、迅速な導入のための強力なソフトウェアスタックを備えています。

Roman Hölzl
Co-Founder & CEO
ミュンヘン工科大学(TUM)で工学修士号を取得。在学中には、KUKA、Teslaなどでインターンシップ生として実務経験を積んだ。卒業後、米ハーバード大学およびTUMでリサーチフェローとしてヒューマンマシンインタラクションの研究に従事。2020年にRobCoを共同創業し、CEOに就任。
 このソリューションは基本的に、ハードウェア製品であるモジュールアームとデジタルツインのソフトウェア基盤から成り立っています。導入の際はまず、異なるモジュールを組み立てて1つのロボットを作り上げ、そのデータを読み取り、ロボットのデジタルツインを構築します。このデジタルツインを使用して、ロボットを制御・操縦し、グリッパーやカメラシステム、その他の機械に接続します。

 当社はこの完全なソリューションを一元管理しており、Linux上での低レベルのC++プログラミングから、iPadのように美しいインターフェース、クラウド接続されたシステムまで、すべて自社で開発しています。

 このロボットソリューションは世界中で展開しており、現在数百のクライアントがいます。ビジネスモデルに関しては、2つの方法を採用しております。1つはハードウェアを販売し、その後、定期的なソフトウェア利用料をいただくく形です。もう1つは、ロボットソリューションをサービスとして提供する「Robot-as-a-Service」という完全な定期契約モデルです。

image: RobCo

―中規模市場を対象としているのはどうしてですか。

 それは非常に良い質問です。大手の製造業はロボットや自動化の導入が進んでいますが、中規模市場では自動化の度合いがまだ比較的低く、潜在能力は非常に大きいと考えています。つまり、中規模市場には大きなチャンスがあるんです。当社のモジュールの適応性、そして非常に魅力的な価格設定により、この中規模市場向けに理想的なソリューションを提供できると信じています。

 もちろんこの製造業におけるロボットソリューションの領域には多くの競争相手がいます。しかし、競合が展開するプロジェクトは非常に高価で複雑であり、プロジェクト完了までに多くの時間がかかります。他のプロバイダーが価格や複雑性、長いリードタイムのために手が届かないこの市場に当社ならアプローチできます。つまり、当社のシステムはより手頃な価格で、すぐに使用できるため、中規模企業にとって理想的な選択肢となっているのです。

 私たちの目的は、ロボティクスを用いて労働力不足を解決することです。労働力不足は現代社会の最大の課題の1つだと考えています。これはさまざまな産業、企業、セグメントにわたって見られ、世界中の多くの国々で問題となっています。私たちの会社では、中規模市場の産業企業向けに、既に実用的で手頃な価格、そして柔軟性のあるソリューションを提供しています。これが私たちの大きな使命感となっており、それを実現するための技術とチームも整っています。

RobCoの創業メンバー image: RobCo

2人勤務2交代制 → 1人勤務3交代制に

―顧客のユースケースをいくつか教えてもらえますか。

 非常にうまくいった事例の1つは、アルミニウム部品を中心とした自転車部品メーカーのクライアントです。製造現場の自動化によって、毎年6万ユーロ以上のコスト削減を実現しました。以前は2シフト制でそれぞれ2人体制が回していましたが、現在は同じ機械で3シフト制をそれぞれ1人だけで運用しています。

 もう1つのケースは、ドイツ北部のクライアントです。彼らは小さなバーなどの商品を物流に出す前に、さまざまな箱や包装をパレットに積む作業を行っています。われわれは夜間や週末に、これらの商品を完全自動でパレットに積むシステムを導入しました。これにより、クライアントの収益性と生産性が大幅に向上しました。現在、同じ施設にさらに5台のロボットを導入している最中です。

―近年はAIが大きな話題となっていますが、御社のソリューションにもAIが使われていますか。

 私たちはロボティクスとAIの研究室から生まれた企業です。そのため、AIが大きな注目を集める前から、この分野での経験を積んできました。私たちはAIを多くのビジネス分野で活用しています。例えば、ロボットシミュレーションのために適切な動作プロファイルや軌道を作成し、衝突を回避するために使用しています。また、荷物のプログラミングを簡単にするためにもAIを活用しています。

 これらの作業の一部はAIを使用して行う必要がありますが、他の作業はルールベースのシステムやシンプルな機械学習アプローチを用いて行うことができます。ただし、私たちは技術そのものにこだわるのではなく、これらの技術を使って得られる商業的な成果を重視しています。

モーターモジュール image: RobCo

―直近の業況や成長性を示す指標などについて共有いただけますか。

 私たちは2020年に会社を設立し、最初の1年半ほどは主に製品開発、認証、テストに注力しました。そして、およそ2年前からドイツ市場で製品を投入し、その後、オーストリアやスイスにも拡大しました。2023年末からはさらに広いEMEA(欧州・中東・アフリカ)地域にも進出しています。

 2023年は前年比約3.5倍以上の成長を遂げ、2024年もさらに3倍の成長を目指しています。現在、当社の売上高は数百万ドル規模に達しており、これは数百台のロボット、数千のモジュール、そして100社以上のクライアントに対応していることを意味します。

 当社の技術が革新的であることが成功の一因と考えています。当社には技術だけでなく、市場で成功を収めるためのチームと実行力も備わっています。たとえば、マーケティングチームは十分なリードを生成して成長を促進し、非常に強力な営業チームとパートナーチームが契約を締結します。そして、強力なオペレーションチームがそのソリューションを展開し実装します。これが成功の秘訣だと考えています。

image: RobCo

日本市場向けソリューションの提供準備も

―次のステップについて教えてください。今後の12〜24ヶ月に設定している目標はありますか。

 お客様にとって最も興味深いと思われるのは、私たちが「RobCo Autonomy」と呼んでいる技術です。これは、各ソリューションにより多くの自律性を導入するもので、たとえば、ロボットに効率的に"視覚"を提供する機能があります。また、シミュレーション設定にも取り組んでおり、ロボットが実際に現場に出る前に予測と視覚化を行っています。

 さらに、収集したデータを活用することにも注力しています。データの活用により、メンテナンスや問題解決、サイクルタイムの改善、経済性の向上、ロボットの動作の高速化や衝突回避など、多くの改善が可能になります。これらは製品のロードマップ上で非常に楽しみにしているマイルストーンです。

 なお、商業的にも大きな潜在能力があると考えており、野心的な目標を設定しています。目標を達成するための課題が2つあります。1つは、適切な人材を確保することです。優れた人材を採用し、さらにその才能を維持することが私たちの使命です。これが明確な課題です。

 もう1つの課題は、スケールアップしていく中で高いサービスレベルを維持することです。例えば、10台のロボットをサービスするのと、1台や100台、1000台をサービスするのとでは異なる対応が求められます。そして、1万台以上のロボットをサービスするとなると、さらに大きな挑戦となります。成長の過程でこれらの課題を解決していかなければならないと考えています。

―日本企業とのパートナーシップについてどうお考えですか。

 私たちは、産業環境や製造業においてロボットソリューションを現地で販売し、統合できる強力なパートナーを求めています。これまでに産業機器、自動化機器、またはロボティクスに関わった経験があり、ビジネスを拡大し、当社の最新技術や接続性、そして手頃な価格の可能性を活用したいと考えているパートナーです。

 現在は主にヨーロッパ市場に注力しており、日本市場はまだ初期段階ですが、日本向けのソリューションを提供する準備を進めています。まずは間接的なチャネルを活用し、将来的には直接、日本市場に進出することも視野に入れています。

 これまでに産業機器、自動化機器、またはロボティクスに関わった経験があり、ビジネスを拡大し、当社の最新技術や現場への適用のしやすさ、そして手頃な価格の可能性を活用したいと考えているパートナーを探しています。日本市場には大きな可能性があると考えていますので、ご興味のある方はぜひご連絡ください。お互いに情報交換をしながら、クライアントやパートナーシップの関係を築けると考えています。

―長期ビジョンをお聞かせください。御社の取り組みは、近年のグローバルにサプライチェーンの分断や、日本のような労働人口が減っている地域の課題を解消すると考えます。

 私たちは、中規模産業企業向けのモジュール自動化のリーディングカンパニーを目指しています。5年後には、多くのロボットを導入し、さらに多くのクライアントと提携することで、その目標に到達できると考えています。現在はヨーロッパ市場に注力していますが、その後はアメリカ市場、そして日本市場を順次攻略していきたいと考えています。その頃には、今以上にグローバルな企業となっているでしょう。

 私たちのソリューションは、地産地消などローカルのサプライチェーンの強化を促進します。ニーズに合わせたローカルで適応可能なソリューションが必要となり、他国に送って完成品を待つのではなく、地元の産業と製造業のインフラを強化できます。

 また、ヨーロッパも労働力不足が課題となっており、日本の皆さんともこの課題についてもっと探ることができたら嬉しいです。もし、ロボティクス自動化の最前線に立つ私たちに興味がありましたら、ぜひご連絡ください。当社は非常に強力なドイツのエンジニアリング、ハードウェアとソフトウェアの両方で優れた技術を持ち、ロボットを用いて労働力不足を解決する強い目的を持っています。



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