携帯アプリとAIを活用した道路状況診断システム
―まずは、CEOの経歴をお聞かせください。
私は、いわゆる連続起業家です。機械学習のベンチャー企業としては、RoadBoticsが3社目になります。以前は機械学習関連のヘッジファンドやエネルギー分析会社、軍の監視テクノロジー関連企業などに携わってきました。あと、カーネギーメロン大学で非常勤の教授も務めています。
―御社のサービス内容を教えてもらえますか?
当社は、主に地方自治体や国が所有する道路の状態を診断する会社です。道路も建設から時間がたてば、老朽化してきます。交通量が多ければ老朽速度は早まり、サンフランシスコのような街でも穴ぼこがあいた道路など、非常に状態の悪い箇所もあります。
道路の状態を健全に保つには点検が欠かせませんが、その方法は実はとても原始的です。ほとんどの場合、実際に職員が道を歩いて目視によって道路や歩道の表面を見て回っています。臨床検査技師がレントゲンで人間の体を診て病気を発見するように、世界中の道路担当職員が診断しています。
そこで当社では、電話のカメラ機能を使った道路状況診断サービスを提供しています。つまり、専用アプリを搭載した携帯のカメラで道路を撮影すると、画像データがWi-Fiを介してクラウドにアップされ、当社のディープラーニングプラットフォームに取り込まれる仕組みです。さらにAIがその画像を解析して1メートルごとに5段階で道路の状態を評価し、色分けしたマップにして表示していきます。プロセスは完全自動化されており、人の手が必要なのは情報収集の場面だけです。
Image: RoadBotics
―実際に、どのような人たちが道路の画像データを収集するのでしょうか?
私たちの場合、道路清掃業者やデリバリー業者、また輸送業者などと提携し、彼らの車にアプリを搭載した携帯をのせてもらって情報収集を依頼しています。
―なるほど、そうして収集したデータをどのように分析しているのでしょう?
まずはコンピュータビジョンを使って「道路」を他のものと区別します。たとえば、アスファルトに描かれた「STOP」の表示や矢印などは、厳密には「道路」そのものではありません。そうした1つひとつを判別したうえで道路状況を診断し、ディープラーニングのプラットフォームに取り込んでいきます。
―先ほど、顧客は地方自治体だと伺いましたが、民間企業とのやりとりもあるのでしょうか?
道路の所有管理責任者は自治体である場合が多いのですが、実際の業務を民間に委託しているケースもあります。アメリカだと、30%程度が民間企業によって管理されています。ですから、我々にとって直接の顧客は市や郡、州なのですが、間接的なパートナーシップを建設会社などと結ぶこともあります。
人の手による作業から、効率性・費用対効果の高いAI主導の自動システムへ
―珍しい業態だと思いますが、競合もいるのでしょうか?
我々の場合、とても新しいタイプのビジネスなので、競合と呼べる企業はまだありませんね。むしろ、競合は「自ら手を動かしている」道路管理者です。実際、東京でも職員が直接点検に行っていると思います。
しかし、当社のサービスを利用していただければ、費用対効果や時間効率が格段にアップします。何より、人の目というのはどうしても主観が入ってしまうものです。5人の診断士がいれば、5通りの意見が出てしまうこともあります。同じ人でも、常に同じ基準で、同じ目をもって診断していくのは至難の業です。
その点AIを使ったサービスなら信頼性が高く、一貫性のある診断を継続することができ、当社を選んでくださるお客様の多くが、この点を評価してくださっています。しかも、うちではディープラーニングを採用していますから、データを集めれば集めるほど正確性は向上していくので、今後ますますサービスは改善していきます。
Image: RoadBotics
―収益モデルは契約ベースですか?
いえ、道路分析はマイルごとの値段設定になっているので、1マイルあたりいくら、といった形ですね。
―先ほど、輸送業者などと提携すると伺いましたが、パートナー企業についてもう少し聞かせてください。
我々がパートナーシップを結ぶ企業は2種類に分かれます。1つが道路を管理する土木や建設関連の会社です。そして、もう1つがデータ収集に協力していただく輸送業や道路清掃会社です。特に清掃業者はすべての道路で、しかも時間をかけて作業しますから、データ収集依頼相手としては最適です。
―そういった企業の車に、御社のアプリを搭載したスマートフォンを乗せて走る、ということですか?
そうですね。それで街中にある良心的なWiFiを経由してデータを送ってもらいます。
世界中の道路診断を効率化、将来的にあらゆるインフラに透明性提供へ
―今はアメリカ以外でもサービスを提供しているのでしょうか?
はい、今はオーストラリア、インド、ニュージーランド、イギリス、フランスなどでも展開しています。
―日本との取引はまだないんですね?
日本とはまだ正式なお仕事はしていませんが、前向きに考えています。道路管理責任を負う建設および土木工事関連会社はもちろん、道路のデータはあるけれど分析するツールがない、という企業とも提携していきたいですね。そして、データ収集をお願いできる輸送業でもパートナーは必要です。本業以外に収入源が欲しい、というデリバリーや運送関連の企業がいれば、うちとのパートナーシップは最適なはずです。
―最後に、将来のビジョンをお聞かせください。
将来的に、すべての道路診断作業をAIに置き換えていけたら、と考えています。その方が費用対効果も高く、安全で客観的な診断を実施することができますから。ゆくゆくは、今まで目が行き届かなかった橋やダムといった場所までしっかり見ていき、世界中が「透明性の高い」状態になっていけばいいと思います。そうすれば、あらゆるインフラの老朽化を察知し、メンテナンスをしっかり実行していくことができるからです。また、今後自動運転車が普及してくれば、データ収集が完全に自動化されるでしょうから、それも楽しみですね。