目次
・課題は「会話のブラックボックス化問題」
・IP電話×音声AI×ウェブ×モバイル
・「経営判断AI」に進化させたい
・G7最下位。日本の生産性を向上させるには
課題は「会話のブラックボックス化問題」
―MiiTelは電話営業の課題解決を目指して開発されました。開発の背景をお聞かせください。
電話営業における最も大きな課題は「会話のブラックボックス化問題」でした。顧客と営業担当者が「何を」「どのように」話しているのか分からず、なぜ取引が成約したのか、なぜ取引を失注したのかが把握しにくいという問題です。
それ以外にも、商談後の議事録の作成に時間がかかって本来の業務に充てる時間が減ってしまう、メンバーの成果の差が大きいなど、大小さまざまな課題があります。これらを解決するためにはまず営業におけるトークの可視化が必要で、そのために音声AIやクラウドIP電話をイチから自社開発して作り上げたのが主要プロダクトのMiiTelです。IP電話、通話内容の自動文字起こし、音声解析といった機能を1つのツールで提供するもので、2018年10月に正式ローンチしました。
―トークの可視化はどのように行われるのですか。
例えば、通話のスコアリング機能があります。話すスピードが速いかゆっくりかで相手に与える印象が変わったり、フィラー(会話中の言い淀み)が多い人の話は聞きにくかったりしますよね。スコアリング機能は、こうした営業担当者の話し方を採点するもので、「話速」「トーク比率」「声の抑揚」「会話が被った回数」「沈黙回数」「会話のラリー数」といった項目をAIが定量評価します。
導入企業様の事例では、営業成績の良いハイパフォーマーの音声のスコアを目標値として他のメンバーがそれに合わせることで、相手の回答がハイパフォーマーに対するそれと似てきた、商談数が上がったという声も寄せられています。
image: RevComm
IP電話×音声AI×ウェブ×モバイル
―類似サービスを提供する競合他社と比較して技術的な強みはどのような点にありますか。
「クラウドIP電話」「音声解析エンジン」「Webアプリケーション」「モバイルアプリケーション」の4点を全て自社開発し、これらの技術を掛け合わせたプラットフォームに仕立てている点です。
元リクルート社フェローの藤原和博先生の言葉として有名ですが、人材の市場価値などは「掛け算」によって高まると言われています。例えば、エコノミスト兼プロ野球選手兼ピアニストみたいな人がいたとしたら、その人材の市場価値はすごく高い。大谷翔平だって、二刀流というピッチャーとバッターの掛け算だからこそ、あれほどの価値が付くわけです。技術領域にもこの掛け算の考え方が当てはまります。
ただ、音声解析技術やクラウドIP電話を作る技術は専門性が高く、エンジニアの数自体も少ないので人材確保が難しい。また、エンジニアは専門分野が異なると仕事の進め方も異なるので、技術領域を超えて互いの協力体制を築くことも難しかったりします。他社製のものをインテグレーションするという選択肢もある中、全てを自社開発することについて当初はエンジニアから「無理だ」という声もありました。
たしかに、荒唐無稽な話だったと思います。しかし、「AI×ボイス×クラウド」という領域はまだブルーオーシャンだったので一定の時間的猶予がありました。開発に挑戦する期限をまず6カ月程と定めて、理想を追い求める形で挑戦し、結果として技術的難易度の高いことをやり切ったことが当社の強みにつながっています。
―複数の要素を組み合わせることで、掛け算的に価値が高まっていくのですね。
ただ掛け算をすればいいわけではなく、それぞれの技術水準の高さも重要です。高い技術を掛け算することで技術的な価値もより上がっていきます。当社の技術は音声認識だけを単体で見ても、GAFAや日本の某上場企業が提供しているエンジンと比較して、日本語の認識精度では負けていないと自負しています。文字起こしエンジンだけを他社に提供してビジネスをやっていくことも可能な水準です。
クラウドIP電話も、単純にインターネット上で通話できるサービスと、電話番号で発着信できるものは全く別物ですが、われわれは後者で技術的な難易度は高いです。
そうした点が評価され、2023年には「Forbes AI 50」に選出されました。これは、Forbesがシリコンバレーの著名VCであるSequoia CapitalおよびMeritech Capitalと協力し、AIを活用してビジネスを展開する有望な未上場企業を表彰するプログラムで、アジア企業として唯一、当社が選ばれました。
OpenAIなどが選ばれた「Forbs AI 50 2023」、RevCommは「セールス&カスタマーサポート」部門で選ばれた image: Sequoia Capital
―自社開発にこだわった理由は他にもあったのですか。
ビジネスシーンにおける音声データをビッグデータとしてアセット化することを目指していて、録音形式とか通話形式といったデータの持ち方も通信会社などに依存せず、自社でコントロールする必要がありました。
AI時代においては大量のデータ蓄積が重要ですが、ビジネスシーンにおける「口頭での会話データ」はまだまだ手付かずの状態です。ただ、音声データをアセット化する上では、データの量だけでなく、データの質も非常に重要になってきます。
「誰と誰が、何をどのように話して、その結果はどうなったのか」といったように会話を解析し、文字起こしでデータ化し、CRMと連携して記録を残すことができることにこそ価値がある。そういった理由で、技術を自社で開発することが重要でした。
「経営判断AI」に進化させたい
―現在、電話営業だけでなくコールセンター業務やオンライン会議などサービスの幅を順調に広げていますね。海外展開としてインドネシア語版、英語版の提供も開始しています。今後のビジネスの展望を教えてください。
短期的にはビジネスのコスト削減や売上アップに貢献しながら、「口頭での会話データ」をビッグデータ化していき、ゆくゆくは「経営判断AI」に進化させたいと考えています。ここの順序を正しく言うと、「経営判断AIを創る」という目的が最初にあり、それを実現するプロセスを逆算していった結果として、今のRevCommの形になっています。
経営判断AIとは何かというと、企業経営の意思決定を助けるためのAIです。Amazonでショッピングをしていると表示される商品レコメンド機能がありますよね、あれの経営版というイメージです。Amazonはなぜあの機能を作れるかというと、膨大な消費行動データを持っているから。そうなると、経営判断AIを作るためには膨大な経営判断データが必要です。
―経営判断データとはどのようなデータのことを指すのでしょう。
経営判断の本質的なデータって何だと思いますか?私は、立派な会議室で開かれている役員会議での会話ではないと思っています。役員会議に至るまでに市場のポテンシャルやリスク、リスクに対する打ち手などを議論したり、PDCAサイクルを回したりしますよね。経営判断の本質的なデータというのはここの議論であり、こうした議論の集積の最後にあるのが経営判断です。
ということは、経営判断AIを創るためには普段の議論のデータを集めればいい。普段の議論はどこで行われているかというとミーティングなので、ミーティングの会話データを蓄積する必要があります。ただ、10年前はZoomなどのオンライン会議ツールは普及しておらず、基本的には対面会議でしたし、かと言って、企業の会議室にマイクを置いて「会話を録音させてください」というのは現実的ではありませんでした。
どのような領域から会話データの蓄積を始めていくべきなのかを模索する中、警察の取り調べ、弁護士の聴取、取材記事の作成など会社設立までの6カ月間で10回のピボットを繰り返したり、50社へのヒアリングを行ったりしました。そうして、たまたまセールス領域に辿り着いたという事業化までの経緯があります。
―そのような背景があり、営業支援ツールであるMiiTelの開発へとつながっていくんですね。
電話営業向けサービスから始まり、MiiTelブランドは現在、オンライン会議向けの「MiiTel Meetings」(2022年7月提供開始)、コールセンター業務向けの「MiiTel Call Center」(2023年6月に機能をフルリニューアルして提供開始)、対面コミュニケーション向けの「MiiTel RecPod」(α版は2023年7月、β版は2024年3月提供開始)へとサービスの幅を広げています。
新型コロナウイルスの流行時には、東京都の保健所の業務にMiiTelを導入していただき、もう3年近く使っていただいています。当時、担当者がフォローアップの電話対応に追われる中、聴き取りした情報をインプットする工数が大幅に削減され、限られた人員数での対応や交代時間の削減につなげていただくことができました。本当に社会的な貢献ができたと思っています。また、日本のみならず、インドネシア政府の国民皆保険のコールセンターにも使っていただいています。
ポイントは、当社の技術が音声コミュニケーションのタッチポイントを全てカバーしていることで、例えば医療領域では遠隔診療、人材領域では採用面接などより広い領域でのプラットフォーム提供を検討しています。
image: RevComm
G7最下位。日本の生産性を向上させるには
―最後に、RevCommが目指す未来像を教えてください。
日本の一番の課題は「生産性の向上」だと考えています。日本はG7(主要7カ国)で最低の労働生産性で、1人当たり名目GDPは約3万4,000ドル(2022年)に落ち込んでいます。生産年齢人口は右肩下がりで、出生率も低いままという現実の中、日本の生産性の向上は絶対的な課題です。
生産性を「能率×効率」に因数分解して考えた時、「能率」に関しては、日本は教育水準の高さや倫理観の高さでそれが担保されています。つまり、日本の生産性が低いのは「効率」が悪いことが原因です。そして効率が悪い理由は、コミュニケーションコストの高さだと考えています。往々にして「何を言ったか」ではなく、「誰が言ったか」が優先される世界ですから。
ただ、裏を返せば人口がたった1億2,600万人の国内マーケットで、G7で最低の生産性に甘んじているにもかかわらず、なぜか経済第3位の国という事実に私はポテンシャルしか感じません。つまり、コミュニケーションコストを下げるようにメスを入れることによって効率が上がり、もともと高い能率との掛け算で生産性が飛躍するはずです。
当社は「コミュニケーションを再発明し、人が人を想う社会を創る」をミッションに掲げています。企業の生産性向上を通じて、日本全体の生産性向上に貢献していきたいです。