プロセスが自動で連携し合うオペレーションシステム
―まずはご経歴と設立の経緯を教えてもらえますか。
私は大学でAI学士号と工業デザインの修士号を取得している少し変わった経歴です。卒業後、ロンドンでプログラマーとして仕事を始め、次はカナダでスノーボード写真家になろうかと思っていたタイミングでGoogle社からオファーを受けました。入社を決めカルフォルニアのGmailとGoogle Plusチームに所属し6年半働きました。そこで、チームの各メンバの努力が迅速に結集され、組織のあらゆる問題に立ち向かう素晴らしい体験をし、人々がどのように協力し合い、チームが構成されるのかという点に興味を持ちました。
Google退社後、Twitterで働いていた二人と一緒にMedium社へ移り、5年間エンジニアリングをする中で、企業が大きくなりチームの規模が大きくなればなるほど、個人には権限が与えられず、自律性が低くなり、仕事の種類が悪化していくということを体験しました。それは組織にとっては大きな問題です。そこで、心理学、管理理論、組織設計など様々な手法を駆使し、個人のエンパワーメント、自律性、分散された権限の種類がどう組み合わされると効果的に連携するかに注目したところ、規模が大きくなればなるほど、非定型のプロセス管理が非常に複雑で難しいことがわかりました。
各プロセスが効果的に連携できるように、ソフトウェア、電子メール、Zoom、ドキュメントといった各ツールを意図的に促進するオペレーティングシステムを設計したい、という思いが私の使命になりました。さらに、行動科学と心理学に焦点を当て、個人の作業をチーム内でいかに統合させ相互作用させるか、チームの機能を最大限高めるために何が必要かという視点を重視しました。それが出発点であり、Rangeを設立した目的です。
―では、プロダクトについて教えていただけますか。
まだ初期段階ですが、現在私たちが注力しているのは、チームが繋がりを感じ、常にお互いの状況を知ることをサポートすることです。これまでの調査で、チームの成功には、透明性、帰属、目的の3つの柱が必要であることがわかりました。そのために、Rangeの主要な機能の1つはチーム内で使用されている全てのツールと統合している点です。参加予定のイベント、作成した全ドキュメント、送信した全コード、電子メールを送信した全顧客等を把握できるようし、チーム内でも共有し、透明性を実現しています。
次に、心理的な安心とチームの一員であるという帰属意識を醸成するために、毎日チームへチェックインし、「あなたは何をしましたか、あなたは何をしますか?」といったチームビルディングの質問に答えます。これからますますワークスペースは分散され、物理的な距離は離れるばかりであり、こういった心理面でのサポートも重要となると私たちは考えています。これらにより効果的なチームの基盤を構築し、問題の解決に役立つからです。
個人、チーム、組織全体の価値を高めるRange
―どのような企業があなたの製品を使用していますか。
私たちの初期の市場は製品開発組織、つまり、ソフトウェアエンジニア、製品デザイナー、製品マネージャー、マーケティング担当者などです。非定型(戦略や計画策定などのクリエイティブな仕事)の作業がRangeで機能するという原則に基づき効果が発揮されやすい業務形態であることと、私たちのマーケティングと統合戦略のためです。 運用チーム、販売チーム、製造会社、非営利団体、中小企業等も顧客ではありますが、現時点ではそれらは私たちのメインターゲットではありません。
―顧客がRange製品を使用したいと考える理由はなんでしょうか。
私たちの製品が個人の価値、チームの価値、そして組織全体の価値と様々なレベルの価値創出に寄与しているからだと思います。Rangeの機能は、それら全体に確実に効果があります。個人の作業を他の誰も認識していないと、その作業は単調で孤独で、チームとしての一体感は生まれません。自分が今日行うべき作業内容がRangeの機能で明確となり、それがチーム内で共有されていることで、自分の作業が全体像の中でどのように当てはまるのかが実感でき、チームの一員であるという帰属意識とパフォーマンス向上に繋がります。
全ての作業をRangeに登録することで、組織的な調整を可能にし、個人レベル、チームレベルで透明性と可視化、整合性が実現し、他チームの作業内容、進捗もリアルに確認できるので、組織レベルで統合され、より整列された組織となります。
パンデミックで加速されたリモートワークは絶好のチャンス
―コロナウイルスはあなたの業界にどのような影響を与えましたか。
コロナウイルスが猛威をふるうもっと前から、同じオフィスにいてもお互いが何をしているのかがわからない状態であり、人々は切り離されていると感じていました。コロナウイルスにより共同で作業することを義務付けていた企業を含め、皆が自宅で仕事をすることを余儀なくされていますが、場所や時間に拘らずに働きたいと思う人々の傾向はずっと前からありました。従って、職場で既に起こっていたトレンドを加速させているにすぎないと私たちはみなしています。
個人の能力を最大限活用したいのであれば、好きな場所で好きな時に仕事ができるようにすることは、非常に重要です。 Rangeは既にそれを念頭に置いて構築されており、非同期チャネルを通じてサポートが可能です。従って、コロナウィルスは私たちにとって間違いなく大きなチャンスであり、Rangeの有効性が試されるときです。
―パンデミックの進展に伴い、顧客から何が見えてきたのでしょうか。 また、どのようにして彼らを支援できるのでしょうか。
パンデミックにより強制的にリモート化されたチームにとっては、進行中のプロジェクトがあり、チームプロセスが機能していたので、まだ正しい方向に進んでいます。今後数か月にわたって問題が浮上するのは、実際に彼らが方向を変え始め、プロセスを変え始め、新しいプロジェクトを始めなければいけない時です。 オフィスにいれば、チームメイトと顔を合わせて話をして、社会的に繋がりを持っていることを実感させる相互作用がありますが、別々の場所にいる場合、それが容易ではなく、心理的安全性が欠如します。他人と緊密に繋がっていないと、相互理解が進みづらく、柔軟性がない関係になり、物事がより困難になります。
Rangeについて私たちが気に入っているのは、毎日チームビルディングの質問をすることです。これはシンプルすぎて意味のないことのように聞こえるかもしれませんが、計算された多くの質問は他人への洞察を生み出し、人間味を感じさせ、繋がりを築きます。これが信頼関係の基盤となり、実際のコミュニケーションでさらに増幅します。
海外展開も含めた新たなステージへ
―会社の長期的なビジョンを聞かせてもらえますか。
顧客からの満足度が高いことが証明されてきたので、12月の新たに資金を得て、成長モードに切り替え、スケールアップを目指していきます。この先10年のビジョンは、これまで人力でオペレーションしていた非定型プロセスをRangeにさらに統合させ、改善していくことです。人々が目的を達成するために、人と人とを相互に有機的に作用させるサポートのため、今後も開発を続けていきます。
―海外展開、また日本市場の可能性について教えてください。
私たちは米国市場に焦点を当てていますが、既に日本を含めて海外の顧客にもご利用いただいています。ローカライズはされていないため英語使用が前提ですが、ユーザーが作成したコンテンツのIMEテキストエントリはサポートされています。
日本に対して興味を持っているのは、日本には最先端の技術組織が多くあるということであり、パートナーを組むことができれば、新たな組織慣行をRangeに取り入れて、多くのオプションを生むことができるということです。