エアライン業界に必要な情報をワンストップで提供し、最適なフライトをAIでレコメンドするPortside。アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコに本社を構える同社のサービスは、現在日本企業を含む30カ国の航空会社や政府機関に導入されている。Portsideの強みは、膨大なデータをAIで分析し、顧客に推奨することで「効率的で」「安く」「安全な」運航をサポートする点だ。Portside共同創業者でCEOのAlek Vernitsky氏に話を聞いた。

顧客企業はEBITDAマージン平均40%増を記録

――御社はどのような事業を展開しているのでしょうか。

 Portsideは、民間の航空会社や、各国の空軍、エアライン関連産業に対して、フライトの運航管理を手助けするソフトウェア・プラットフォームを運営しています。

 Portsideを使えば、航空機の情報やスケジュール、パイロットを含めた機内乗員、整備情報、各空港の規制、見積もり情報、売上など、エアラインビジネスに関わる必要な情報をワンストップで確認でき、最適なフライトをAIで推奨します。

 現在、Portsideは世界約30カ国、約1万機の航空機に導入されています。

Alek Vernitsky
Portside
Co-Founder & CEO
University of California, BerkelyでBusiness Administration, Legal Studiesの学士号を取得後、GapでProject Manager、Bain & CompanyでManagerを務める。その後、Harvard Business SchoolでMBAを取得。旅行代理店とエアラインへの支払いを最適化するGetGoingを創業し、BCD Travelに売却。女性と子供向けの衣服マーケットプレイスthredUPの副社長を経験した後、2018年にPortsideを共同創業し、CEOに就任、現職。

 Portsideが世界各国の航空関連企業で導入されている背景には、航空産業の成熟があります。以前よりも多国間のフライトが増えていて、運航に関わるオペレーションも複雑化しています。

 従来、エアライン各社はスケジュール管理やパイロット・客室乗務員、整備士の配置をエクセルやOutlookカレンダー上で「人の手」で行っていました。こうしたソフトウェアでの管理は、週1回のフライトでは間に合っていましたが、現在のように1日2回の運航が当たり前、さらに国際間も飛び回る、という状況では、管理が行き届かなくなっているのです。

 Portsideは、AIレコメンドにより、フライトを①「効率的に」②「安く」③「安全に」運航できるようサポートしています。順を追って説明していきましょう。

 ①の「効率的に」では、パイロット配置の最適化の例が適当です。当社の顧客にはアメリカの航空機チャーター企業Jet Aviationがいます。同社は約500機の航空機を保有し、アメリカやヨーロッパ、アジア、中東地域で営業をしているのですが、彼らはPortsideを導入して以来、客数を伸ばし、顧客満足度も向上させています。Portsideを使うことで、自社の航空機の最適な運航や、パイロットの無駄のない配置が可能になったのです。

 効率的なフライトが実現できるようになったことで、顧客企業は平均してEBITDAマージン=売上高に占めるEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の割合=は40%の伸長を記録しています。かなり大きな収益力の伸びだと言えるでしょう。

 ②の「安く」では、空軍の貨物部門において、人員輸送や物品輸送にかかるコストを約15〜20%削減しています。貨物や軍隊といった分野でもパフォーマンスを最大化できるのです。

 ③の「安全に」では、アメリカ・コロラド州の、地方空港アスペン・ピットキン郡空港のケースをお話ししましょう。同空港は規制が厳しいことで知られています。例えば、パイロットのうち1人が過去3カ月以内にアスペン空港にフライトしていなければならないといったエアライン泣かせのルールが存在します。こうした規制は、空港のサイズによって決定され、離陸を安全に行うためには不可欠なのです。Portsideはこうした各空港の規制を承知した上で、パイロットの配置を行うのです。

Image: Portside HP

膨大なデータを抽出 企業買収で機能追加も狙う

――Portsideを支える技術について教えてください。

 Portsideを支えるのはデータです。当社は、航空機や当局、整備システムなどから膨大なデータを取り出し、AIが最適なフライトをレコメンドします。

 運航の最適なスケジュールの調整から乗務員への通知、機体整備情報の管理、規制情報、税務など、ありとあらゆる情報を引き出し、1つのプラットフォーム上で管理・運営しています。

 AIを用いた網羅性と操作性の高さが、Portsideが広く支持を受けている理由に他なりません。当社の最大のライバルは、実はExcelです。Excelは多くの機能を搭載している素晴らしいプラットフォームですが、エアライン業界に特化したサービスではありません。

 私はPortsideを立ち上げる前に、航空関連サービスの会社を創業していたことがあります。エアラインビジネス、特に運航の複雑さと煩雑さはよく知っていましたから、Portsideのようなサービスは間違いなく使われるだろうという確信がありました。

 事実、当社は過去3年間で、売上高約5倍増を記録するなど、ビジネスは好調です。

――御社は累計6,730万ドルの資金調達に成功しています。資金の使い道を教えてください。

 当社はインハウスでPortsideを開発しています。目下取り組んでいるのは、Portsideで提供するデータの分野拡大です。そのためには、当社では扱っていないデータを分析しているソフトウェア企業の買収にもチャレンジしていきます。

 最近では、燃料マネジメントに関する分析ソフトウェアを提供する企業を買収し、Portsideにデータを統合していく体制を整備しました。

 調達した資金は、企業買収のように、Portsideを完全なプラットフォームにするためのエコシステムをつくっていくために使う予定です。

Image: Portside HP

日本市場本格進出に関心 現地ソフトウェア企業との提携の可能性も

――日本市場を深耕する考えはありますか?

 当社はすでに日本企業2社を顧客としています。そのうちの1社は双日グループでビジネスジェットの国際オペレーターであるPHENIX JETです。

 日本市場は当社にとって大変魅力的です。市場規模も大きいですし、日本を含めたアジアでの航空ビジネスは右肩上がりで伸びています。また、ロシア・ウクライナ情勢や対中関係などの地政学的リスクの顕在化も、日本の航空産業、特に防衛産業の近代化が見込まれるのではないでしょうか。

 以上2点の理由から、世界中で使用されているPortsideの進出余地は大きいと考えています。日本市場の中で、当社が最もフィットすると考えているのは防衛産業ですが、民間の航空会社、エアラインや貨物、空港などあらゆる業態で使われる可能性が高いと考えています。

――日本の大企業とのパートナーシップを考えた場合、どのような形態が理想でしょうか?

 当社は既に日本企業2社の顧客がいるとお話しましたが、日本のソフトウェア企業とのパートナーシップ締結にも関心があります。なぜなら、日本は言語や文化面でのハードルが高く、顧客満足度向上を考えたとき、現地の航空産業事情を知り尽くした提携先の存在が心強いからです。

 パートナーシップの形態として最適なのはジョイント・ベンチャーだと考えています。この関係性であれば、エンドユーザーがPortsideの使用方法などに迷ったとき、現地のパートナーがすぐに支援できるからです。日本市場と同じく、言語・文化面のハードルが高い中東地域やブラジルでも、当社は現地企業とジョイント・ベンチャーという形態で協業しています。

機能拡大に注力 人材採用も後押しする

――最後に、御社が向こう1年間に注力していく事業について教えてください。

 当社は直近で、Portsideに人材採用マーケットプレイス機能を搭載しました。航空業界においてはパイロットや客室乗務員、整備士などの採用が難しいことが知られています。

 特に当社の顧客の民間エアラインは、経験豊かなパイロットなどを欲していることもあり、人材採用は喫緊の課題だったのです。当社のこのサービスは大変な好評をいただいています。

 Portsideを中長期的には、「エアライン・ビジネスに参画する企業にとって、なくてはならないソフトウェア」にしていきたいですね。



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