一元管理と完全自動化でプロトタイプ製造のコストを削減
―まず御社のビジネスモデルについて教えてください。
新しい部品などを作る場合、プロトタイプ設計から製造、試験、改良などいくつもの工程を経なければなりません。情報も一元管理されないことが多いため、時間やコストがかかりすぎることが課題となっています。そこでPlethoraでは、設計の初期段階からアプローチすることで、リアルタイムで設計上の問題点や改善点といったフィードバックを提供し、費用見積も即座に提示しています。それまでメールや電話で行っていた作業を大幅に削減することができるのです。
また、部品のプロトタイプ製造時には、そのセットアップ費用がネックになることがありますが、その多くが開発エンジニアにかかる人件費です。Plethoraではエンジニアが行っていた作業をソフトウェアのコードに置き換えることで、市場に出すまでの時間を短縮し、セットアップ費用を抑えることができるのです。
―部品を製造するのに、スピードがそれほど重要なのでしょうか?
もちろん、実際の製品を作る場合、スピードよりも強度や安全性を重視しなければなりません。しかし、プロトタイプはあくまで試作品です。30年先までもつ必要はなく、顧客にその機能を理解してもらえれば良いのです。製造とマーケティングの要素を併せ持つものであり、長期的な耐用年数を考えるべき製造とはまったく違うのです。我々の顧客は可能なら明日にでもプロトタイプを入手し、製品開発サイクルを加速させ、競合他社よりも早く、より良い製品を販売したいと考えています。スピード勝負の世界だと言えるのです。
―なるほど、よくわかりました。御社ではCADソフト開発と実際の部品製造の両方を手掛けているのですか?
はい。まず、お客様には当社が開発した3Dデザインソフト向けのプラグインを利用していただきます。部品の設計が済んだ段階で分析開始ボタンをクリックすると、修正が必要ならばそのように、特になければ費用の見積もりが提示されます。そして必要な個数を入力したうえで、「注文」ボタンを押していただければ、プロトタイプ製造依頼は完了です。
注文していただいた後は、当社の自社工場で様々なソフトが装置を自動管理し、リアルタイムで部品製造を行います。通常は数週間かかる製造工程が、当社なら数日、速ければ数時間で終了します。
―御社のCADソフトでは費用や製造時間まで計算するようですが、どのようにして算出されるのですか?
当社のソフトウェアは、切り出しに使う道具からドリル1台に至るまで、自社工場にあるすべての機械や装置を把握しています。また、他にどんな注文がどこから入っているかも理解しています。プラグインのソフトが工場のサーバーに接続することでこういった情報をリアルタイムで収集します。あとは膨大な計算をすることで、製造時間や必要な作業員数などをはじき出し、費用まで算出してくれます。この一連のシステムを開発するのに2年かかりました。今は、だいたい注文から納品まで、長めに見積もって3日いただくことが多いですね。
Image: Plethora
ターゲットを絞ったシームレスなサービスで「低コスト高品質」を実現
―顧客のターゲット層はどのような企業ですか?
当社にはすでに何百というお客様がいらっしゃいますが、その多くが自動車や飛行機の部品メーカー、あるいはロボット工学やバイオテクノロジー関連、そして消費者向けのデバイスを製造する企業です。いずれもプロトタイプになるので、一般の方ではなく、業界向けの部品で、非常に大きな市場となっています。
―どのような部品を主に扱っているのですか?
素材としては一般的な金属やプラスチック製のもので、モーターをギアボックスに接続するような、いわゆる、フレーム的な部品です。無数の部品を一つにまとめる、接着剤の役割を果たすものが多いですね。大きさは、部品ですから、小さいものばかりです。テーブルのような大きさのものは製造していません。
―収益モデルについて教えてください。
私たちはお客様に部品を購入してもらうことで収益を得ています。基本的にプラグイン自体は無料で提供しています。システム上で色々試してもらって、部品の製造注文していただいたタイミングで料金が発生します。従来ですと、そこから製造用のマシンをプログラミングするので、その作業に時間や人員を割き、コストもかかっていたわけです。しかし、当社では画期的なイノベーションでこれを完全自動化しました。迅速に部品を提供することができるため、高水準の料金をいただいていますが、製造にかかる費用自体は同業他社よりも非常に低く抑えられているのです。
―競合と呼べる企業はいますか?また、御社独自の強みは何だと思いますか?
今は、少なくとも競合はいないと思っています。我々はシリコンバレーで製造業を営む、という稀有な会社です。当社のように計算機科学のエンジニアを雇っている企業は多くありません。彼らがやりたいことをやれる場所は少ないので、単純なWeb開発の繰り返しに辟易としている人も多い。そういう人は、うちの工場を見て胸を躍らせます。我々が欲しいのは彼らのような人材です。彼らと一緒に、シームレスなアプローチを提供するのが、当社の強みなのです。ただ、スピード重視で納品する企業もありますが、うちにはそれ以外にオンラインのインターフェースがあり、設計段階からリアルタイムでフィードバックなどを提供することができます。そんな企業は、他にありません。
「シリコンバレーの製造業」の原点はモノづくりにある
―どんな経緯で起業したのですか?
私は、物心ついた時から物作りに携わってきました。祖父、叔父、父ともに製造関連の仕事についていたのです。高校生になると、自分でレースカーを作って遊んだり、建設関係の会社を立ち上げたりしました。大学では、堅苦しい勉強が肌に合わず、もっぱら経営にいそしんでいました。建設会社の次はメーカー向けに設備を提供するNPOを立ち上げました。そこで、プロトタイプ製造の需要を知ったのです。それからは、CloudFabという会社を作り、部品の見積価格を算出し、メーカーと工場を結び付ける仕事をしました。
その中で、コストの詳細を理解するために様々な工場を訪れ、それらが非常に古く、昔ながらのままになっていることに驚きました。そこで、自社工場を持つことこそ、コスト削減への近道だとはっきりわかったのです。私はCloudFabを売却し、サンフランシスコに移住して入念なリサーチを重ね、1年後にPlethoraを立ち上げました。
―なぜサンフランシスコを選んだのですか?
もといたピッツバーグはテクノロジーに関わる人が少なく、最先端の現場に身を置くことができませんでしたし、資金調達も難しかったからです。ニューヨークやロサンゼルスなど、いろいろな場所を見ましたが、サンフランシスコがもっとも想像力と野心にあふれていると感じました。ここは人材と資金が集まる場所、いうならば未来を信じる人たちが集まっていたのです。あと、気候が良いのもポイントでした。
「人間の創造力を開放して開発を後押しすることが、社会貢献につながる」
―日本市場への進出は考えていますか?
まだ日本の企業と取引はしていませんが、日本の製品は数多く購入しています。もちろん、日本にもPlethoraを展開したいと思います。製造業といえば、アメリカ、ドイツ、日本が浮かびますが、日本の製品は品質も良く、自動化も進んでいます。日本の製造業が国の経済に寄与する部分は非常に大きく、彼らをテクノロジーで支えていきたいと考えています。
―将来的なビジョンを教えてください。
実際の部品を、世界中の誰もが手ごろな価格で手に入れられるようにしたいと思っています。今は数百万ドルかかるものが数千ドルで済むようにして、ガレージで起業する人でもハードウェア会社を作れるようにしたいですね。そうなれば、人間の創造力が解き放たれるでしょう。創造力が生む発明こそ、人間の生活を豊かにしてくれますから。開発を後押しすることで、人類に貢献したいと思っています。そのためには、膨大なリサーチが必要です。それを実現するためにはシステムはさらに複雑化します。より良い人材を雇用し、組織づくりを強化し、それらをしっかりと管理していくことが最大の課題です。