一軒の家を建てるのに、何カ月もかかる。コストも高くて、環境にもあまり優しくない。そんな住宅業界の「当たり前」に疑問を持ったスタートアップが米カリフォルニア州に拠点を置くPlant Prefabだ。同社の最大の特徴は、家を現場ではなく工場で先に作ってしまうこと。日本でもお馴染みのプレハブ建築だが、「パネル工法」と「モジュール工法」を組み合わせることで、より柔軟に、効率よくプロジェクトを進められるよう進化させた。創業者でCEOのSteve Glenn氏に話を聞いた。

目次
なぜ? 米国で高まるプレハブ住宅ニーズ
秘密はパネルとモジュールのハイブリッド
ハイブリッド型工法がスゴいワケ
“プレハブ先進国”日本の旭化成ホームズも出資

なぜ? 米国で高まるプレハブ住宅ニーズ

―Plant Prefabはどのような課題を解決するスタートアップなのでしょうか。

 住宅建設をもっと効率的にしたいと思っています。特に、建築的に優れていて、サステナブルで、気候変動にも強い住宅を、もっと簡単に、もっと速く建てられるようにしたいんです。そのために、プレハブの一戸建て・集合住宅の製造を手がけています。

 当社は2016年の創業で、総売上高は累計6,000万ドルを突破しました。これまで、170ほどの住宅を販売した実績があります。販売先はアパートや多世帯住宅、マンションなどを販売するゼネコンになります。

 アメリカではプレハブ住宅のニーズが急騰しています。2007〜2012年の不動産不況後、土地・人件費・建材費がかつてないレベルで高騰し、現場での工事を前提とする住宅建築が難しくなっています。工場で建てられるプレハブに、コスト面の安さから注目が集まっているのです。また、建築工事の現場を担う労働者のほとんどが移民で、その中には不法移民も多い。移民規制や強制送還の影響で、現場の人材確保も難しくなっています。

 加えて、アメリカでは人口増加に対して住宅供給が圧倒的に不足しています。プレハブ住宅は大量供給が可能な住宅として期待されているのです。

 当社の技術の特徴は、とにかく工期が短いこと。一般的なプレハブ住宅の工期と比較して、30〜50%ほど短い9カ月で完成します。工期が早まると、引越しまでの家賃も節約できますし、家主にとっても家を早く売ることが‘できますから、投資効率が向上します。借主にとっても、貸主にとってもPlant Prefabの住宅はメリットが大きいのです。

 当社のプレハブ住宅のメリットはこれだけにとどまりません。ゼネコンにとっても重宝される商品になっています。

Steve Glenn
Founder & CEO
米ブラウン大学で組織行動学の学士号を取得。AppleでMarketing Specialist, Walt Disney ImagineeringでVirtual Reality StudioのCo-Directorなどを歴任。2006年にLivingHomesを創業し、CEOに就任。2016年まで同職を務めた。同年3月にPlant Prefabを創業、CEOに就任。現職。

秘密はパネルとモジュールのハイブリッド

―ゼネコンにも重宝されているのはなぜでしょうか。

 大工・電気・水道・内装・外装など、複数の専門サブコンに発注せずとも、当社に依頼すれば住宅が出来上がるからです。通常、住宅を1戸建てるのにも、ゼネコンは多数の業者に依頼せざるを得ないことを考えれば、革命的といっても良いでしょう。

 当社だけでプレハブ住宅が完成する技術的な理由は、私たちが特許を取得した「モジュール工法」と「パネル工法」のハイブリッド型工法を独自開発したことです。通常のハウスメーカーは、モジュールか、パネルか、どちらかの工法しかありませんが、私たちは両方の良い部分を取り入れ、柔軟かつ効率的な施工方式を発明したのです。

 モジュール工法とは水回りや内装(階段など)、電気配線などを施した箱型ユニットを工場で製造し、現地で組み立てる方式です。この方法では工場で内装・設備まで完成させられることから、施工時間の短縮が可能です。ところが、モジュール工法で建てられた住宅は輸送・搬入が困難で、特に狭い都心部の土地に建てることは難しいのです。

 反対にパネル工法は壁や床、天井といったパーツを工場で予め組んでおき、現場で内装・水回りなどの条件に合わせて自由自在に配置する、という工法です。都心部にも住宅を建てやすいものの、工場から住宅を持ち運んでいない分、現場作業の負担が増えるというデメリットがあります。

 当社のハイブリッド型工法は、住宅の案件ごとにモジュールとパネルを役割別に使い分けることが可能です。例えば、今年2月に施工したカリフォルニア州べニスの二世帯住宅では、キッチン・浴室・階段などの内装をモジュールで先に作り上げ、当社の工場で生産した壁や床などを現地で組み立てました。

image : Plant Prefab HP

ハイブリッド型工法がスゴいワケ

―ハイブリッド型工法が可能になっている理由はどこにあるのでしょうか。

 当社が住宅の「9割完成」までを担う、26万9,000ft²(約2万5,000㎡)の大規模自社工場を持っているからです。米国で唯一、モジュールとパネルの両方を製造可能なプレハブ専用工場です。

 壁・床・天井などの構造部材の加工、内装整備、電気空調の施工・検査までモジュールで製造し、実際の住宅を製造しています。さらに工事しやすいように現地で組み立てる窓やドア、(場合によっては)屋根などのパーツをパネル工法で作っています。

 また、設計図は全て立体モデル(BIMモデル)で作成し、1ミリのズレもないほど、施工との連携が取れているのです。

 この最新鋭の施設では、従来の小規模・非自動化工場とは異なり、最大で年間約300万ft²相当の建築部材が生産可能です。これは私たちの従来の施設の30倍ほどの生産能力に当たります。

―創業のきっかけを教えてください。

 子どもの頃から建築が大好きでした。大学ではテクノロジーを学んだものの、デザインへの興味は持ち続けていましたが、自分には建築家としての資質はないと判断しました。ただ、実際の建物の質は、建築家よりも、施主の選択で決まると気づき、デベロッパーになろうと思ったのです。

 2006年に、「環境にやさしく、デザイン性に優れた住宅を作りたい」という思いを実現すべく、LivingHomesという会社を立ち上げました。有名建築家のデザインを採用し、環境に配慮した素材を活用したプレハブ生産という当時では珍しい住宅だったのですが、2007年に不動産バブルが崩壊し、状況は一変します。

 AppleがiPhoneを自社で製造しないように、LivingHomesでは自社で工場を持っておらず、外注に頼っていたのですが、これが足枷になりました。というのも、外注工場では高度なデザインや珍しい素材に対応できず、品質トラブルが発生します。不動産バブル崩壊で注文数が減ったことも痛手でした。

 当初の「サステナブルで、デザイン性に優れているプレハブ住宅をつくる」という目標を達成するためには、自分たちで工場を作らなければならないと思い、2016年にPlant Prefabをスピンアウトする形で設立しました。

“プレハブ先進国”日本の旭化成ホームズも出資

―日本市場への進出は考えていますか?

 現時点では米国市場にフォーカスしています。ただ、日本最大級のハウスメーカーである旭化成ホームズから出資を受けていて、日本との関わりはあります。

 そもそも、日本は世界を見渡しても、プレハブ先進国です。旭化成ホームズはパネル工法の大家ですし、積水ハウスはモジュール工法で有名です。日本市場への進出について、具体的なタイムラインはまだありませんが、こうしたハウスメーカーとの協業を通して実現したいですね。

―具体的なパートナーシップの形態として、理想とするものはありますか。

 当社は現在、新たな出資を受け入れるラウンドに入っていて、まず、出資者を募っています。目的は新工場を数件新たに建てることです。これが実現すれば、全米に当社のプレハブ住宅を販売できます。

 資本提携に際して、日本国内のチャネルを持っているパートナーであれば、より良いとも考えております。ただ、現在のところ、私たちが集中すべきは米国市場ですから、優先順位としては、出資者を募っているというところです。



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