目次
・波動制御技術をコアとするプロダクト
・製品開発アプローチは「非常に単純」
・「課題解決が続けられるメカニズムを確立したい」
波動制御技術をコアとするプロダクト
―会社の設立は2017年5月ですが、これまでどのような事業を展開されてきたのでしょう。
当社は筑波大学発のR&D型ベンチャーで、社会的意義があるものを連続的に生み出す「孵卵器」になりたいと考えています。特定の技術だけを製品にするのではなく、さまざまな最先端の技術を使った課題解決を連続的に行いたいのです。
創業から5年半は研究開発(R&D)に費やし、最近の1年半でようやく製品を市場に出せるようになりました。技術開発の軸は、落合陽一(代表取締役会長CEO)や、東京大学助教授を務めた経歴を持つ星貴之(CRO、最高研究責任者)が得意とする波動制御技術です。この技術は簡単に言うと、音・光・電波などを制御・解析・シミュレーションするもので、さまざまな課題解決型の製品開発に利用しています。
プロダクトは主に、「パーソナルケア&ダイバーシティ領域」と「ワークスペース&DX領域」に大別されています。前者では、超音波を用いて頭皮を刺激する家庭用ヘアケア・スカルプケアデバイス「SonoRepro(ソノリプロ)」や、特殊な制御を加えた可聴音を使って認知症予防や認知機能改善が期待されるガンマ波サウンドケアデバイス「kikippa(キキッパ)」、音声の可視化によって難聴の方を支援する「VUEVO(ビューボ)」などを提供しています。
後者のプロダクトは、ビーコンよりも精度の高い屋内測位システム「hackke(ハッケ)」、自然界にない特性を作り出すメタマテリアル製品の1つで、音を吸収する「iwasemi(イワセミ)」、建設工程における配筋検査をデジタル技術を使って効率化・省人化する空間DXプラットフォーム「KOTOWARI(コトワリ)」などがあります。
ビジネスモデルはプロダクトによって異なります。製品開発から量産に至るまで弊社が手掛けるものもあれば、他社と協業するものもあります。たとえば「kikippa」は塩野義製薬と共同開発し、販売はシオノギヘルスケア社が担当しています。ベンチャー企業として、体力が限られていますので、オープンイノベーションに力を入れているのです。
―村上様の専門領域と、創業の経緯を教えてください。
私は大学院まで工学系で、特に材料工学とバイオエンジニアリングを専攻していました。社会人になる際にはアクセンチュアに入社し、戦略コンサルティング本部で新規事業開発や大手企業のオープンイノベーションに携わる仕事をしました。アクセンチュアを退社した後、共通の知人である落合と久しぶりに話し合い、一緒に事業を始めることになりました。
当時、落合とは私たちが本当にやりたいことや解決したい課題について深く話し合いました。私自身は、日本の研究開発のROIを向上させたいという強いモチベーションを持っており、日本で開発された先端技術を市場に投入し、それが広く認知され収益につながることで、研究に対する更なる投資を促す好循環を創出したいと考えていました。落合も、アカデミアの立場から研究成果を製品やサービスとして社会に提供し、それが再び研究に還元されるというサイクルに課題を感じていたのです。
製品開発アプローチは「非常に単純」
―複数のプロダクトを展開されていますが、反響はいかがでしょうか。
これまで約50テーマの研究開発を行ってきて、そのなかの6つがプロダクトになりました。ヘアケアデバイス「SonoRepro」に関しては、販売開始から1年ほどで累計販売台数が約2,300台に達しました。音響メタマテリアルの「iwaesmi」は累計販売台数が2万枚を超えており、今年1月に開催された「CES 2024」では「Innovation Awards」を受賞し、海外展開を積極的に進めています。
「kikippa」はビジネス系のテレビ番組でも紹介され、大きな反響を得ています。この製品で使われている技術は、テレビやラジオの音声に特殊制御を施すことで脳内にガンマ波を発生させることができるもので、認知機能改善が期待できるものです。音がなるところならどこでも認知機能をケアできる可能性がある世界を目指しています。この挑戦には、NTTドコモ、学研ココファン、SOMPOひまわり生命保険、三井不動産といったパートナーとも取り組んでいます。素晴らしいパートナーとの共創もわれわれにとって大きな力となっています。
―大学などでの研究と解決する社会課題をベースにプロダクトを開発されているとのことですが、これまでどのように課題を顕在化されてきましたか。
私たちのアプローチは非常に単純で、「より多くの打席に立つ」です。多くの試みを重ねることで新しいソリューションを生み出しているのです。私たちは、新しい技術を開発するたびに「これでこんなことができるのではないか」「あんなことができるのではないか」と考え、さまざまな業界の人々と積極的に話をしてきました。特定の業界にしかない、非常に深い課題が世の中には多く存在すると思っています。机上の研究だけではそのような課題を把握することには限界があります。そのため、業界の人々と直接話をし、われわれが貢献できる余地を見つけ出すことが重要だと感じています。
アイデアを他者に共有し、そこから得られた学びを開発にフィードバックしてきました。このプロセスを通じて、コラボレーションの基盤や新しい仲間も見つかりました。研究だけでなく、多くの人に話を聞くことが、製品が市場で受け入れられる背景を作り出していると言えます。
―協業に関してはオープンな姿勢と見受けられますが、今後はどのようなパートナーシップやコラボレーションを求めていらっしゃいますか。
イコールパートナーのような関係で協業することは、最も楽しく、前進するために必要だと考えています。オープンイノベーションを通じて、私たちは多くの失敗を経験しましたが、ベンチャー企業と大手企業との間の違いを超えて、共有できる強い願望や共通の世界観があると感じています。このような共有を基盤として、互いにリスクを分担し、共に理想とする世界を創り上げるフェアな関係を築くことが理想です。私たちはどの分野のプロダクトや技術にも心を開いており、共に取り組みたいと強く願っています。
資金提供やジョイントベンチャーの設立、共同事業などの組織形態に関しては、その時々で最適な選択ができれば、あまり重要ではないと考えています。より重要なのは、販売戦略や機能のバリエーションに関して、互いに持っていない部分を補い合うことができるかどうかです。たとえば、私たちは販売ネットワークが強くないので、そのような部分を補うことができる関係性が構築できれば、より大きく展開できると思っています。
「課題解決が続けられるメカニズムを確立したい」
―2023年8月にNASDAQに上場されています。次のステップ、今後1〜2年のマイルストーンや長期ビジョンについてお聞かせください。
私たちは、R&Dの長いプロセスを経て、技術を世の中の価値に変える段階に来ています。これからの大きなチャレンジは、事業として機能する会社へと変化させていくことです。フィールドを国内に限定することなく、波動制御技術は地球上どこでも同じように利用できるため、海外展開も視野に入れています。特に、日本が直面している高齢化社会などの課題は、将来的に世界的な問題となり得るため、そういった課題に対応しつつ、国内外で事業を広げていくことを目指しています。
課題解決の文脈で、現在は日本の課題を起点に取り組んでいますが、長期的には世界の課題へと拡大していきたいと考えています。私たちの会社は、特定のプロダクトだけを展開するタイプではなく、課題を解決し続けるメカニズムを確立したいと思っています。これまでの経験を生かして、国内だけでなく世界の問題を解決する方向へ拡大し、そのメカニズムを社会機能として後世に残せるようにしたいと思っています。
そのためにアカデミアとは、特殊な産学連携スキームを組んでいます。例えば、東北大学とは共同研究の枠組みを作り、その中で得られる研究成果の知的財産を会社が100%保有する契約を結んでいます。その代わり、大学にはストックオプションを提供し、包括的に取り組むことで、大学からの良質な研究成果が会社の成長につながり、大きなリターンを生み出す構造にしています。産学連携も促進していきたいです。
―将来のパートナーにメッセージをお願いします。
全く新しい技術を使って、これまでに解決できなかった課題に取り組むことは非常に難しく、苦労が伴いますが、同じ思いを持って共にチャレンジすることには、言葉には難しいですが、青春のような感覚と大きなやりがいがあります。「沸る(気持ちが湧き立つ)」といった感じで、非常にやりがいを感じられます。そういったチャレンジを共にできるパートナーをいつでもお待ちしていますので、ぜひご一緒できればと思います。