友人との会話がきっかけで作った「スマホで開ける鍵」が話題に
――創業前の職業的なバックグラウンドを教えてください。
新卒でガイアックスという会社に入り、ソーシャルメディアを活用した企業のマーケティングの支援やコンサルティング、リスク対策を担当していました。ITやマーケティングの領域だったので、ボトムアップで新規事業を立ち上げることが奨励されていました。そのため、入社してすぐに新規事業を任せてもらいながら、IT業界における新規事業の作り方を学びました。3年間働いたころ、25歳の時に、親しくしている友人と一緒に食事をしているときに、たわいもない会話から「鍵が不便」という話題で盛り上がったことがきっかけで、起業することになりました。
鍵は持ち歩くことも、人に渡すことも面倒くさいし、無くしてしまうこともある。今はスマートフォンで全て完結するのが当たり前ではないかという話題で盛り上がったのです。当時はスマートロックというもの自体がまだありませんでした。ですので、そういう商品を作ってみたら面白いと考えて、最初は趣味の世界でやっていました。Makersブームだったこともあり、秋葉原でいろいろな部品を買ってきて、休日にエンジニアなどが10名くらい集まって、会社とは関係なく趣味として取り組んでいました。
その取り組みを、たまたま新聞に取り上げていただく機会があり、「買いたい」「事業提携したい」「出資したい」とお声がけいただきました。そこで、資料分析などをしていくと、鍵の事業はチャンスがありそうだと思い、起業したのです。
企業向け入退室管理のニーズをとらえる
――現在はどのようなプロダクトを提供されていますか。
現在は、スマートロックの「Akerun」というプロダクトを活用した、主にオフィス向けの入退室管理システムを提供しています。オフィス、住宅、ホテル、車など様々なスマートロックがありますが、私達の売上を占めているメインの製品はオフィス向けになっています。今後は家庭向けにも、注力していこうと考えています。
オフィス向けの警備会社や入退室システムを提供している会社のサービスは、高価で、工事が必要だったり、ビルごとにサーバーを構築する必要があったりします。ですが、Akerunであれば後付けでできますし、クラウドで提供するサービスですので、サーバーを構築する必要ないため、非常に安価にデータを利活用することができます。
プロダクトは「Akerun Pro」と「Akerunコントローラー」があります。Akerun Proは既存の扉に後付けで貼り付けるだけで、スマートフォンやICカードで鍵を開けることができるスマートロックです。既存の扉の内側にはサムターンと呼ばれるつまみがあります。それに覆いかぶせるようにAkerun Proを取り付けます。Akerunコントローラーは、自動ドアやエレベーターなど既存の電気で動く扉を、スマートフォンやICカードで開け閉めできるようにする製品です。
クラウドサービスの方は、管理者がWebブラウザからログインすると、それを通して、誰が、どの扉をどれくらいの時間、開けることができるのかを決定することができます。また誰がいつ入ったかという履歴の確認もできます。それをもとに入退室管理などができるサービスも提供しています。
ビジネスモデルは、サブスクリプション型で、ここ数年は年間30%〜40%ほど売上が上昇しております。
Image:Photosynth
――オフィスでの利用が多い理由を教えてください。
オフィスは、多数の方々が出入りする空間です。例えばオフィスにはアルバイトの方々も出入りするでしょうし、情報資産などセキュリティを担保しておくべき物がたくさんあります。ですので、セキュリティの需要が非常に高く、そこでAkerunが売れているのだと理解しています。
一般の家屋向けには、賃貸物件の内覧などの際に需要があります。不動産の仲介会社さんが物件を管理するために使われる可能性があると思います。これからは、一般の家庭でも、実物の鍵ではなく、ICやスマートフォンで開け閉めする時代が来ると思います。
ハードウェア、ソフトウェアを社内で高め合う 品質に自信
――競合他社との差別化要因はどのような部分にありますか。
当社は世に先駆けてスマートロックを開発しました。今は業界にナンバー2の企業が出てきていますが、実績に10倍以上の差があります。私たちの会社に追随する動きもありますが、これまでの積み重ねによってスピーディーな対応ができ、信頼性の高い商品を提供できています。また、さまざまなAPIを公開しているので連携することができるという点も当社の強みだと思います。
解約率が低いので、お客様に満足して継続してもらえていると思います。また、他社から乗り換えて、Akerunを使っていただける場合もあります。スマートロックは品質がとても重要で、Bluetoothの無線通信を使いますので、同じような製品でも接続がうまくいかなくて鍵が開かないというものもあります。コピー製品も登場していますが、Akerunよりも品質の良いハードウェアがなかなか存在しないので、私たちの会社の製品を使っていただけているのかなと思います。
社内にITのみならずハードウェアのエンジニアチームもあります。特許も複数とっている状況です。ITだけ、ソフトウェアの開発だけを頑張っても品質はよくならないのでソフトウェアとハードウェアを、同じ会社内で高め合っているのです。
――現在に至るまでにご苦労されたことなど、印象に残るエピソードはありますか。
創業した当初は、家庭向けのモデルを製作していました。当時出回っていない技術だったので、お客さんが面白半分で買われていて、売れたはいいけどお客さまの課題が解決していないということが、販売して3カ月くらいでわかりました。しかし、10%ぐらいのお客様がアクティブに使われていて、その方々がオフィスで使われていたのです。
そこから、オフィス向けにフォーカスして、オフィス向け製品を開発することにしました。家庭向けとオフィス向けのスマートロックでは仕組みが全く違うので、作り直すことになり、創業間もない時期に資金的に困難な時期もありました。そこで、社内ではエンジニアも含めて営業に力を入れました。そうすると売上やアクティブ率がどんどん上がって、オフィス向け製品に活路を見出すことができたのです。
業界特化のスマートロックシステムでキーレス社会を目指す
――短期的な目標について教えてください。
現在は売上のほとんどをオフィス向けのスマートロックが占めている状態ですが、最近、美和ロック株式会社と共にジョイントベンチャーを作り、家庭用スマートロック分野で協業することになりました。既存のマンションや戸建てができるタイミングにスマートロックが装備されるというチャネルなっています。これによって、家庭用のマーケットもどんどん切り拓いていけると思います。ハードウェアに関しては、美和ロック様のものを使用して、それにアプリなどを組み込んでいく形になります。
さらに将来的には、オフィスや家庭向けの製品にプラスアルファして、業界の需要に特化したスマートロックや入退室システムを作り上げていきたいと考えています。企業向けには、入退室管理システムにプラスして在室確認システムをつけたり、コワーキングスペースでの入退室管理に会員のシステムを追加したりするというようなサービスを考えています。一般家屋向けでは入退室システムに加えて内覧用のシステムが必要です。ほかにも連携ができるシステムなど、人の流れを把握するためには、ハードウェアの上に追加するコンテンツが必要になって来ると思います。
Image:Photosynth
――今後考えられる、外部企業とのコラボレーションはありますか。
業界ごとのサービスを提供するのであれば、自社だけで仕切るのではなく連携を進めていきたいと思うので、共同でパッケージを作っていけたらいいと考えています。また、拡販していくためのパートナー企業も求めています。いろいろな業界と連携をしながら進めていきたいです。
――日本市場だけでなく、海外展開も考えていますか。
日本市場では、個人情報保護法が改正されたことで、個人情報を保有する全ての事業所で「物理的安全管理措置」の対策を講じることになり、企業は入退室管理を実施する必要性に迫られています。また、働き方改革関連法によって、客観的な記録に基づく勤怠管理データが推奨されており、需要が高まっています。「メイドインジャパン」のものづくりという点で海外からの依頼も多々ありますので、どこかのタイミングで、必ず海外展開をしていきたいと考えています。
――長期的なビジョンをお聞かせください。
オフィスや家庭、学校など様々な場所の扉にスマートロックを取り付けて、全ての扉を開け閉めすることができる「キーレス社会」と呼ばれる状態を作っていきたいと考えています。これはキャッシュレス社会同様の世界観でして、鍵もスマホやICに置き換わる社会を目指していきます。そして、スマホなどを読み取るためのリーダーを普及し、最終的にはビックデータや通行手数料が視野に入って来ると思います。
キーレス社会は近い将来必ず実現すると思っているので、そこに共感していただける方はぜひAkerunを広めていただければありがたいです。鍵がなくなっていくことを、「鍵の自由化」と呼んでいるのですが、それが進むと空間が自由になり、やがて人の流れが変わります。すると、働き方やライフスタイルが変わっていくはずなので、そのような社会をぜひ一緒に作っていきたいです。