AIによる意思決定アプリケーションのためのプラットフォームを提供するPeak(本社:英マンチェスター)。同社の顧客は、NIKE、PepsiCo、KFCなどの大手ブランドをはじめ、小売や製造、建設などの分野で、在庫の適正化や顧客体験の向上などに貢献している。2021年8月にはシリーズCラウンドでSoftBank Vision Fund IIが主導する7500万ドル(約100億円)の資金調達をし、グローバルに市場の拡大を目指している最中だ。3人の創業者の1人であるCEOのRichard Potter氏に、創業の経緯や業況を聞いた。

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分析・ビジネス・データサイエンスの専門家3人が創業

――創業前のキャリアについてお聞かせください。

 エジンバラ大でビジネスの学位を取ったあと、半導体企業のWolfson Microelectronics(現Cirrus Logic)に勤務し、Apple、Samsung、Amazon、ソニー、キャノン、任天堂などにチップを供給する製品ラインを統括していました。投資銀行に勤め、半導体企業の株式調査をした経験もあります。そのあと、他人のビジネスについて話すよりも、ビジネスの現場で働く方が楽しいと思うようになり、またWolfson Microelectronicsに戻って、さらにその後はソフトウェア企業(Cooper Software)に勤めました。このような経緯から、ビジネスとテクノロジー双方のバックグラウンドがあります。

――Peakを創業した経緯についてお教えください。

 Wolfson Microelectronicsでアナリストとして最初に就いた仕事では、ゼロから大量のシステムをセットアップしなければなりませんでした。そこで私はデータシステムを構築し、そのデータを使って、業績向上に努めました。データを使った洞察によってビジネスの意思決定をする情熱を持っていたのです。

 Peakの創業者3名は、データ駆動型の意思決定ができる企業が、より優れた業績を得られると考えていました。しかし、多くの企業がそうなっていません。そこでどんな障害があるのかを考えた結果、もっとデータを利用しやすくすればいいと気づき、意思決定のためのAIプラットフォーム開発を始めました。

Richard Potter
Peak
Co-Founder & CEO
2004年、エジンバラ大でビジネスの学位を取ったあと、半導体企業のWolfson Microelectronics(現Cirrus Logic)に勤務し、ビジネスアナリストやプロダクトラインのマネージャーを務める。2008年には投資銀行であるUBS Investment Bankへ移り半導体企業に関わる。2012年にはCooper Softwareにてコマーシャル・ディレクターを務め、売上増に貢献。2015年にDavid LeitchとAtul Sharmaの3人でPeakを創業する。

――Peakの創業メンバーについてお教えください。

 David Leitch(Chief Information Officer)とは同じ大学に通っていて、私は技術系に進みましたが、彼は大手のIT企業で勤務し、銀行や小売業などのプロジェクトでデータアーキテクトを務めていました。DavidとPeakのアイデアを話し合っていたところ、データアーキテクチャとデータエンジニアリングについて詳しいAtul Sharma(Chief Technology Officer)を紹介してくれました。私は分析的な思考を持ち、Davidは商業的な考えを持ち、Atulはデータを扱う天才、というのが私たち3人の特徴です。

AIによる最適化でコスト削減、売り上げ増の事例も

――Peakのプロダクトやビジネスモデルを教えてください。

 私たちのプロダクトは、意思決定(Decision Intelligence)のためのAIプラットフォームです。AIを使用して、ビジネスをどのように運営するかを最適化することができます。例えば商品の価格設定、販売方法、在庫の保有量などの領域を対象としています。

 クラウドベースのSaaSプラットフォームで、ユーザーがデータを持ち込むと、そのデータを使ってAIの学習を行い、それをビジネスアプリケーションに提供します。ビジネスモデルはシンプルで、標準的なSaaSと同じく、プラットフォーム利用のためのサブスクリプションライセンスと、使用に応じた料金です。

――これまでどんな顧客の課題を解決してきましたか。いくつかの例を教えてください。

 主に3つの業界のお客様が多いです。小売業では、欧州のNIKEが良い例です。消費財では、PepsiCoやKFCが代表的です。もう1つが製造業で、イギリスやヨーロッパで有名な多くの企業が顧客です。ほかの業界でも利用されています。

 成功事例をお伝えすると、イギリスの大手スポーツファッションの小売店では、Peakのプラットフォームよるデジタルマーケティングキャンペーンの最適化で売上が28%増加しました。トラックの走行距離などを最適化して物流コストを10%削減した消費財関係のお客様もいます。

Image:Peak

 すべてのビジネスは意思決定の積み重ねです。これまでは経験に基づいて行われてきましたが、データとAIを使えばより高い精度の予測ができます。在庫管理を例に挙げましょう。在庫管理の担当者は、データを基に商品を発注、管理します。通常は、取り扱う商品をグループごとに分け、定期的に発注、管理しています。販売頻度の低い商品は売れないまま在庫として残ってしまい、忘れ去られることもあるでしょう。

 AIを使えば、週次などの定期的にではなく、リアルタイムに在庫のレベルを調整できます。従来の経験に基づく発注・管理で生じていた余分な在庫を持たずに縮小できます。NIKEなどの大企業では、その差は何億ドルという規模になります。

アメリカ、インドへ市場を拡大 AIによる意思決定のデファクトスタンダードを目指す

――今後12カ月の間に達成しようとしていることを教えてください。

 これからの12カ月は、私たちにとってエキサイティングなものです。昨年、SoftBankから資金調達した理由は、グローバル市場での成長のためでした。現在、Peakの本社は英国にあり、顧客企業の8割はヨーロッパにあります。しかし、ヨーロッパ以外の地域でのビジネスが急成長しています。とくに北米とインドで商業的に急成長しており、アメリカ大陸とアジアの両方で私たちのビジネスを拡大していく予定です。世界での意思決定インテリジェンスの分野で主導権を獲得したいと思っています。

 チームは300名ほどで、その3分の2は英国にいます。Atulはインド出身なのでインドにもチームがあり、強い存在感を示しています。北米のチームはまだ小さいですが急成長しています。なお、私たちのR&Dチームでは今、たくさんの研究開発に取り組んでいて、今後より多くのアプリケーションを提供していく予定です。

Image: Peak

――日本市場についてはどうお考えですか。

 日本企業とは投資家であるSoftBankの関係のみで、顧客も営業拠点もありませんが、市場の状況は良いと考えています。日本は経済大国で、私たちが得意とする分野の企業が多く存在しているからです。今後、数年間のうちに日本市場に参入したいと思っています。

――御社の長期ビジョンを教えてください。

 意思決定インテリジェンスは、エンタープライズ・ソフトウェアにとって世界で最も重要なソフトウェア・カテゴリーであり、今後、より巨大なものとなっていくでしょう。私たちはPeakがその標準になり、永続的なグローバル企業に育てたいと思っています。私たちのミッションは、この技術をできるだけ多くの企業が利用できるようにすることです。多くのビジネスでAIを使う能力を民主化したいのです。

――意思決定の最適化によって、社会課題も解決できそうですね。

 ビジネスが効率化されるということは、当然、環境の観点からも効率化され、その影響が軽減されるということであり、そのような分野でこの技術が強力かつ刺激的に応用されると思います。物流コストを10%削減した顧客では、それだけ二酸化炭素の排出削減につながったということでもあります。このようなことを世界中のすべての企業で大規模に行えば、社会と環境に対して本当にポジティブなインパクトを与えることができるのだと思います。

――新規事業開発の責任者など、日本のビジネスパーソンへのメッセージをお願いします。

 AIによる意思決定は非常に新しいもので、これによって企業はビジネスやプロセスのあり方を見直す必要があると考えています。私は大学で日本のビジネスについて学び、メーカー時代は日本企業とも仕事をしてきました。日本の企業は、意思決定の方法やチームの機能において、非常に階層的で論理的なところがあると思います。

 AIと意思決定インテリジェンスの導入に関する文化的な課題は、技術的な課題と同じくらいに、すべての企業にとって大きなものになると思います。そのため、この分野に関する「読解力」を身につけてほしいと考えています。AIと、AIがビジネスに与える影響について考えたい経営者の皆様はぜひPeakのサイトへアクセスし、ガイドをご覧ください。

 不明な点の理解は私たちがお手伝いいたします。私はこの分野のことを理解していますし、この技術をどのように使ってビジネスパフォーマンスを向上させることができるかを真剣に考えています。これは本当にエキサイティングなことなのです。

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