街角にある独立系コーヒーショップが経営的に安定して、地域住民に長く愛される存在であり続けてほしい。そんな思いから生まれたのが、独立系コーヒーショップ向けにモバイル発注、在庫管理、決済インフラをワンストップで行えるプラットフォームを提供するOdeko(オデコ、本社:ニューヨーク)だ。店舗運営の効率性や調達コストを、世界的な大手チェーンと渡り合える水準にすることを目指し、財務面の強化を後押ししている。「小規模事業者を守る存在でありたい」と話すCEOのDane Atkinson氏に、同社のミッションやサービスの強み、今後の展望について聞いた。

夜間配達で至れり尽くせりの開店準備

 Odekoのサービスの最大の特徴は、コーヒー豆や紙コップ、牛乳、代替ミルクなどカフェにとっての必需品をモバイル発注できて、配達スタッフによって営業時間外である夜間のうちにそれらの発注品が店舗に補充される点だ。夜間配達時の店舗の出入りには事前に受け渡しされた鍵やコードが用いられ、配達スタッフは棚や冷蔵庫など指定された場所に商品を置いていく。カフェの従業員は、その日の営業に必要な物が、あるべき場所にそろった状態で開店を迎えられる。これらのサービスに商品の購入代金以外の追加料金は一切かからない。

 夜間配達は、発注状況に応じて最も効率的な配達ルートがソフトウェアでその都度割り出される。製品群は人気ブランドやローカルブランドを含む400以上のベンダーの品目が並び、Odekoが一括購入元となっているため調達コストを低く抑えられる。これまで、さまざまな運送業者やサプライヤーが関わっていた一連の業務をOdekoが取りまとめたことでサプライチェーン管理が能率化された形だ。

 Atkinson氏は「(当社を利用すれば)時間の節約と在庫コストを下げることができます。大量の発注書や請求書など、金銭的なやり取りをすることもありません。とてもシンプルです」と話す。同社によると、売上原価を最大21%削減し、購買に費やす時間を週に最大10時間削減できるという。

販売データを元にAIが販売量を予測

 さらに、一般消費者向けのコーヒー注文アプリも展開している。こちらはオーダーごとに手数料5%が店舗側から徴収されるものの、独立系コーヒーショップは店舗登録すれば自前の注文サイトを制作する必要がないためメリットは大きい。また、ここでの販売データを元に、AIが将来的な販売量を予測し、店舗運営に必要なアイテムの種類と量を把握することもできる。月単位で支出に関するデータを確認し、トレンド分析や利益率のチェックを行うことも可能だという。

「小規模事業者の実店舗では、POSシステム以外のテクノロジーはほとんど浸透していませんでした。私たちは、創業当初に予測的な機械学習ループやAIを構築し、顧客が店舗の販売品目や消費者との関わりを把握できるようにしました」

「どこの国でも共通して言えることですが、小規模事業者は、販売するための商品を備えるだけで、総売上高の30~40%を費やしています。しかし、スターバックスやマクドナルドのような大手チェーン店を見ると、その数値は20~22%と低く、その差が大きい。私たちは小規模事業者の在庫に費やす資金を改善することができれば、真にインパクトのある変化をもたらすことができると思ったのです」

image: Odeko

「社会のエンジン」である小規模事業者に貢献したい

 Atkinson氏は、18歳で最初の企業を立ち上げて以降、10社以上の企業を設立してきた連続起業家だ。Squarespace、SumAllといった中小企業向けのテクノロジー企業でCEOを歴任し、複数のテクノロジー企業の顧問、役員、メンターとしても活躍する。そして2019年に創業し、現在CEOを務めるのがOdekoだ。

 Atkinson氏が立ち上げたどの企業にも共通しているのは、「小規模事業者への貢献」というテーマだ。「小規模事業者は社会の真のエンジンかつクリエイティブな空間であり、それを守ることが重要であると私は考えています。大企業は人々に多くの価値をもらしますが、そのバランスが必要です」

 独立系コーヒーショップ、カフェ、レストランなどは、新型コロナウイルスのパンデミック中に大打撃を受けた産業の一つ。オンライン注文システムを導入していない個人経営の店舗にとってOdekoのソリューションは最適であった。

「特に外食産業の小規模事業者にとって、この数年間は信じられないほど困難な時期でした。経営者は、テクノロジーを使う必要性、一歩を踏み出す必要性を知っていました。また、顧客の多くは30代が多く、テックファーストの性質を持っています。Odekoは創業以降、非常に速いペースで多くの方に受け入れられました」

Dane Atkinson
Odeko
Founder & CEO
18歳で最初の会社SenseNetを立ち上げる。その後、yourday.com、yourstuff.com、estandardsforumなど10社以上の会社を創業する連続起業家となる。2007年にSquarespaceのCEO、2011年にはSumAllのCEOを歴任。2019年にOdekoを創業し、CEOに就任した。Podiaの役員、Minervaの顧問、TechStarsのメンターも務める。

顧客第一主義から成功の方程式を見つける

 創業した2019年に20人だった従業員数は、2023年現在、400人以上へと拡大した。米国の16都市で事業を展開しており、約1万件の独立系コーヒーショップが同社の顧客。売上高は前年比300%以上に成長を遂げているという。その要因として自身もコーヒーショップ、バー、レストランを経営するAtkinson氏は、顧客第一主義を挙げる。

 毎月各都市で開催される「カフェ・カウンシル」では、カフェ文化やOdekoの活用方法についてのヒアリング、ミーティングを行い、顧客の生の声のフィードバックを収集する。その他、個別のカフェインタビューでは、バリスタ、マネジャー、オーナーとの定期的な対話から、在庫の数え方、スタッフ教育や管理、マージンや運営コストの計算など日々の業務やカウンターの裏側での仕事について学び、顧客と共に成功の方程式を見つける。

「私たちのチームが顧客と関わっていない日はないでしょう。カフェ・カウンシルのような多くのプログラムがあり、素晴らしいフィードバックグループがあります。私たちの方式は、顧客と互いに時間を過ごしながら、彼らの痛みを理解して、実際の問題を解決するための方法を共に考えることです。これが、私たちが成功できた理由だと思います」

日本のブランドとの提携は「有益」

 Odekoは、2023年4月にシリーズDラウンドで5,300万ドルを調達し、累計2億2,700万ドルの資金を調達している。Atkinson氏は資金の使途について、「私たちは事業の黒字化することに重点を置いています。2024年に向けては新規市場への進出、多くの新しいソリューション提供拡大を予定しています」と語った。

 日本企業との提携については、「既存の大手食品メーカーや、自社のブランドを成長させたいと思っている企業との提携が非常に有益だと思っています。こうした企業が、国境を越えたマーケットにおいて、街角の小さなカフェのような小規模事業者にアクセスするのはいつの時代も困難でした。Odekoのプラットフォームを介して、私たちが『こんな日本茶がありますよ』『こんな新しい商品がありますよ』と紹介することで、ニューヨークのショップで製品がより売れるようになったり、企業が参入するきっかけになったりします」と話した。

 短期的なビジョンとして、今後1年間はコーヒー業界に焦点を当てるという。米国におけるコーヒー業界の半数以上を顧客とし、それに関連性の近いいくつかの業界を取り込み、米国でのOdekoプラットフォームの普及を飽和状態にすることを目指す。その後、次の市場に目を向けたいと将来を見据えた。「Odekoが長期的に世界の小規模事業者を守る立場として、成功するための手助けをする存在であり続けることを願っています」



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