自らの体験から、中小企業向け融資の問題「ミッシング・ミドル」に挑む
OakNorthは、2015年に創業したフィンテック企業。銀行業務のほか、ビッグデータとAIによる中小企業向け与信分析SaaS「ON Credit Intelligence Suite」を手がけている。同社のプラットフォームは、デットファイナンス、ビジネスローン、不動産ファイナンス、そのほかの財務管理サービスへの柔軟なアクセスを提供し、企業の運転資金の確保を支援する。
創業したのはRishi Khosla氏とJoel Perlman氏の2人で、きっかけは彼らの体験からであった。2005年、2人は金融リサーチのアウトソーシング企業を展開しており、運転資金を探していた。多くの銀行に相談したが、どの商業銀行からも良い条件は得られなかった。
創業者のRishi Khosla氏とJoel Perlman氏 (Photo: OakNorth)
創業ストーリーについてCIOのHunter氏は、「イギリスの銀行は、10万ポンドの貸付に対して、『家を担保に入れない限り、現金は手に入らない』との条件を出してきました。その数ヶ月後、彼らはアメリカの銀行と仕事をしたのですが、その銀行の機関投資家部門は彼らに1000万ドルを無担保で与えました。その後事業は成長し、2014年にMoody's Corporationに売却しました。彼らが体験した、この『ミッシング・ミドル』における融資問題に特化したビジネスを見つけようと考えたのです」と説明した。
ミッシング・ミドルとは、中小企業に対する資金貸付のギャップ。大手銀行の商業融資部門では、中小企業向けの貸付の手間に対するリターンが比較的が少ないため、あまり注力ができない。しかしながら、中小企業は経済成長の原動力である。そこでKhosla氏とPerlman氏は、大手銀行ではリソースを割けない業務をテクノロジーで解決すべくOakNorthを起業した。
パンデミックによって、金融機関のデジタル活用が大きく進展
「ON Credit Intelligence Suite」は、企業のポートフォリオ全体に対する詳細な分析や財務予測、業界傾向のモニタリングなどによって信用分析をする。Hunter 氏は「多くの銀行が、ローンの規模が50万ドルを超えると、すべてを手作業で行うようになり、非常に非効率です。私たちの競合は、手動の与信プロセスを持つ企業です。私たちは自身で銀行を持っていますので、ユーザーと密接にかかわりプロダクト開発を迅速に行うことができるのです」と述べた。
分析には、マクロ経済データ、代替データソース、業種固有のデータソースを利用。非常に細かい業種分類ごとに、収益の主な要因、コストを押し上げる要因、運転資本を動かす要因を把握する。借り手のビジネスを理解し、そのキャッシュフローを予測し、融資判断の参考にしていく。
Image: OakNorth HP
「ON Credit Intelligence Suite」のユーザーは、グループ企業の銀行OakNorth Bankだけでなく、PNC Bank、Fifth Third 、Customers Bank、NIBC、三井住友銀行などの金融機関。このSaaSの活用で、OakNorth BankはROE、効率性比率、ネット・プロモーター・スコアなどにおいて世界の商業銀行の上位1%に上り詰めているとし、その実績が広く浸透していることがうかがえる。
コロナ禍もOakNorthの成長を後押しした。Hunter氏は「今回のパンデミックは、金融業界にとって大きな変化のきっかけになりました。多くの銀行が、非常に大きな銀行でさえ、自分たちが思っていたよりも迅速に行動できることに気づいたのです。回復期に入っても、この機敏なアプローチと勢いを維持しようとしており、これは非常にポジティブなことです。多くの銀行はこれまで過去の相関関係から景気を判断していましたが、その見方は適切ではないと気づきました。以前は私たちに対して『2年後にDXを実施するときにお会いしましょう』と言っていたのが、突然アプローチが増えたのです」と状況の変化を語った。
コンサルタントのKristensen氏は「貸付の顧客数は指数関数的な成長を遂げています。この危機に直面しているお客様を助けることができましたので、非常に急速な成長を遂げることができました。通常、大手銀行の貸付業務は、多くの人を巻き込んだ意思決定が必要なため、業務サイクルは長いです。だからこそ私たちのプラットフォームが助けになり、短期間で数社の顧客の成功を示すことができました」と付け加えた。
AIによるビジネス判断にブラックボックスはなく、省力化手段の一つ
今後1年から1年半は、コミュニケーションしやすいアメリカ市場に注力し、プラットフォームにも投資していく。日本への参入についてHunter氏は「重要なことは、規制当局との関係です。規制当局に情報を提供し、我々のアプローチを理解してもらうことは非常に重要です。日本の規制当局には少し前に一度はお会いしたことがあり、私たちのことを知っています。私たちが一番避けたいのは、導入直前まで進んだところで突然、規制当局がやってきて、『ちょっと待って、これには問題がある』と言われてしまうことです」と説明した。
AIのアルゴリズムに対して、それがブラックボックス化されて何が起きているかわからないという問題がある。説明ができない判断に対して、市場によっては規制の対象になる場合もあるという。OakNorthのアプローチは各ビジネスに合わせた完全なオーダーメイドで、ブラックボックスはなく、単に人の作業の効率性を高めるためのテクノロジーであることを関係者に理解してもらうのが先決というわけだ。すでに各国で実績があるため、日本への参入も難しくないのではないだろうか。今後もAIなどの技術開発を推進していくOakNorth。やりがいや展望について2人は次のようにコメントした。
Kristensen氏「私の母はファッションデザイナーで、ドレスを作っていました。ビジネスを立ち上げるのはとても難しいことだと理解しています。ですから、起業家のビジネスに力を与えるというミッションは、私が本当に支持したいものなのです」
Hunter氏「これからも起業家やミッシング・ミドルの融資に関する問題解決を重視していきます。この市場に真剣に取り組みたいすべての金融機関は私たちのプラットフォームを利用するでしょう。なぜなら、企業を理解するために最良のソリューションだからです。企業と銀行の間に立ち、迅速に賢く、より多くの融資に役立ちます。私たちは、起業家の方々に力を与えてビジネスに貢献し、雇用を創出し、イノベーションを起こしてもらいたいのです」