Nexa3D(本社:米国カリフォルニア州)が開発する産業用大型3Dプリンターの最大の特徴は、他社製品よりもコストを抑えながら、速く・正確に造形物をプリントできるところにある。同社の3Dプリンターを導入する企業はPepsiCoや、HONDA、P&Gなどの世界的企業も多く、業界も自動車から歯科業界までと幅広い。同社の共同創業者で会長兼CEOのAvi Reichental氏に話を聞いた。

目次
20倍速く製造、85%コストを削減する?
サプライチェーンの「国内回帰」に貢献
日本の要求の高さに魅力、成長を狙える市場

20倍速く製造、85%コストを削減する?

―Nexa3Dが手がける3Dプリンターの特徴を教えてください。

 Nexa3Dは、産業用大型3Dプリンターを開発・製造する会社です。主な強みは印刷速度を飛躍的に向上させたことによるコスト削減効果や、自動車、航空宇宙、歯科、飲料品メーカーなど、幅広い業界に対応できる点です。

 通常、3Dプリンティングによる製造には時間がかかります。また、プロセスがとても複雑です。私たちは3Dプリントの生産性とスピードを桁違いに向上させました。他社の3Dプリンティングソリューションと比較すると、約20倍の速さ、総コストを85%削減できています。

 われわれの顧客には、PepsiCoやSUBARU、HONDA、TOYOTA、P&Gなどの世界的企業がいらっしゃいます。顧客からは、当社製品と従来品を比較した際の段違いの速さとコスト削減効果に対する満足の言葉をいただいています。現在、Nexa3Dのプリンターは世界各地で1,400台以上の納入実績を誇り、約180件の特許を取得しています。

image: Nexa3D

―それほど多くの業界の商品に対応しながら、コストも抑えた製造ができる秘密を教えてください。

 Nexa3Dの3Dプリンターの主力商品である「Resin 3D Printers」と「SLS 3D Printers」にはAIを導入しており、それが学習を続けられる能力を有していることが理由です。多くの製造業が現場で「アデティブマニュファクチャリング」(3Dプリンティング技術による積層造形)を実践していますが、問題は印刷の規模の拡大のために膨大な学習量が必要な点です。数カ月を費やしてリソースを投入するのはざらで、スケーラブルな手法ではないのが現実なのです。

 Nexa3DではAIを導入することで、システムが学習を続け、製造時間、投入コストともに大幅に抑えられる仕組みを構築しています。

 また、われわれは「オープンプラットフォーム」も展開しています。顧客や顧客のサプライヤーがわれわれのプラットフォームに参加し、自社の素材や機能などを追加できるようにしたのです。従来の3Dプリンティング企業は自社のシステムの中に閉じこもった状態で顧客に相対していたことから、多くの制約が生まれ、処理も複雑になっていました。Nexa3Dのオープンプラットフォームは、顧客をこれらの制約から解き放ち、より自由で正確、高速なプリンティングを可能にします。

サプライチェーンの「国内回帰」に貢献

―そもそも、なぜ製造業はアディティブマニュファクチャリング(積層造形)を必要としているのでしょうか。

 コロナ禍で、グローバル化したサプライチェーンの脆弱性に気づいたからでしょう。3Dプリンティングで商品を製造できれば、必要な分の商品を必要な分だけ、販売拠点に近い場所で製造可能になります。未来の製造業を占う重要な要素の一つは「国内回帰」だと考えています。Nexa3Dの3Dプリンターは、複雑なサプライチェーンを簡素化し、ローカライゼーションを可能にします。

 私がNexa3DにCEOとして就任した2018年から3年間、ひたすら製品開発に投資していました。具体的には、液晶ディスプレイやLEDを3Dプリンティングで生産可能にする技術に磨きをかけていたのです。これらの分野の3Dプリンティングは難易度が高く、競合他社はあまり目をつけていませんでした。

 ですが、われわれは「ムーアの法則」を信じていました。ある技術の突破口が見つかると、そこから指数関数的に技術が向上していく、と考えていたのです。実際、われわれは4K市場にすでに参入していますし、7K、12Kも視野に入れています。

―Nexa3Dに参加したきっかけを教えてください。

 私はキャリアの最初の22年間をSealed Air Corporationという包装会社で過ごし、最後には経営幹部を務めていました。その後、3D Systems Corporationという3Dプリンティング企業でCEOに就任し、それ以降はこの業界に長く携わることになります。入社当初は数百人の従業員しかいませんでしたが、2015年に退社するころには数千人にまで増え、時価総額も約1億3500万ドルから100億ドルにまで伸びました。

 同社を退社した時の私は50代後半で「このまま引退するのも悪くないかな」と考えていたのも事実です。ただ、妻から「家を出てくれ」と言われたのです(笑)。そこでベンチャーキャピタリストになり、投資家としてさまざまな企業の立ち上げに携わりました。俗にいうシリアルアントレプレナー(連続起業家)です。そうした流れで、Nexa3Dに投資を始めました。最初は外部のアドバイザーという立場でしたが、次第に本気になっていき、CEOに就任したという経緯です。

Avi Reichental
Co-Founder, Chairman & CEO
包装会社Sealed Air Corporationでキャリアをスタート。同社で22年間勤め、Senior Executiveなどを務めた。その後、3Dプリンターや関連製品の製造・販売を手掛ける3D Systems Corporationに12年間在籍し、CEOを経験。ベンチャーキャピタリストとなり、投資家となる傍ら数多くの企業の立ち上げに携わった。2016年にNexa3Dを共同設立し、現在は会長兼CEO。

image: Nexa3D

日本の要求の高さに魅力、成長を狙える市場

―日本市場をどのように見ていますか。

 私は東京を何度も訪れたことがあります。というのも、日本市場は3Dプリンターとアディティブマニュファクチャリングをいち早く取り入れた国の1つだからです。非常に目が肥えて、要求が高く、プロフェッショナルな企業が多い市場であり、Nexa3Dにとって更なる成長を狙える市場であると考えています。

 日本市場においては、デスクトップ用や産業用などさまざまな3Dプリンターとその関連商品を扱うBrule(ブルレー)と提携しています。

―日本企業と新たに提携することを考えた場合、どのような業界を考えていますか。

 モビリティ企業や消費者向け製造業、歯科用医療機器メーカーなどがメインの業界でしょう。また、新素材を開発する素材系メーカーにも関心があります。未来の製造業はデジタル・ファブリケーションに移行していくことは目に見えています。つまり、設計から製造に至るまで、デジタルで完全に完結する、という意味です。そうした未来においては、低コストかつ高速に製造できるNexa3Dの3Dプリンターのような製品の重要度が増していくはずです。

―パートナーシップを考えた時の、理想の形態はありますか。

 日本のような市場で成功することを考えた場合、現地を知り尽くしたパートナーを持つことは重要です。

 もう一つは、投資について話し合う機会を持ちたいと考えています。向こう20年で、3Dプリンティングの市場ではかなりの数の企業の統合が行われると思います。統合を実現するためには、財政面で支援できるパートナーの存在が不可欠です。われわれは2023年にすでに数件の企業買収を行なっており、知識・経験も豊富です。買収に関して支援をいただける日本企業があれば話してみたいですね。

―最後に、今後の目標を教えてください。

 向こう数年間で、名実ともに業界のリーダー的存在にNexa3Dを引っ張り上げたいと考えています。もはや当社はアーリーステージにある企業ではなく、レガシー企業に代わる有力な企業、そしてデジタル製造業の未来をつくることができる企業だと信じています。

 事実、過去数年間は毎年、売上高が前年比で倍増に近い成長を示しています。経済的にも、地政学的にも強い逆風が吹いているのにもかかわらずです。今後数年間は、私たちにとって非常にエキサイティングになるでしょう。



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