ビジュアルが命の旅行業界やレストラン業界では、常に高品質な画像が求められる。しかし、フォトグラファーによって質や画像処理の仕方は様々で、大量の写真をすぐに欲しいクライアントにとって、撮影を企画・管理するのは時間もコストもかかるものである。またフォトグラファーにとっても、撮影というクリエイティブな業務以外に、営業やバックオフィス業務に時間を割かざるを得ない現実がある。2016年設立のMeeroは、フォトグラファーとクライアントの間に立って、オンデマンドでコンテンツを制作し、AIで画像処理するプラットフォームを提供するフランス発ユニコーンだ。CEOのThomas Rebaud氏に話を聞いた。

フォトグラファーとクライアントの溝を埋めるプラットフォーム

――Meeroの写真プラットフォームについて詳しく教えてください

  私たちは主に2種類のサービスを提供しています。1つ目は、世界中でBtoB向けのオンデマンドコンテンツを制作すること。イベント撮影やプロダクト撮影など内容・場所・撮影量を問わず、高品質な素材を提供する撮影をセッティングしています。これまでに様々なプロジェクトを100ヶ国以上で行ってきました。

 2つ目は、コンテンツ制作に携わらないクライアント向けに、大量の画像をAIを使用して一気に処理できるプラットフォームを提供することです。プロのフォトグラファーが何時間もかけて行っていた画像の編集作業を、AI技術によって数秒で編集することができます。

Thomas Rebaud
Meero
Co-Founder & CEO
フランスのEMリヨン経営学大学院卒業後、仏系金融機関で勤務。数社のIT企業立ち上げに関わり、2016年にパリでMeeroを創業。同社をユニコーンにまで育て上げた。

――どうしてこのようなプラットフォームを作ろうと思ったのですか。

 写真業界では、フォトグラファーとクライアントをマッチングする機会がなく、それぞれのフォトグラファーが、それぞれ異なる価格でサービスを提供していました。画像編集、プロジェクトや納期の管理、価格設定の全てがフォトグラファー1人に委ねられていたことから、マーケットには流動性がありませんでした。またフォトグラファーは、写真を撮ることに関係のない営業やバックオフィス作業もする必要があるのです。私はこのギャップを埋め、マーケットをより流動的なものに変えようと思いました。

 そこで、最初は不動産の撮影に絞り、国もフランスを対象に参入しました。そこから、フード撮影やEコマースの製品撮影にも広げ、国も、フランスから、欧州全体、米国、アジアと拡大していきました。ビジネスは軌道に乗り会社は順調に成長しています。

――現在どのような企業が顧客になっていますか。

 顧客はBtoBで、主に不動産、トラベル、フードデリバリー、EC、小売店などです。大手企業だと、Airbnb、Trivago、Expediaなどが例です。当初は不動産や民泊関係が多かったのですが、フードにも広げています。例えば、3〜4年前、フードデリバリーのアプリを開いても、食べ物の写真がなくとても不便でした。またレストランの内観等も見ることができませんでした。今はそのようなことは全くありません。私たちがその現状を変えたからです。

100ヶ国で展開し、各国のフォトグラファーをマネジメント

――この事業を立ち上げるにあたって、どんな点が難しかったですか?

 私たちの場合、抱えるフォトグラファー、つまりサービスを供給する側を管理することです。どのタイミングで、どのフォトグラファーのスケジュールが空いていて、どのような機器を持っているのか、どこに住んでいるのか、どのような撮影が得意なのか等を把握しなくてはいけませんから。

 この管理を数都市で行うならまだいいですが、100ヶ国以上となると、言語も複雑で、納期もバラバラです。また、一部のクライアントは緊急で素材を明日までに欲しいという場合もあります。責任を持ってフォトグラファーが撮影現場に来てくれるかということも管理しなくてはいけません。

 クライアントからすると、ただ素材が欲しいだけなのでプロジェクト管理に関しては手を出しません。私たちは、全てのプロジェクトマネジメントをスムーズに行えるよう努力していますが、この問題は今までもありましたし、これからも起こり得る問題です。

――これまでに2億9000万ドル以上を調達しています。主に何に投資していますか?

 まずオンデマンド撮影のサービスをより拡大させるという目標があります。つまり、顧客を増やしながら、より多くのフォトグラファーを採用する必要があります。

 次に、テクノロジーの改善です。当社には大きなAI部門がありますが、リサーチや開発を行う担当をたくさん抱えています。ここに投資を行い、プラットフォームをAIを通してよりよく発展させなくてはいけません。これには人材雇用やインフラ投資を含み次の3~5年間を見通しています。

Meeroのチーム Photo: Meero

 そして最後に、写真業界での私たちの存在をより明確にすることです。すでに無料で提供しているツールもあり、独自のドキュメンタリーや雑誌も出版しています。マスタークラスも開催したいと思っています。

 活動しているほぼ全ての都市にアンバサダーもいて、毎月彼らと話し合う機会も設けています。これら全てにはコストがかかりますが、フォトグラファーを知る良い方法です。フォトグラファーは私たちの第一のリソースですから、相手のことを知りたいと思うのは自然だと思います。

――Meeroは日本へも展開しています。日本展開について聞かせてください。

 日本にはすでにチームを配置しており、DiDi Foodや、三井不動産、出前館といった企業が顧客になっています。欧州と日本とでは文化が全く違いますが、日本では物事も順調に進みますし、一度進出してしまえば展開しやすいマーケットだと感じます。

 アジアに進出を検討していた時、真っ先に日本が思い浮かび、良いビジネスチャンスになるだろうと思いました。アジアでは、他にもシンガポールやインド等でサービスを提供していますが、日本はアジア地域内でも成長率が非常に高い国のひとつです。各四半期ごとに2桁の成長率を達成しており、クライアントも非常に満足しています。

 今後も、ウェブサイトに写真が必要な企業なら誰でも支援したいと思います。ビジネスパートナーシップの提携という面では、AI画像処理技術を提供する企業を探しています。



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