インドの小売業者向けのマーケティングプラットフォームを提供するMagicpin。ファッション、食品、電化製品などの小売業者に対して電子クーポンやポイントプログラムといった販促に利用できる機能を提供する。消費者は、MagicpinのWebサイトやスマートフォンアプリの利用を通じて割引やキャッシュバックなど、お得な買い物ができるのが特徴だ。共同創業者でCEOのAnshoo Sharma氏は、米国屈指のアーリーステージのベンチャーキャピタル(VC)、Lightspeed Venture Partnersのインド法人においてスタートアップ投資の豊富な経験を有する。創業の経緯や現況、将来展望を聞いた。

巨大なインドの小売市場の近代化を目指す

――創業までの経歴を教えてください。

 Magicpinの前はVCであるLightspeed India Partners(Lightspeed)にいました。ここで私は2009年という非常に早い時期から投資活動を始め、非常に楽しい経験をしました。大きな市場に取り組む質の高いチームと、そこに資本を提供すれば、拡大して価値を生み出すことを学んだのです。そして、自分でも会社を始めようと思うようになり、幸運なことにLightspeedの支援を受けることができました。

 Lightspeedの前は、Bain & Co.という企業でコンサルタントをしていました。当初は米ボストンに勤務し、その後インド進出チームの一員となり、ビジネスを作り上げました。Bain & Co.以前はエンジニアでした。

Anshoo Sharma
Magicpin
Co-Founder & CEO
デリー大学でコンピュータサイエンスを専攻し、2001年に卒業後、Hughes SoftwareやMotorolaにおいてエンジニアとして活躍。2006年にIndian Institute of Management AhmedabadでMBAを取得して以降は、Bain & Co.にてコンサルタントに転身。2009年からLightspeed India Partners Advisorsにてスタートアップへの投資事業に携わる。2015年にBrij Bhushan 氏(現COO)とMagicpinを共同創業した。

――Magicpinを創業しようと思った理由や、ビジネスモデルについて教えてください。

 Lightspeed時代から、インドのローカルな小売業のビジネスを模索していました。巨大な市場にも関わらず、90%はオフラインで活動しているからです。インドには何百万という小さな小売店があり、地元の小売業者は、ある意味、国の生命線ともいえます。100年以上の歴史がある非常に成熟したエコシステムで、事業者は何世代にもわたって栄枯盛衰を乗り越えてきました。

 一方でIT化が進む中、消費者がスマートフォンから地元の店を利用したいと思っていても、適切なサービスはありませんでした。たとえばGoogleやInstagram、Facebookの広告を使えば、店舗のサイトへの誘導はできますが、店舗が大きな利益を生むことはありませんでした。

 そこでMagicpinはオフラインの小売業者向けのマーケティングプラットフォームを提供することにしたのです。消費者向けには、地元の店でモバイル決済ができ、かつポイントを得るなどお得になるようなサービスです。ビジネスモデルは、Magicpinを通じて生じた買い物に対する手数料です。

 Magicpinは消費者と小売業者の間に位置し、消費者が商品やサービスの購入のために支払いをすると、手数料を差し引いて、小売業者に支払います。私たちが得た手数料の一部は消費者と分け合います。一般的な手数料は18%で、たとえば、100ドルの買い物の場合、消費者は獲得ポイントを差し引いた90ドルを支払うこととなり。そして8%を手数料とし、残りの82ドルを小売業者に支払うという仕組みです。

Image: Magicpin

スマートフォンの普及によって、消費動向を詳しく捉えられるように

――以前、インドの地域コミュニティを活用したECサービスを展開するCitymall社を取材しました。Magicpinも地域のコミュニティを活用するビジネスなのでしょうか。

 Citymallは、地方都市や農村部で卸売業者向けにビジネスを展開していると思います。Magicpinは、インド国内の上位20都市の小売業者を対象としている点が違います。そして、当社はカテゴリーを超えてエコシステムを作っています。Amazonが販売業者に対して出品や集客のサービスを展開しているようなものです。小売業者が望むなら手数料率を上げて、Magicpinが店舗へのトラフィックを促進し、店の前に行列をつくることもできます。

 特に、開店当初やビジネスを始めたばかりの時期は、多くの人にお店のことを知ってもらいたいですね。十分な顧客獲得ができたら、手数料率を下げ、マーケティング費用を抑えることができます。

 中国やアメリカにもクーポン共同購入サイトのようなビジネスがありますが、私たちが違うのは、スマートフォンが普及した後に生まれたことです。Magicpinでは消費者が買い物をするとポイントを取得できるシステムを構築していますが、これはSMSをベースにしています。すべての取引がスマートフォンを通じて行われています。

 その結果、消費者がどこでいくら使ったのかを把握できるようになります。WebブラウザがCookieでユーザーを特定できるように、オフラインのユーザーを特定できるのです。

 消費者があるカフェに行ったとしたら、Magicpinを通じてカフェとつながり、次回の来店を促すことができます。このように、オンラインの仕組みをオフラインに持ち込み、小売業者に対して急成長するオンライン経済へ参加する機会を与えているのです。私たちはこの分野でナンバーワンのプレイヤーになっています。

Image: Magicpin

拡大よりも、エリアへの深化で価値を高めていく

――利用する消費者や店舗の数など、事業の成長について教えてください。

 消費者は、現在500万人以上の月間アクティブユーザーがいます。手数料を支払う有料加盟店は20万近くあります。15カ月前と比較すると、3倍の規模になっています。その間により多くの都市に進出しているのではなく、各都市の市場に深くかかわった結果です。

 ローカルの事業者を集めるのは大変なことではありますが、私たちは面白い機能を開発することで加盟店増の取り組みを効率的に行うことができるようになっています。

 SMSをベースとしたポイントシステムを応用し、買い物のレシートに記されたタックスIDを抽出することができました。加盟店になってもらいたい店鋪に対して、タックスIDから電話番号を逆引きして、リンク付きのWhatsappメッセージを送ります。リンク先にはそのエリアの同じカテゴリの店舗のランキングを掲載します。そして、私たちの加盟店になればより高いランクになれるとアピールするのです。こうした工夫の結果、大規模なネットワークを構築できるようになっています。

 次の目標は、今後12カ月で規模をさらに2倍にすることです。密度が価値を生み出すと考えていますので、より深化していきたいです。あるエリアに消費者と加盟店が増えれば、さらに増えていく好循環が生まれます。そして、その地域の起点になるのです。検索ではGoogleを使い、オンラインショッピングでAmazonを使うように、家から出たらMagicpinを使うようになるのです。

――日本企業とのパートナーシップに興味はありますか。また将来像ついても教えてください。

 インドでオフラインの店鋪を営もうと考えている日本企業ならご一緒できるでしょう。最初の集客を確保し、そのエリアから継続的にリピーターを獲得できるはずです。

 私たちのビジョンは、オフライン小売の起点になることです。小売業者のデジタル化を促進できるようになりたいのです。私たちは小売業者をよく理解しているので、小売業者のデフォルトのCRMになることができ、消費者向け業務システムも提供できます。オフラインの小売業におけるAmazonのようなものと考えていただければと思います。

 私たちのプラットフォームを通じて、どこで何が売れたかがわかります。どの都市でどんな企業の商品のシェアが高いかがわかります。将来的には、小売店の販促だけでなく、メーカーに対しても販促の提案ができるようになるでしょう。店鋪と協力し、市場シェア拡大のお手伝いもできると考えています。



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