KONUX(本社:ドイツ・ミュンヘン)は、テクノロジーの力で鉄道インフラの監視・予知保全に新たな風を吹き込んだスタートアップだ。例えば、電車の遅延の原因としてよく耳にする「ポイント故障」を未然に防ぐには、線路上に何千、何万とある分岐器の状態を把握しなければならないが、マニュアル点検では限界がある。KONUXは、機械学習と産業用IoT(IIoT)を活用し、分岐器に設置したスマートセンサーでデータを収集。列車が通過する際にかかる力や加速度などを常に監視・分析することで、メンテナンス時期を予測するソフトウェアプラットフォームを提供する。ドイツ鉄道からの大型受注をはじめ、日本での事業拡大にも意欲を示す同社のCEO、Adam Bonnifield氏に事業概要や将来のビジョンを聞いた。

ホワイトハウスから鉄道の最前線へ

―これまでのキャリアと、KONUXに参加された理由についてお聞かせください。

 私のキャリアはコンピューターサイエンスから始まり、テクノロジー系のスタートアップの立ち上げも経験しました。2015〜2017年には、オバマ政権時代のホワイトハウスでテクノロジー関連の組織の設立に関与しました。その経験から、テクノロジープロジェクトが産業やインフラに与える影響、そしてそれが人々の生活にもたらす変化の大きさを深く理解することができました。テクノロジーは世界の問題を解決する力を持つことをホワイトハウスで学んだのです。この仕事が私の熱意を引き出しました。

 オバマ大統領退任後は、AirbusでAIプログラムを立ち上げ、これが数百人規模にまで成長しました。その経験を活かし、鉄道業界への次世代技術の導入い取り組むKONUXに参加し、鉄道業界に次世代技術を導入したのです。

 KONUXの目標は、2050年までに鉄道網の輸送能力を倍増させることです。これは効率的な輸送手段だけでなく、気候変動への対応としても重要です。テクノロジーへの深い理解と愛情から来るこのプロジェクトに参加できたことは、私にとって幸運でした。

Adam Bonnifield
CEO
コーネル大学でコンピュータサイエンスを専攻。ケンブリッジ大学で哲学の修士号を取得。団体が寄付やボランティアを呼びかける活動を行うWebサイトや、Webマーケティングプラットフォームを展開する企業を創業。2015年からはホワイトハウスでAIやビッグデータを駆使したプロジェクトを担当。2017年から約4年、AirbusでAI分析の責任者を務め、2022年にKONUXのCEOに就任。

―KONUXの創業の経緯を教えていただけますか。

 KONUXは、コンピューターサイエンスとエンジニアリングを専門分野とするミュンヘンの工科大学出身の創業者たちが2014年に立ち上げました。当初はIoT製品の開発に取り組み、さまざまな業界向けのセンサー製品を開発しました。これらのセンサーにより、大量のデータを収集することができました。その後、創業者たちは特定の業界にフォーカスすることにして、鉄道業界に注目しました。

 鉄道業界は効率性の問題が多く、インフラの監視やメンテナンスに適したソリューションが不足していました。そこでKONUXは、鉄道インフラの改善に焦点を当てたソリューションを開発しました。私たちのプロダクトはドイツの鉄道システムから始まり、現在では日本を含む10カ国以上の市場に展開しています。各国の鉄道のさまざまな問題に取り組んでいるのです。

image: KONUX

鉄道業界に風穴を空ける、KONUXのAI駆動型センサーテクノロジー

―プロダクトの特徴や競合について教えてください。

 当社の主力製品である「KONUX Switch」は、鉄道インフラの非常に重要な要素である分岐器に設置されるセンサー装置です。分岐器は、列車を他のレール上に分岐させるための装置です。「KONUX Switch」は分岐時にかかる加速度や力などを検知することができます。検知したデータをAIによって分析し、メンテナンス時期を予測し、必要な対策を講じることができます。これは鉄道ネットワークの運用と管理において極めて重要で、突然のインフラ故障などが原因で遅延が生じ、無駄なコストが発生する問題を回避できます。

 ドイツ鉄道は「KONUX Switch」による故障や問題箇所の予測は、商業展開の段階において精度が90%以上であると認定しました。さらに当社のソリューションは保全活動に関連する遅延をおよそ50%削減することができ、その結果、鉄道インフラで使われる構造物全体の寿命をおよそ20%延ばせることが分かっています。

 鉄道業界は非常に大きな産業で公的な規制もあり、IoT関連の事業で参入するにはデバイスの認証が必要です。KONUXは小さな企業ですが、革新的な領域を自ら創造することで、他社に先駆けてこの事業に参入することができました。同じ分野の競合も登場していますが、KONUXはAIなどによる高度な分析技術を持っています。単にデータを集めるだけでなく、本当に鉄道インフラで起きていることを捉え、高度な未来予測を行っているのです。

 環境が整えられた研究室の実験などではデータ収集も容易ですが、屋外の環境にむき出しになっている鉄道インフラは事情が異なります。砂利が飛んできたり、冬には氷の破片がぶつかったり常に混沌とした状態にあるので、物理的な頑強さが求められらます。「KONUX Switch」のデバイスは、そうした条件に耐えられる強度を持ち、最適に設計されたセンサーが線路のわずかな変化を捉えます。そして、高度なAIや機械学習によって分析できるのです。

image: KONUX

ドイツ鉄道の繁忙エリアに採用。アジア市場は日本に注目

―御社の成長や現在注力されていることを教えてください。

 当社の従業員は2023年初めに約100人だったのが、およそ半年後の7月時点で150人近くにまで拡大しています。データ収集の量や、収益も急速に増え、会社としての成長を実感しています。私たちは間違いなく高い成長モードにあります。事業としては、これまでに複数の顧客と試験的な段階を経てきましたが、現在ではより全国的な展開に向けて進んでいます。

 私たちの最初の顧客はドイツ鉄道で、創業翌年の2015年から試験的に協業を開始し、2020年には分岐器650カ所にシステムが導入されました。最近では、私たちのデバイスがドイツ鉄道の混雑するエリアにも採用されることになり、ネットワーク全体の約15%に展開されると発表されました。

 私たちのストーリーはまだ始まったばかりで、やるべきことはまだたくさんあります。今の段階では、私たちの予知保全ソリューションがドイツ鉄道という欧州でも最大規模の鉄道会社に採用され、実証されつつあります。今後は欧州全土、そして世界へと拡大していく予定です。

―日本市場への参入についてどうお考えでしょうか。

 日本はアジアで最も優れた、間違いなく最高の鉄道ネットワークを持っています。日本での成功は、他のアジア市場への大きな足がかりとなるでしょう。なぜなら、多くのアジアの鉄道網は、日本の鉄道ネットワークをモデルにしているからです。私たちは日本の鉄道網が素晴らしい検証対象になると考え、アジアではまず日本にアプローチすることに決めました。常に新しいパートナーや協力者を探しています。

 私たちが解決しようとしている鉄道の問題は、世界中のどこでも普遍的なものです。何百年にもわたり、これらの鉄道ネットワークの維持・運用方法が存在してきました。しかし、今までのアプローチや技術は、技術者の引退による人員不足や人口動態の変化に対応できなくなっています。だからこそ、新しいアプローチを持つ革新的な企業が求められているのです。

 日本の鉄道ネットワークは極めて時間に正確で、現在でも高いパフォーマンスを維持しています。しかし、私たちはその将来を見据えており、問題が深刻化する前に、予知保全という新しいアプローチが必要だと考えております。



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