世界最大級の住宅デザイン・設計のオンラインプラットフォーム「Houzz」。同社の資金調達は総額で2億1360万ドル、時価総額は23億ドル(2014年10月の資金調達時点)に達する。もともと趣味として夫婦で始めたプロジェクトだったが、いまや「ユニコーン(時価総額10億ドル超の企業)」といわれる世界的スタートアップにまで成長した。今回はCEOのAdi Tatarko氏に立ち上げの経緯、成長の理由、経営哲学などについて聞いた。

Adi Tatarko
Houzz
Co-founder, CEO
2009年、夫のAlon Cohen氏と共にHouzzを設立し、共同創業者兼CEOに就任。

“悪夢”のようなリフォーム体験

―まず「Houzz」の概要を教えてもらえますか。

「Houzz」は、世界最大級の住宅デザイン・設計のオンラインプラットフォームです。月間3500万人がサイトに訪れ、住宅・インテリアに関連した500万件の商品、950万枚の写真を閲覧でき、100万人もの専門家とコミュニケーションすることができます。家を設計・リフォームしたい人は、「Houzz」に行けば、理想とする家の写真が見つかり、建築士やデザイナーに相談でき、実際に発注もできるというわけです。

―もともと「Houzz」は、タタルコさん夫婦のリフォーム体験がきっかけで生まれたそうですね。

 “夢”の家を作るつもりが、“悪夢”に近いリフォーム結果になってしまいました。多くの時間とお金を費やしたにもかかわらず、作りたい家のアイデアを見つけることも、いいリフォーム業者に依頼することもできなかったんです。とてもがっかりしましたが、一方で、もっと良い方法があるはずと考えました。

 そこで、私たちは地元のリフォーム業者とユーザーをまとめるサイトを立ち上げました。最初はビジネスではなく、私たち夫婦の趣味のプロジェクトでした。それが「Houzz」を始めたきっかけです。

クチコミだけで世界中に広まった理由

―地域のプロジェクトとして始まった「Houzz」は、いまや世界中に広まっています。「Houzz」を広めるために、何か特別なマーケティングをしてきましたか?

 いいえ、マーケティングにお金は使わず、クチコミだけで広まりました。米国内でも、海外でも、クチコミだけで広まっています。たとえば、日本でも2015年4月にオフィスを立ち上げましたが、それ以前から日本の専門家が1000人以上、クチコミだけで集まっていました。

―なぜクチコミだけで、世界最大級のコミュニティにまで成長したと思いますか。

 その理由は明快です。みんなが必要だと思うコミュニティを作ったからです。家というのは、誰にとってもとても大事なテーマです。でも、これまで家に関する情報や専門家がばらばらに存在していて、それをひとつにまとめるコミュニティがありませんでした。そこで、私たちはテクノロジーを使って、家のオーナー、専門家、メーカーをひとつのコミュニティにまとめました。それによって家づくりが今までよりもっと楽しく、便利になったのです。

 また、私たちは、お金儲けのために何かを作ったりしませんでした。ユーザーが必要としていて使いたいと思うものだけを作りました。これは私たちの創業時からの一貫したこだわりです。だからこそ、Houzzはユーザーから愛され、必要とされ、クチコミで世界中に広まっていると思います。

コミュニティに必要なものをビジネスにする

―継続的にビジネスとして続けていく以上、収益も必要です。現在のマネタイズ方法について教えてください。

 3つあります。最初に始めたのは、ブランド広告です。きっかけは、IKEAカナダから連絡があり、「カナダでHouzzはとても人気です。IKEAが家づくりをどう良くするかについての広告を載せてもらえませんか」と依頼されたことです。そこで、私たちは「モダンなキッチンにリフォームする」というテーマでブランド広告を作成しました。こういった情報は読者にとって有益だと思ったからです。そして、そのテーマに興味を持っているユーザーに配信したところ、ユーザーからもとても評判がよく、広告主からも喜ばれました。その後も、さまざまな広告主から依頼されて、ブランド広告を配信しています。

 次に始めたのは、専門家向けのプレミアムリスティングです。Houzzには建築家、庭師、大工、製品デザイナーなど、世界中で100万人もの専門家が登録しています。専門家は自分の仕事を世界的に広めることができますが、もっと自分の仕事を地元で重点的にPRしたいというニーズもありました。そこで、地元のユーザーと専門家を結びつけるため、リスティングのサービスを始めたのです。

 3つ目はEコマースです。始めたきっかけは、ユーザーから掲載商品の購入について問い合わせが相次いだことでした。「Houzzに載っている商品をアラスカに送れますか?オハイオ州には?」といった問い合わせが相次いだことでした。「Houzz」では、掲載商品の販売元についての情報を掲載していました。しかしユーザーは「Houzz」上で見た商品を、そのまま購入できるようにしてほしいと望んだのです。そこで2014年末にEコマースをスタートしたのです。

―どのビジネスもコミュニティからの要望をもとに生まれているのですね。

 大事なのは、どのビジネスもコミュニティに必要とされているということです。ブランド広告はユーザーに必要な情報を提供し、リスティングは専門家と地元の人たちとの交流を生み、Eコマースはユーザーのほしい商品を「Houzz」上でワンストップで購入できます。すべてコミュニティに価値を生んでいるビジネスであり、すべて必要なのです。

大型の資金調達は経営方針に影響するか

―2014年10月にはSequoia Capitalなどから1億6500万ドル(累計2億1360万ドル)の資金調達をしています。大型の資金調達をしたことで、経営方針に影響はありませんでしたか。

 影響はありません。私たちの経営方針を理解してくれる投資家に入ってもらったからです。実は、はじめは投資を受けようとは思っていませんでした。投資を受けてしまったら、経営方針を指示されたり、マネタイズを急がされたりするんじゃないかと危惧していたからです。

 しかし、経験豊富な起業家たちからアドバイスを受けて、考えが変わりました。「いい投資家というのは、車の後部座席に座って、あなたに好きなように運転させてくれるものだ。でも必要なときにだけサポートしてくれて、とても助けになる。それに投資を受ければ、人を雇うことができ、自分たちがやりたいことをもっと速いスピードで実現できる」と。実際、それはその通りでした。

 経験豊富な起業家や投資家のアドバイスは、とても参考になります。いつか、私も若い起業家たちにこの経験を伝えていきたいですね。



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