生成AIによる映像生成が注目を集める一方、多くのソリューションは専門知識を必要とし、限られたユーザーしか活用できない状況が続いている。こうした現状を打破しようとしているのが、米カリフォルニア州に本社を置くHedra(ヒドラ)だ。中核技術である独自モデル「Character‑3」は、テキストや画像、音声など複数のモダリティを統合し、ユーザーに完全なクリエイティブコントロールを与えることで、動画生成を「誰もが触れる表現手段」へと進化させる。同社の創業者でCEOのマイケル・リンゲルバッハ(Michael Lingelbach)氏に、同社のビジョンや技術の特徴、そして今後の展望を聞いた。

まずは「Hedra Studio」と「Character‑3」のデモ動画をチェック!

すごいですね!動画生成AIはここまで進化しています。
では、記事本編へどうぞ。

目次
生成AI黎明期に見つけた「大きな空白」
「不気味の谷」を回避する独自アプローチ
活用領域はeコマースから教育まで
アウトバウンド営業なしでも急成長
日本は世界でも最もエキサイティングな市場

生成AI黎明期に見つけた「大きな空白」

 リンゲルバッハ氏がヒドラを立ち上げた背景には、生成AI黎明期に見つけた「大きな空白」があった。

「ちょうど生成メディアブームが始まった頃でした。ハリウッド向けのAIアーティストに特化した企業や、教育分野に注力する企業はありましたが、『対話』と『動画』を組み合わせている会社は存在しなかったんです。特にマーケターにとって、多くのコンテンツは対話中心ですから、これは重要な要素だと感じました」

 当時スタンフォード大学で計算神経科学の博士課程に在籍していたリンゲルバッハ氏は、そのチャンスを逃さないため、思い切って休学を決断。「私たちの目標は、音声と映像を一体で処理できる基盤モデルを開発し、人々が画像・音声・動画をワークフローの中で簡単に扱えるプラットフォームをつくることでした」

「対話型コンテンツ」という未開拓領域に確信を持って挑んだこの決断が、のちにヒドラの急成長を支える礎となった。

Michael Lingelbach
Founder & CEO
米バージニア大学卒業後、ソーク研究所で幹細胞モデルの画像解析/データマイニング手法の研究に従事。スタンフォード大学の計算神経科学(Computational Neuroscience)博士課程に進学後、2023年に大学を休学し、Hedraを創業。AIと舞台演劇の知見を融合し、キャラクター生成に特化した動画プラットフォームを開発。

「不気味の谷」を回避する独自アプローチ

 従来の動画生成AIは、いかにリアルな人物像を再現するかに注力してきた。しかしヒドラは、あえて異なる道を選んだ。ハイパーリアリスティックな映像だけでなく、「表現力豊かなキャラクター」を生成することに力を入れているのだ。

「私たちのモデルの強みは、リアルなキャラクターだけでなく、アニメーションスタイルも生成できる点です。多くの人々は、アニメキャラクターと対話することをとても楽しんでいます」

 この発想の転換が、「不気味の谷」問題を回避する鍵となった。リアルすぎて違和感を覚える映像ではなく、親しみやすく表情豊かなキャラクターを介することで、自然なコミュニケーションを可能にしている。

 さらに注目すべきは、リンゲルバッハ氏が日本アニメーション文化に深い関心を持っている点だ。「私は個人的に日本のアニメーション業界の大ファンです」と語る彼の思いは、ヒドラの開発にも色濃く反映されている。

 実際に、同社の「リアルタイム・アバターズ」では、多言語対応のインタラクティブな3Dアバターと会話できる。中には日本語で話せるキャラクターも存在し、着物姿の女性や「anime husbando」「anime waifu」といったアニメ風キャラクターもラインナップされている。

活用領域はeコマースから教育まで

 ヒドラの技術の中核を担うのが、独自開発の「Character-3」モデルだ。テキスト、画像、音声を統合的に処理し、一貫性のあるキャラクター動画を生成できる。

「Character-3モデルは、ポッドキャストやマーケティングコンテンツで多く利用されています。たとえば、バーチャルインフルエンサーやスポークスパーソンの作成、あるいはエンターテインメントとマーケティングを融合した新しいタイプの動画制作にも活用されています」

 さらに同社の強みは、自社開発モデルだけにとどまらない。グーグルやOpenAIなど外部の最先端モデルも統合できるプラットフォームを設計し、常に最適な技術を組み合わせて使えるようにしている点だ。

 一方、リアルタイムで対話できる「リアルタイム・アバターズ」では、教育・学習やeコマースなどで実用化が進んでいる。「学習分野では、語学学習やインタラクティブなチュータリングが代表的なユースケースです。eコマースでは、ライブショッピングや、商品の質問に答える販売アシスタントとして活用できます」

 その応用範囲はさらに広がる。カスタマーサポートの場面では、人気キャラクターが直接ユーザーの質問に答えるような体験も可能だという。「例えば、有名キャラクターを使った商品販売で、そのキャラクター自身がサポートを担当することもできます。ユーザーにとっては、とても楽しい体験になるはずです」

 ゲーム領域でも関心は高い。リンゲルバッハ氏によると、チャットやコンパニオン機能、大規模言語モデルをキャラクターに“宿す”ような新しい活用法が注目を集めている。

アウトバウンド営業なしでも急成長

 ヒドラは創業からわずか数年で、驚異的な成長を遂げている。最新モデル「Character-3」を2025年3月に発表して以降、収益はわずか数カ月で10倍以上に伸びた。「収益は3月のローンチ以降で10倍以上に増加しました。特に先月だけでもエンタープライズ部門の成長が倍増しています」

 チーム規模の拡大も急ピッチだ。2024年初めにはわずか4人だったが、2025年夏には約30人にまで拡大した。急成長の背景には、ユニークな営業戦略がある。ヒドラでは現在、アウトバウンド営業を一切行っていないという。

「私たちはアウトバウンド営業をしていません。すべてインバウンドです。技術が使いやすく信頼性が高いため、API経由での統合に時間がかからず、ユーザーが実際のサービスや広告などでこの技術を目にしたとき、口コミを通じて自然に私たちに戻ってきてくれるのです」

 その勢いをさらに後押ししているのが、資金調達だ。2025年5月にはアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が主導するシリーズAラウンドで3,200万ドルを調達し、事業拡大フェーズに入った。「大規模な資金調達を経て、Go-to-Marketチームを強化しています。特に日本やその他の地域での投資を増やし、現地企業と協業して技術を統合する大きな機会だと考えています」

日本は世界でも最もエキサイティングな市場

 リンゲルバッハ氏は、日本市場をヒドラにとって極めて重要な拠点だと位置づける。

「日本は世界の中でも最もエキサイティングな市場のひとつだと思います。革新の歴史があり、コンシューマーアプリやエンタープライズアプリの両面で、新しい取り組みを積極的に進めている企業が多いからです」

 実際、同社はすでに日本のエンタープライズ企業や一般ユーザーに利用されているほか、複数のアニメーション企業とも協議を進めている。

「私は日本のアニメーション業界の大ファンです。私たちの技術を基盤に、インタラクティブな体験を生み出す新しい方法を一緒に模索できると考えています」

 リンゲルバッハ氏はさらに、将来的に日本市場へ積極的に投資し、現地企業との協業を拡大していく意向を示した。

「私たちは日本に多くの投資を行っています。現地のニーズを理解し、より良い体験を提供できるよう協働することを楽しみにしています」

 この姿勢は、単なる技術提供にとどまらず、新しい創作体験そのものをデザインしようとするヒドラの野心を示している。

 リンゲルバッハ氏は最後に、日本の潜在的パートナーや顧客への力強いメッセージで締めくくった。

「私たちは皆さんとの協働を非常に楽しみにしています。日本市場のニーズを深く理解し、より良い技術と体験をどのように提供できるかを考えることを、本当に楽しみにしています」

image : Hedra HP



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