デリバリーシステムなくして実用化は叶わない
―まずはCEOの経歴と、GenEdit設立の経緯を教えていただけますか。
私は韓国で科学者として学び、その後UCバークレー校で創薬・代謝・生物学を専攻し、博士号を取得しました。博士課程では、肥満や肝臓関連の代謝異常、発がん物質の前臨床研究を行い、新薬の開発に取り組みました。
2012年に、UCバークレー校のジェニファー・ダウドナ教授たちが、ゲノム編集技術CRISPR-Cas9を開発した時から、ゲノム編集における新時代が始まると誰もが思いました。同時に、この画期的な技術を、人間の治療で使うためには、デリバリーという大きな問題があり、それが最大のハードルとなることもわかっていたので、私と共同創設者のKunwoo Leeは、デリバリー問題のソリューションに取り組むことにしました。
2014年に、CRISPR-Cas9の開発者であるダウドナ教授と、その他の先駆者2人がそれぞれ起業しました。彼女たちが始めた企業の当時の時価総額は10億ドルを超えましたが、実際は前臨床研究、つまり動物試験を行っている段階に留まっていました。なぜ実用化に進まなかったかと言うと、最先端技術を治療法に変換するために必要なデリバリーシステムがなかったからです。
例えば、1990年代にRNA干渉(RNAi)というノーベル賞級の画期的な発見がありました。次世代の治療法として大きな期待が寄せられましたが、デリバリーシステムがなく、実用化まで20年かかりました。しかも、20年かけて、FDAの承認を取得した医薬品は1つだけです。
新しいデリバリー技術を求める巨大な市場があります。私たちは、デリバリーソリューションを作ることができると考え、GenEditを設立しました。
免疫療法や癌などの疾患にも適用できる可能性が見える
―デリバリー技術とは、具体的にどういった技術なのでしょうか。
私たちのミッションは、独自のナノ粒子(Polymer Based Nanoparticles)を運搬体として用いた、ウイルスを使わないデリバリーシステムにより、遺伝子治療薬や細胞治療薬を革新することです。
当社は、CRISPR-cas9のデリバリー技術の開発から始まりましたが、生物学的製剤の増加に伴い、現在はsiRNAやmiRNA、そしてCRISPRおよびその他のCasタンパク質群にも対応しています。
例えば、CRISPR-Cas9は、“遺伝子用のハサミ”です。DNAのゲノム編集を行い、遺伝子変異を除去または修正できるため、遺伝的障害の原因を根本的に治すことができます。当社の役割は、独自のPolymer Based Nanoparticlesを使い、対象とする治療薬をカプセルのように包み、修正が必要な臓器や細胞に安全に届けることです。当社のNanoGalaxy™プラットフォームでは、治療薬をターゲットに、安全かつ効率的にデリバリーするために最も適したポリマーを見つけるためのスクリーニングを行い、初代細胞で試験し、計算分析も行います。ターゲットへのデリバリーを設計します。
当社のPolymer Based Nanoparticlesは、ウイルスを使わないため、単純な化学合成により作れ、低コストでの製造が可能ですし、他と比べて毒性も低いソリューションです。そして、核酸だけでなくタンパク質のデリバリーもでき、汎用性も高いです。
これまでに、肝臓、CNS(中枢神経系)、免疫細胞など、いくつかの細胞組織で当社のテクノロジーの試験を行い、遺伝性疾患に取り組んできましたが、免疫療法やがんなどの疾患にも適用できる可能性が見えてきています。大きな可能性がある市場なのであれば、今後、免疫療法や癌などの疾患に、対象を広げていきたいと考えています。
米国内を主に韓国などアジアとヨーロッパからも注目されている
―日本企業とのパートナーシップも検討されていますか。
パートナーは、2種類あります。一つは、当社のデリバリー技術のライセンスパートナーで、もう一つは、共同で研究開発を行うパートナーシップです。例えば、米国の製薬会社Editasはライセンスパートナーです。
現在は、主に米国内の企業と、韓国企業を始めとしたアジアの企業や、ヨーロッパの一部の企業から引き合いがあります。もちろん、日本企業との意見交換もお受けします。