目次
・食料品特有の難しさを完全無人で解決
・手作業をなくせば、経済にも環境にも優しい
・カリフォルニアを訪れたら「私たちを見て」
食料品特有の難しさを完全無人で解決
―オンライン食品販売業者向けの完全自動ソリューションを備えたマイクロフルフィルメント倉庫を開発しました。特徴や技術について教えてください。
商品を人の下へ運ぶという点では他のシステムと類似していますが、靴や服などとは異なり、食料品の場合はリンゴやショウガ、牛乳など、形や大きさが異なる商品を扱うため非常に難しいです。私たちはこの問題を解決するために、全く新しい技術を開発しました。
多くのピッキングシステムは、人とロボットが協働します。人が商品をピックアップする作業が発生するのです。私たちのシステムでは、食料品がレーンに分かれて置かれており、それぞれの品目は画像認識システムによって識別されます。消費者がオンラインで食料品を注文すると、ロボットが買い物カゴを持って倉庫内のグリッド上を移動し、該当する保管レーンから商品を受け取ります。注文された商品はロボットが持つ買い物カゴに投入されていきます。ロボットは、注文された商品を集め終わるとパッキングします。ここまでのプロセスに人は一切介在しません。その後、消費者または配達ドライバーが直接、ロボットからパッキングされた商品を受け取ります。
このシステムには、室温、冷蔵、冷凍、高湿度冷蔵、低湿度冷蔵など、さまざまな温度や湿度を管理できる機能が備わっています。温度管理も自動化されており、乳製品や果物、アイスクリームや冷凍フルーツなどを新鮮に保つことができます。海産物も含め、あらゆる温度状態での商品を新鮮に保管し、パッキングすることができるのです。
運用コストの観点から見ると、手作業のピッキングとパッキング作業のコストから約60%削減することが可能です。導入費用や利用料を加味しても、従来より約40〜50%安価です。非常に効率的であり、オペレーターによる手作業がないため、コストが削減されます。
image: Fulfil Solutions
手作業をなくせば、経済にも環境にも優しい
―オンライン食品販売という分野に着目した理由は。
オンライン食品販売は、非常に大きなビジネスです。米国の食料品市場は全体で1.1兆ドルで、そのうちオンライン販売は約10%、つまり1,000億ドル以上になります。現在、ほとんどのオンライン注文は、手作業でピッキングとパッキングが行われています。
この手作業が、もともと利幅が非常に小さい食品販売ビジネスのコストをさらに押し上げ、オンライン食品販売ビジネスは利益を出しにくい状況にあります。そこで、当社の創業チームは、ロボティックオートメーションを開発して効率化を図り、コストを削減することを考えました。
また、オンライン食品販売ビジネスが利益を出せるようになるだけでなく、食品廃棄や炭素排出量の削減への貢献も目指しています。私たちの冷蔵・冷凍システムは、ドアを小さくしたり、ソフトウェアで管理するといった工夫でエネルギーロスを減らしており、スーパーマーケットで買い物客が商品を取り出す場合のほぼ半分に抑えられています。
―これまでの経歴と、Fulfil Solutionsにジョインした理由を教えてください。
私のバックグラウンドは、食品と一般の小売業、そしてテクノロジー分野の組み合わせです。米国の大手小売業者Safeway、食料品小売業者向けのデジタルマーケティングプラットフォーム技術を提供するスタートアップ企業のQuotient Technologyなどでの勤務を経て、2021年にFulfil SolutionsにCEOとして参画しました。
―収益モデルについて教えてください。
収益モデルは2つあります。1つは、設備投資を弊社が負担し、小売業者にサービス料として提供するモデルです。私たちの最初の顧客である、スーパーチェーンのLuckyが展開するオンライン食品販売サービス「LuckyNow」向けに提供しているのがこのモデルです。LuckyNowでの食料品の通販は、ロボットがピッキングとパッキングを行い、DoorDashの配達ドライバーがそれを受け取り、配達しています。私たちは各取引から一定の手数料を徴収しています。
もう1つは、小売業者が設備投資を負担し、私たちにライセンス料を支払うモデルです。複数の顧客とこのモデルでも協議を進めています。
―完全自動とのことですが、ロボットの誤動作やメンテナンス時にはどのような対応をしますか。
当社のシステムは独自設計であり、米国および国際的に特許を取得しています。特殊な素材を使用しているわけではなく、米国や中国などから部品を仕入れて現地で組み立てを行います。組み立てた後にソフトウェアをインストールし、試験を実施してから稼働まで、12週間から16週間で完成します。
システムはモジュラー構造で、安全システムも設置されています。そのため、システム稼働中は人間が近づくことはできません。しかし、介入が必要な場合、安全システムがその部分だけをシャットダウンし、ゲートが開いて誰かが修理に入ることができます。
ですが、人の介入が必要な場面は非常に少なく、ほとんどの復旧作業はソフトウェアや画像認識AI、遠隔操作するオペレーターによって自動的に行われます。ロボットやトレイの動きに関連する問題の多くは、遠隔操作で対処可能です。ハードウェアの部品は基本的にシンプルです。全てを制御するのはソフトウェアで、システム内の全てのアイテムを追跡し、パッキングルールを定めています。
例えば、オリーブオイルとパンを注文した場合、重いボトルがパンの上に置かれないようにオリーブオイルを先にカゴに入れるといったルールがあります。このように、ソフトウェアは非常に高度で効率的なシステムのバックエンドを担っています。
image: Fulfil Solutions
カリフォルニアを訪れたら「私たちを見て」
―ビジネスの成長はどのように推移していますか。直近の実績や予定を教えてください。
本格的に参入してからまだ1年しか経っていません。2024年と2025年には、さらに1社、あるいは数社の顧客とのローンチを計画しており、順調に進んでいます。私たちの技術への関心は非常に高く、多くの需要があります。現在、複数の大手小売業者との大型契約に向けて取り組んでおり、それが実現すれば、2024年と2025年の収益は飛躍的に増加します。
現在、協議中の大手小売業者は、より多くの商品が置けるスペースと、より高速で、さらに効率の良いソリューションを求めています。そのため、私たちはさらなる技術開発を進めており、従来よりも約40%増のスピードが実現できるソリューションを2024年中に展開します。
さらに、今後はAIを駆使して在庫管理のさらなる効率的にも取り組みます。食品管理をより緻密に行うことで、食品廃棄をさらに減らす試みです。例えば、どの商品が賞味期限に達する可能性があるかを予測し、賞味期限切れになる前に売り切るための支援をするのです。
―日本市場への進出を考える場合、どのような展開が望ましいですか。
先日、とある日本の会社から私たちに問い合わせがありました。私たちは、当社の技術を必要とする小売業者などとの提携を考えています。このシステムが顧客企業にとって機能するための鍵となる要件は、オンライン経由での食料品の注文量が十分にあることです。また、この技術は食料品向けに設計されていますが、食料品以外の小売業にも応用できます。食料品は商品管理が他の製品と比べて難しいため、まずはその解決に挑みました。現在、協議をしている米国の小売業者は、食料品と化粧品を同じシステムに入れたいと考えています。他にも、医薬品などに応用したいと考える企業もあります。
日本企業とのパートナーシップには、主に2つのタイプがあると考えています。1つは、私たちの製品の最終的なユーザーとして、オンライン販売を行う日本の小売業者です。もう1つは、私たちの技術をライセンス供与し、日本の小売業者に提供し、運用するシステム開発者との提携です。このような相談にはいつでも対応できます。
―長期ビジョンと、将来のパートナーや顧客へのメッセージをお願いします。
米国のオンライン食品販売の市場規模は2022年時点で約1,100億ドルでしたが、私たちのテクノロジーを使用して、その全てをピッキング&パッキングしたいと考えています。さらに、世界にはその4倍の市場があると考えられています。私たちは、小売業者のテクノロジーパートナーとしてその役割を果たし、もし実現できれば、オンライン食料品販売を消費者に手頃な価格で提供し、企業にとって利益を生むものにすることが私たちのビジョンです。先にお伝えしたように、食品廃棄と炭素排出量の削減にも貢献します。
私たちのメッセージは「私たちを見てください」です。もしカリフォルニアを訪れる機会があれば、私たちの施設をぜひ訪れていただきたいです。将来の顧客やパートナーとの会話を楽しみにしており、私たちの技術について共有したいと考えています。