イーサネットのエキスパートが創業
―お二人の職業的背景と、創業の経緯を教えて下さい。
Shirani氏:私はエンジニアとして30年間、主にイーサネットのチップ設計に携わってきました。イーサネット開発の草分け的存在の1社であるNational Semiconductorでは約10年間、初期世代のイーサネットに携わりました。また、イーサネット機器に組み込まれているオートネゴシエーション技術の開発者でもあります。
1990年代半ばにイーサネット関連企業のEnable Semiconductorという最初の会社を立ち上げ(1999年にLucentに事業売却)、その後、データセンターや企業向けに10ギガバイトのイーサネットやマルチギガイーサネットのシリコン製品を手掛けるAquantia Corporationを立ち上げました。
Aquantiaでの最後の数年間は、自動車関連技術や車載用イーサネットに関して自動車メーカーやティア1からアプローチを受けていたことから、車載用イーサネットと、車両神経システムを簡素化・スケーラブルに変えることに焦点を当てた会社を立ち上げようと決め、2018年にEthernoviaを創業しました。
Mash氏:私は過去17年間、自動車業界で従事し、前職では車載イーサネットの標準規格の立ち上げを担当していました。Raminと私は、参加していた規格標準化団体で顔見知りでした。Raminは、Ethernoviaで車載用製品の全てを一から設計し、顧客が抱える課題に対処しようとしていました。そこに興味を持ち、Ethernoviaの創業から1年後に入社しました。
データを運ぶネットワーキングとしての役割
―御社はシームレスで合理的なイーサネット・チップを開発してますが、製品について説明していただけますか。
Mash氏:自動車には大きな変化が起きています。一つは、動力にガソリンやディーゼルオイルを使用するのを廃止し、電気や水素に置き換えようとする動きです。
自動車メーカーが行っているのは、ドライブチェーンの変更を、次世代機能やサービスをサポートするために車内のアーキテクチャを変更する方法として利用することで、ソフトウェアを無線でダウンロードできるようにし、追加機能やサービスを提供できるようにすることです。
つまり、自動車メーカーは自動車を販売した後も、その自動車から収益を得ることができるようになります。このことが、私たちが目にするアーキテクチャーの要件や処理に大きな変化をもたらしているのです。
現代のガソリン車やディーゼル車のアーキテクチャは、エンジン・ステアリング・トランスミッションなどの各機能向けに、数多くの電子制御ユニット(ECU)が搭載されています。しかし、ネットワークのほとんどは互いに“会話”することができず、車両内部のシステムが複雑化しているのです。このことが自動車メーカーがアーキテクチャの変更に走る原動力になっています。
ソフトウェア定義の車両を製造しようとする場合、車両内の全てのネットワークがどこからでもデータにアクセスできるように、アーキテクチャを変更する必要があります。自動車メーカー各社は、車内のデータ全てにアクセスできる中央演算ECUに移行しつつあります。
Ethernoviaは、これまで複雑に絡み合っていたネットワークを、高速イーサネット・バックボーンに置き換え、他の低速バス(データ伝送路)からのメッセージも全てイーサネット・ネットワークで伝送しています。つまり、全てが相互接続された高速イーサネット・ネットワークです。
人間で例えるなら、神経システムは体全体に電気シグナルとしてメッセージを伝えますよね。私たちが提供しているのは、まさにこのネットワーキング技術です。データを生み出す元となるようなセンサーやレーダーを製造しているのではなく、はたまたCPUのような脳みその役割をこなしているのでもなく、私たちはデータが生まれた場所からデータを処理する場所へ「運ぶ」役割を果たしているのです。
全てのデータがイーサネット・ネットワークで伝送されることによって、イーサネットに備わっている他の全ての機能をレイヤー化することができるようになりました。データはセキュリティ化され、ECUやセンサーの認証も可能です。また、ネットワーク上にある全データを暗号化することができますし、データの到着時間もより正確になり、リアルタイムのサービスが可能となります。
Ethernoviaでは、データをバックボーンに集約するために搭載されるチップや、ドメイン・コントローラー、さらにはセントラルコンピュータに搭載されるさまざまなデバイスに至る製品群を構築しています。これの真の強みは、共通のアーキテクチャーに基づいていることです。そのため、顧客は一つのソフトウェアスイートを構築すれば、それを大容量デバイスやエッジデバイスに拡張することができます。
image: Ethernovia
欧州・北米市場からスタートし、日本、中国、東南アジア市場に注目
―車載用コネクティビティ市場は急速に成長しています。市場や御社のソリューションの需要をどうみていますか。
Mash氏:イーサネット自体は2011年から本格的な生産が始まっており、現在ではほぼ全ての自動車メーカーが既にイーサネットを導入しています。今はより可用性が高く、安全性の高いインテリジェント・ネットワーキング・ソリューションへと市場の需要が変化しています。それはまさに当社のソリューションであり、需要の高さを実感しています。
当社は、2023年9月に、タイヤ・自動車部品メーカーのContinentalと次世代自動車向けのソフトウェア定義ネットワーキングチップを共同開発するという提携を発表したばかりですが、当社の技術に対する関心の高さを示していると言えます。
―御社はQualcomm Ventures、Porsche Automobile Holding SEを含む投資家から累計6,400万ドルの資金調達に成功されています。その理由をどう考えていますか。
Shirani氏:当社は、車両の電動化・自動化という変革の真っただ中にある自動車業界において、集積回路チップと並んで自動車のスケーラビリティに影響を与える現実的な問題に取り組んでいます。
私たちのビジネスの全体像、市場における課題、真のニーズへの対応の仕方が、多くの投資家を惹きつけていると思います。
―調達資金の使途を教えて下さい。
Shirani氏:私たちは主に欧州と北米市場を中心に事業展開を始めましたが、今は、中国、日本、東南アジアに焦点を移しています。中国は、自動車の電動化において世界のリーダー的存在の一つであり、中国はわれわれにとって多くのビジネスチャンスがあると思います。
また、日本の自動車メーカーは世界でもトップを争う存在感です。私たちは、ブラジルで開催されたイーサネット自動車IP技術フォーラムに参加しました。そこで私たちは日本の自動車メーカーと密接な関係を連携することができました。これからもその関係を深めていくつもりです。
image: Ethernovia HP
―今後1年間のビジョンについてお聞かせください。
Shirani氏:今後1年間で会社にとって最も重要なイニシアチブの一つは成長です。当社は現在、約75人の従業員を抱えていますが、その数を倍にすることを目指しています。
私たちは地理的に多様な場所に拠点を置いています。本社はカリフォルニア州サンノゼですが、カナダ、オーストラリア、オランダ、インドにも拠点があります。これらの地域で従業員を倍増させることを目指していますが、簡単なことではありません。なぜなら単に人を雇うのではなく、適切な人材を雇うことが重要だからです。それが社内でのマイルストーンであり、課題でもあります。
一方、製品と市場の観点から、当社のロードマップにあるチップについて一連の発表を行うことです、7ナノのチップは過去1年半にわたってサンプル出荷を続けています。当社の次の目標は、最初のチップの生産形態に入ることであり、続けて後続チップをサンプル化できるようにすることです。
また、成長の一環としてソフトウェアも重要です。私たちは集積回路を製造していますが、ソフトウェアは要です。当社は大手ソフトウェアメーカーと提携しています。しかし、ソリューションを他のソフトウェアに対応させるためには、開発しなければならないソフトウェアのレイヤーがあります。つまり、今後1年間の目標は、このグループを成長させ、比較的成熟したソフトウェアを開発するところまで持っていくことです。