EnvoyはiPadを使った新しい来客受付システムだ。来客者の登録などはもちろん、顔写真の撮影や名札印刷、NDA締結など、わずらわしい手続きを簡単に済ませることができる。さらに企業のイメージアップにもつながると好評だ。今回はCEOのLarry Gadea氏に話を聞いた。

Larry Gadea
Envoy
Founder & CEO
カナダのカールトン大学でソフトウェア工学を専攻。大学卒業後はTwitterでインフラ関連のエンジニアとして勤務。2013年にEnvoyを設立し、CEOに就任。

ありそうでなかった来客受付システム

―まず御社のビジネスモデルについて教えてください。

 Envoyは来客受付システムを開発するスタートアップです。企業では来客があった場合、所定の書式に記入したり、名札を印刷したり、NDA(機密保持契約)にサインしてもらうこともあります。以前はこれらをすべて「紙」で行っており、複数の窓口を通らなければならないこともあったでしょう。しかし、今はそれらすべてをiPad操作で済ませることができます。企業を訪れた人々にも、非常にスピーディで、簡単で、モダンな体験を楽しんでもらえるのです。

―なるほど。具体的にどんな企業が使っているのでしょうか?

 我々の商品は、多くの素晴らしい企業に使っていただいています。シリコンバレーでも大手企業のひとつであるPinterestでは、米国のオフィスだけでなく、日本のオフィスでもEnvoyを使用してくれています。アメリカだと他にBoxやGoProなどでしょうか。日本企業では楽天が利用しています。

 とにかく、今は世界中にユーザーが拡大しています。有料ユーザーは2000社ほどで、無料会員を含めるとユーザー数は3000社を超えます。ここまで成長するとは、私にとっても予想外でした。

Image: Envoy

「指コミ」でユーザーが広まる

―ユーザーには大企業も多いようですが、どのようにして顧客を獲得したのですか?

 企業の多くは、ユーザー体験やWebサイト、商品やカスタマーサポートなどに重点を置いていますが、Envoyを活用することで、オフィスでも素晴らしい体験ができるようになります。社外の人が来社した際、入り口となる受付での素晴らしい体験は、企業の第一印象として記憶に残りやすいものです。

 我々のユーザーには大手企業も多いですが、彼らはEnvoyを試したうえで「これは当ブランドを支えてくれるものだ。従来のものとは全く違う。素晴らしい!」と受け入れてくれました。そして、嬉しいことに、彼らがまたクチコミでEnvoyを広めてくれるのです。また、導入してくれた企業を訪れた別の誰かが「これはいい。わが社にもほしい」とEnvoyのアイデアを持ち帰ってくれることもあります。ですから、我々が直接営業をしなくても、顧客の方から門を叩いてくれるわけです。

―クチコミで広がったというのは、すごいですね。

 はい。むしろ、「指コミ」とでも言いましょうか(笑)。言葉を交わすこともなく、iPadをタッチする体験を気に入ってくれているのですから。だからこそ我々はユーザー体験を非常に重要視しています。もちろん、その後のサポートもしっかり行います。

―一度に多くの来客があった場合など、対応しきれない場合はないでしょうか?

 大人数のグループを迎える企業は多いですが、大人数だからといって、必要なプロセスを素通りしてもよい、ということはありません。それぞれにNDA契約を結んでもらうこともあるでしょう。EnvoyはiPadを使いますから、そういった企業は複数のiPadを設置してもらえば問題は解決します。同一アカウントであれば、iPadを何台置いても料金は変わりません。今後も、より使いやすく改良を進めていく予定です。

まずは誰でも無料で利用できる

―収益モデルについて教えてください。

 基本的に、当社は企業向けにサービスを提供しています。複数のオフィスを持つ企業の場合はオフィスごとにシステムを設置します。費用のかからないフリープランもあるので、まずは誰でも無料で始めることができます。あとは付加機能の種類によって月99ドル、250ドル、1000ドルのプランに分かれています。たとえば、来客があった際、「お客様がお見えになりました」とテキストメッセージを送信してくれる機能は、フリープランには含まれていません。収益モデルに関しては、基本的にサブスクリプションモデルとなっています。

―なるほど、企業のニーズに合わせて選ぶことができるのですね。iPadは顧客自身が用意することになるのですか?

 そうですね。もちろん、当社のサイトで購入することもできます。また、iPadやプリンタなど、必要なものがすべてそろったスタートキットも販売しています。もちろん、AmazonやAppleストアでそろえていただいても構いません。不要なものを当社が無理に押し売りするようなことはしません。

―競合相手について教えてください。

 当社が事業を始めたころ、競合はいませんでした。Envoyは業界一番乗りだったのです。我々の存在により、ニーズが浮き彫りになった結果、この分野に参入する企業が増え、今ではEnvoyの模倣品が100件以上出回っています。中には価格が安いものありますが、「安かろう、悪かろう」という言葉が示す通り、品質はあまりよくありません。「なるほど、入館管理システムが人気なのか。iPadを使えばいいのだな」という安易な考えもあるようですが、それはいけません。我々は常にイノベーティブに、新しい製品や体験を生み出していかなければなりません。それこそがシリコンバレーです。我々は自分たちのやっていること、そして目指しているものに、大きな自信を持っています。

―個人情報の管理やセキュリティについてどのような対策をしていますか。

 プライバシーやセキュリティは、我々にとって最重要事項といえます。我々はクラウド企業であり、信用第一ですから。すべての保存データは暗号化されています。データの安全性に必要なことは何でもやります。我々は広告に支えられたサービスではなく、ユーザーからの利用料で成り立っています。ですから、情報を売る必要はありません。そういった意味でも、プライバシーとセキュリティをしっかりと守れる企業であると自負しています。

「働く人の問題」を解決できるサービスを開発したい

―最後に、今後のビジョンについて教えてください。

 会社というのは、人が一日の大半、8時間以上も過ごす場所です。会社にとっては顧客へのサービスだけでなく、従業員へのサービスも大切です。彼らが感じる普遍的な問題を解消できるような商品、そして体験を提供していきたいと思っています。たとえば、会議室の空室状況を確認する、荷物が届いた際に通知を受け取る、あるいは火事が起きた場合に全社員に一斉通知する、といったシステムです。今は人力で行っているようなことを、より簡単に実行できるようにしたいと考えています。



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