Image:metamorworks / Shutterstock
スマートシティでの保安、防犯、防災や、各種産業での生産性向上などにつながると注目されている映像解析。容量の大きい高精細映像は、オンライン経由では処理が難しいため、現場(エッジ)で処理を行うほうが効率が良い。高精細映像など、大量データを現場でリアルタイムにAI処理する端末「Edge AI Box」とそれらをコントロールする管理プラットフォーム、AIアプリマーケットを提供し、次代の社会インフラを構築しているのがEDGEMATRIX(本社:東京)だ。共同創業者の太田洋代表取締役社長と本橋信也代表取締役副社長に、業況や将来構想を聞いた。

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モバイル業界のイノベーターが注目した、映像エッジAIとは?

――お二人のご経歴と、EDGEMATRIX創業の経緯をお聞かせください。

太田 氏:私はもともと石油探査会社にいまして、その後、新日鉄のEI事業本部で、IT事業の企画に携わりました。新日鉄は、東京デジタルホン、その後のJ-PHONEに出資していて、私は出向社員としてJ-PHONEに行き、「写メール」をはじめ、ほとんどのサービスを立ち上げました。

 その後、J-PHONEがVodafoneに買収されたタイミングで辞めて、Gemini Mobile Technologiesという会社を設立しました。ここでは、海外にモバイルの技術を広めようと、アジアの通信キャリア向けにコンサルティングをしていました。同時に、写メールのようなマルチメディアメッセージを送信できる仕組みであるMMSCを開発し、それをグローバル展開していました。

 Vodafoneに専務として戻ったらすぐにソフトバンクに買収されまして、孫(正義 氏)さんとディズニー携帯やYahoo携帯、iPhoneの導入など、ソフトバンクモバイルの立ち上げに関わりました。ソフトバンクを辞めてからはクラウディアン株式会社を立ち上げ、ビッグデータ用のストレージを提供するようになりました。そこでAI事業を立ち上げて、これをスピンオフさせようと、2019年にEDGEMATRIXを創業しました。

本橋 氏:私は1983年に現在のKDDIである国際電信電話に新卒で入って、経営企画や社長秘書などを経験し、2000年まで在籍しました。2001年にVodafoneに転職し、グローバルの経営戦略チームの一員となりました。Vodafoneがソフトバンクモバイルに買収された後、2008年ごろにクラウディアンに入社しました。EDGEMATRIXは、クラウディアンのAIプロジェクトチーム全てと、持っている営業的な権利を譲り受けて事業を開始しました。その際、資金が必要なため、NTTドコモと清水建設、日本郵政キャピタルから9億円の資金を調達しました。

太田 洋
EDGEMATRIX
共同創業者 / 代表取締役社長
元クラウディアン株式会社代表取締役社長兼共同創立者。Edge AI BOXを開発。Jフォン/ボーダフォン・ジャパン在籍時には、世界初の写真付きメールサービス「写メール」や、世界初のロケーションベースドサービスである「J-Skyステーション」および「J-ナビ・サービス」を開発するなど、モバイル業界にいくつもの「業界初」を導入してきた。

本橋 信也
EDGEMATRIX
共同創業者 /代表取締役副社長
元クラウディアン株式会社取締役兼COO。一橋大学卒業後、国際電信電話株式会社(現 KDDI)に入社し、社長秘書4年間を含み経営中枢部門における約20年を経て、ボーダフォン・ジャパンに移籍し経営戦略開発の責任者を務める。ソフトバンク・モバイルによるM&A後には事業開発を担当。南カリフォルニア大学経営学修士。

――EDGEMATRIXの主なプロダクトについてお教えください。

太田 氏:映像エッジAIという分野にフォーカスしています。人が触れる情報は視覚的なものが多いです。現代では、カメラから入ってくる映像が人の目の代わりになります。そこにはたくさんの情報があり、それをAIで分析することによって様々な点に役立つようになるだろうと考えたのです。

 我々が狙っているのは、例えば、工場の検品作業のような、その工場のために作らなければならないAIではなく、スマートシティで役立つものです。建物への侵入の検知をするというような、どこでも使えるAIです。このような製品は、グローバルも含めれば、市場は非常に大きいですし、少人数で始めても大きくスケールできる可能性があります。

 街中には何千何万という膨大な数のカメラがありますが、それを警備の人が全て見ているわけではありません。事件や事故が起きたら、その記録を使いますが、全て事後です。映像エッジAIであれば、事後だけでなく、初動も含めて監視できます。

 その際に、カメラの映像をクラウドに運ぶことは通信量が大きく現実的ではないです。そのため、エッジ(現場)で分析し、通信するデータを少なくした方がいいです。ネットワーク遅延が許されない状況はエッジで処理する方が効率が良いです。

 例えば、性別や人数をカウントする目的であれば、クラウド側に映像データを送る必要はなく、解析結果の数値だけ送れば良いので、データの軽量化だけでなく、プライバシーの問題も軽減できます。データセンターも分散して処理をしていれば、あるデータセンターが被災しても全てのシステムがダウンすることはなくなるというメリットがあります。これらのことから、我々はエッジAIの分散処理にフォーカスしてきました。

 様々な場所にエッジのコンピューターやカメラを分散しておくと、故障した時に現場に駆け付けなければならないという懸念があります。これも、機器を遠隔で監視することによって、コストダウンを図ることができます。そのために、ソフトウェアの更新や、システムが正常に作動していることをリモートで監視をする、地図上のどこにあるかを把握するようなことに取り組んでいます。端末が盗まれても大丈夫なように、暗号化するなど、セキュリティ面にも配慮しています。

 映像のエッジAIの用途としては、顔認証、人数カウント、動線、待ち行列、車のナンバープレート、交通量、駐車場や道路の計測など多様な可能性があります。ですが、これらは一つ一つが深く要求が細かいので、ベンチャー企業は一社で作ることができません。

 ですから、我々のモデルでは、アプリケーションは多数のベンチャーのAIの開発会社と協業するようにしています。我々は、Edge AI Boxデバイスと、それらをコントロールするプラットフォームを含めたインフラ部分に注力しており、そこで動作するアプリケーションは、サードパーティであるパートナー企業が開発したものが主となっています。各種AIアプリを提供するアプリストアも運営しています。

Image: EDGEMATRIX HP

創業から3年でプラットフォームを構築、協業によって実装を増やしていくフェーズへ

――2019年の創業から3年が経ちますが、業況はいかがでしょうか。現状ではどのような業界からの需要が高いのでしょうか。

太田 氏:プラットフォームを作るにはやはり初期投資がかかります。ベンチャー企業にしては大きい資金を集めていると思われるでしょうが、それはインフラにしたいと思っているからです。プラットフォームに初期投資をし、現在は徐々にデプロイし始めている段階です。

 例えば、高速道路事業者や鉄道事業者、屋外の駐車場所有者、商業施設で混雑状況を見られるシステム、溜池の遠隔モニタリング、交通量調査などの実証を行っています。

 インフラ系のお客様が多く、株主の清水建設関連では物流センターや建物系の案件もあります。デバイスは複数のラインナップがあり、防水防塵、落雷対策をして、屋外で利用するものもあります。屋外ではインターネットが引きづらいので、インターフェースも備えています。

Image:EDGEMATRIX

――業績の伸びや、競合との差別化についてもお教えください。

本橋 氏:売上は年々倍増を続けています。2019年は創業から実質半年ほどですので、それ以降になりますが、2020年から2021年が倍増していて、2021年から2022年も倍増ペースです。

 競合については、例えば、デバイスだけを提供している企業は台湾や中国にもいます。サービスだけを提供する企業はあまりいませんが、AmazonやGoogle、Microsoftが、クラウドサービス上で遠隔からIoTの機器を管理する機能を提供しています。このほか、AIのアプリだけを開発している企業もあります。ですが、我々のようにインフラとプラットフォームを、エンドからエンドまで提供しているところはありません。さらに、建設業の免許を取って工事もしています。

――プラットフォームにさまざまなAIアプリが実装され始めているようですが、これからの1年はどのような目標をお持ちですか?

太田 氏:インフラの基盤はできましたので、ここから先は市場展開と、信頼性の向上に注力します。24時間365日止まらないでほしい、確実に動かしてほしいという要求に応えていきたいです。そうすることで、社会のインフラの一部として機能するようになると思います。検証だけで終わらずに、長期安定稼働をできる信頼性を構築したいと思っています。

本橋 氏:我々の製品には、カメラの中にAIが組み込まれていたり、小型の装置で画像認識ができたりするようなAIカメラもあります。これらの製品は通常はコンビニなどの小さな店舗内で使われます。

 ところが、我々の製品は道路や鉄道、大規模な施設などの非常にタフな環境で使われるので、信頼性が求められます。デバイスを台湾の工場で製造しているとなると、我々がコントロールできる部分は限られます。例えば、日本で生産してコントロールできるところを増やし、チップの生産を1社に依存する体制ではなく複数のチップベンダーに対応して安定供給するなど、信頼性の構築のためにやらなければならないことはたくさんあります。

 信頼性を確保することは、コストに直結します。スペックを高くすると部品の値段が10倍になります。高価になっていいのであれば、良い部品を使っていくらでも高い信頼性のものを提供できますが、実際にはそうはいきません。コストを維持しながら、高い信頼性を確保するかという点が一番のチャレンジですね。

 なお、今後1年の目標には、新規の資金調達もあります。上場の準備もN-2期ということで始めています。

――テクノロジーの面で、新たに提供する機能はありますか。

太田 氏:5G対応に注力しています。スマートビルディングに関しては既存のセンサーでインテリジェントビル系のシステムがあるので、映像エッジAIをうまくインテグレーションしていきたいです。

本橋 氏:現在のスマートシティ構想はセンサーが主流となっています。そこに映像を入れることが我々のテーマなので、センサーとエッジAIが連携できることもすごく重要です。ですから、スマートビルディングに清水建設と一緒に取り組んでいます。スマートビルディングができればスマートシティもできると考えて準備しているのです。

Image:EDGEMATRIX

重要な社会インフラとなり、グローバル規模のエコシステム構築を目指す

――今後はどのような企業とコラボレーションしていきたいですか。スマートシティでは政府や自治体も関連してくると思います。

太田 氏:現在は重厚長大系の顧客が多く、カスタム要求もたくさんあります。お客様のシステムにインテグレーションしていかなければならないことも多いので、SI企業やAI企業とコラボレーションしていくことが重要だと考えています。大企業のSIは人数が必要で、我々は人数が限られてしまうので、SIの能力があり、提案力がある企業と協業していきたいです。

本橋 氏:業界の横展開をしていくのがいいと考えています。例えば、現在のところ道路関係は採用事例が増えてきています。高速道路のサービスエリアや道の駅はたくさんあるので、そこでも採用していただけるようになるかもしれません。一つ提供したものを、1000倍、1万倍にできるチャンスがあるということですので、ある特定の業界の中でナンバーワンになっていくことが市場拡大の一番の近道だと考えています。

太田 氏:自治体については、例えば、溜池の監視は、自治体の予算で実行してもらうことが前提となっています。NTTドコモは全国の自治体に対して営業を展開していますので、一緒に地方を巡って提案しています。

――今後数年間を見据えた長期ビジョンと、読者へのメッセージをお聞かせください。

太田 氏:大きなテーマの一つはグローバル展開です。この市場は日本だけではありませんので、今はアジアの方と話をしていますが、グローバル展開を本格化してきたいです。

 それから、我々が目指すことはAI利用を普及させることです。自動運転のような命に関わるようなことについては、ベンチャーが手を出すのは大変ですが、少しカジュアルなAIを次々と社会に浸透させることをビジョンとしています。

本橋 氏:AIを導入する際には、研究室で精度の高いものを開発して、それを現場に実装します。現場で実装するとなると、当然のことながら、AIと連携する装置や遠隔管理する仕組みが必要になります。AIを開発だけでなく、現場実装も大変なのです。ですから我々は、AIを汎用的に広く、誰もが使えるようにしていきたいです。

太田 氏:我々は、自社のプラットフォームを様々な分野でご利用いただきたいと考えていますが、これは我々1社だけではどうすることもできません。このエコシステムにいろいろな企業・団体が集まって、ビッグデータを集め、活用していかないと強いものにはならないと思います。私たちの考えに賛同してくれる方々と一緒に、広げていきたいです。

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