液体生検ではできなかった早期ガンの特定を可能に
――Earliを設立した経緯は何だったのでしょうか。
私はシリアルアントレプレナーです。15歳で初めて起業し、自分でコーディングしたコンピュータープログラムを売却しました。卒業後は、マッキンゼーに入社し、ソフトウェア産業に関する本を執筆するために、世界中のソフトウェア企業を100社インタビューしました。
1999年にスタートアップを立ち上げ、モバイルマーケティング事業を始めました。この会社は2003年に黒字化し、私は2004年にこの会社を去りました。
その後、CBSでモバイル部門の立ち上げを担当し、2008年にVCのクライナー・パーキンスから誘いを受け同社に加わりました。そして、クライナー・パーキンスでの初日にリーマン・ブラザーズが破綻しました。シリコンバレーの投資は止まり、厳しい状況ではありましたが、Shopkickというスタートアップを見つけインキュベートし、同社の共同創設者およびCEOに就任しました。Shopkickが開発した、来店時に利用者が報酬を得ることができるアプリは成功を収め、2014年に韓国企業に2億5千万ドルで売却しました。
Shopkickを去った後に、自分が本当にやりたい事業は何か考えました。私は科学者ではありませんが、科学に常に魅力を感じてきたので、科学分野の新しい事業アイデアを200以上見ていきました。その中で、プレシジョンヘルス(精密保健)などの新しいテクノロジーを知りました。
そして、ガンを早期発見するプレシジョンヘルスツールの開発に取り組んでいた、スタンフォード大学のSam Gambhir博士の論文に出会いました。私から博士にメールを送り、数ヶ月後に実際にお会いする機会を得て、そこから全てが始まりEarli設立に至りました。残念ながらGambhir博士は昨年7月にガンで亡くなりましたが、Earliは博士が液体生検(血液サンプルからガンの遺伝子を測定診断する技術)に抱いていた不満から生まれています。
16歳の息子をガンで亡くし、自身も2020年にガンで亡くなった創業者のSam Gambhir博士
生物学的アプローチでガンを“強制的”に顕在化
――従来の液体生検と何が違うのでしょうか?
既存の液体生検では、早期であればあるほどガンを発見できる確率が低くなりますし、特定のガンしか発見できないという問題があります。例えば、GRAILが20億ドル費やして開発した血液検体を使ったガンの早期診断キットでも、大腸ガンや膵臓ガンで、ステージ2の検出精度は42%、ステージ1の場合19%です。肺ガンや乳ガンなどの検出精度はより低いです。
また、ガン細胞が非常に小さい時に診断できるようになっても、それを画像化するなど、特定できなければ外科的に切除することも、放射線を照射して除去することもできません。体内のどこかにある小さな病変に対して、全身化学療法を行うことはできません。ガン細胞が自分の体のどこかにあることだけは分かりますが、治療はできず心配を募らせることしかできません。Earliは、ガン診断とガン細胞の特定を可能にする、ガン治療装置を開発しています。
Photo: Matej Kastelic / Shutterstock
――具体的にどうやってガンを早期検出し治療を可能にするのでしょうか?
検出するのではなく、ガンに人造バイオマーカーを生成させ自ら姿を見せるようにできれば、血液中、吐く息や画像でもガンを見ることができます。
例えば、ガン細胞においてのみ人造バイオマーカーを生成するベクターを注射して患者の体に投与します。次に、注射に含まれる放射性のPETトレーサーに侵食する酵素を、ガンに排出させます。普通のPETトレーサーを使用しますが、ガンが排出する酵素により、トレーサーは腫瘍のなかに閉じ込められるため、通常は画像化できないサイズの腫瘍の画像化を可能にし、ガン細胞を特定できるようにします。
これにより、手術や放射線治療による腫瘍の除去が可能になります。将来的には、Earliのプラットフォームを使い、局所的な免疫応答を誘発し手術後に残った病変を全てなくすことができるようになるかもしれません。
年間1500億ドルを超えるガン診断市場
――どんなビジネスモデルになりますか。
ビジネスモデルは、診断モデルです。将来的には治療薬への応用も考えられますが、まずは診断と、必要に応じて保険会社から適切な償還を受けることです。
直接の顧客は医療関係者で、最終的には患者ですが、腫瘍内科医や放射線科医が処方し、保険会社などから償還されることになるでしょう。ガンの診断市場は年間1,500億ドル以上ですから、非常に大きな市場です。
――実用化までどのくらいかかりそうですか?
現在はまだ非臨床試験段階で、マウスを使った動物実験から犬を使った実験に進んだところです。犬を使った動物実験がこのまま順調に進めば、次はオーストラリアで人による臨床試験を始めます。オーストラリアでは、高度な専門的管理が行われていますが、試験のスピードが早く、開発計画を短縮することができるためです。対象は後期の肺ガン患者で、その次に早期の肺ガン患者です。
私たちは、創業から3年以内に人での臨床試験を行うことを目指してきました。うまく行けばですが、今年中に臨床試験を行える予定です。
――日本への進出の予定はありますか。
もちろんです。日本は高度に発展した市場であり、私も短期間ですが、日本に住んだことがあります。日本は私たちにとって、臨床面でも市場面でも非常に興味深い市場です。より多くの人を助けることができれば、それは素晴らしいことだと思います。日本の投資家や、肺ガンやイメージング技術の分野の専門家とのコラボレーションはいつでも歓迎です。