2018年、NECから「カーブアウト」という形でシリコンバレーにて創業したdotDataは、データサイエンスのプロセス全体を自動化するプラットフォームを提供している。同社の最大の強みは、企業が抱えるさまざまな課題に対して、AIがデータから人間では見つけられないようなビジネスの洞察(特徴量)を自動的に発見し抽出できる点だ。NEC史上最年少で主席研究員に就任した経歴を有する、dotDataの創業者兼CEOの藤巻 遼平氏に話を聞いた。

※2019年に登壇されたSillicon Valley New Japan Summitのトークセッション記事

藤巻 遼平
Founder & CEO
「全ての企業がデータに基づいて、より良い製品やサービスを生み出すことができる世界を創る」というビジョンを掲げ、2018年、NECから世界初の「特徴量自動設計技術」をスピンアウトし、dotDataを米国シリコンバレーで創業。企業の抱える様々な課題に対して、dotDataのAIがデータから人間が見つけられないようなビジネスの洞察(特徴量)を自動的に発見・抽出することを強みとし、小売、製造、金融、保険、サービスなどの幅広い領域で、企業のDX推進に貢献。2022年4月にはシリーズBの資金調達を完了、累計7,460万ドルを調達。

前職NEC在職中は、当時、研究最高位の主席研究員に最年少で抜擢(1000人以上の研究者のうち6人のみ)。世界最難関の学術会議でAIに関する技術論文30件超を発表すると共に、グローバル企業と共に数多くの最先端のデータサイエンスソリューションの開発を主導。

東京大学航空工学科卒。機械学習・人工知能分野の博士号取得。

特徴量の自動設計によりデータからビジネスの洞察を発見

――御社はどのようなサービスを展開し、企業のデータ活用を支援しているのでしょうか。

 現在、DXやクラウド・データマネジメントの隆盛から明らかなように、データの利活用で経営効率を向上させるというトレンドが加速しています。企業には業務で膨大かつさまざまなデータが蓄積されており、多くの企業がそれをビジネスに活用して業務革新につなげたいと、AI・機械学習を活用した分析などを進めています。しかし、AI・機械学習によるデータの分析は複雑で、多くの時間と労力がかかります。特に、データからビジネスの課題にとって有意なパターン(特徴量)を見つけるのは非常に難しく、データサイエンティストやデータアナリストのようなデータ分析のプロや業務の専門家が協力しても、数ヶ月かかることは珍しくありません。データ活用人材が北米に比べ圧倒的に不足している日本では、このチャレンジはさらに大きなものです。

 当社は、この課題を解決すべく、「すべての企業がデータを活用して、より良い製品やサービスを生み出せる世界を創る」というビジョンを掲げ、特徴量自動設計技術をコアとしたデータサイエンスプロセス全体を自動化するプラットフォームを提供しています。企業はdotDataのAIを活用することにより、通常は数ヶ月かかる分析プロセスをわずか数日で実現することができます。

 dotDataのAI、特徴量自動設計は、入力したビジネスの課題と業務で蓄積されたデータから、人間では気づかない何千、何万もの特徴量のパターンを見つけ出し、課題に有意なビジネスの洞察を自動的に絞り込んで抽出します。AIの出力をブラックボックス化させず、データから導き出されるビジネスの洞察こそ、経営判断や新しい価値の創造に役立つものであり、dotDataがユーザーに支持される最大の理由はそこにあります。

 現在、当社のユーザーは製造業から金融、保険、小売、サービスなど10業種以上の領域に渡ります。顧客のペルソナ分析やLTVの向上、商品の需要予測、解約防止、製造工程の効率化、製品の品質向上、サプライチェーンの最適化、リスク管理、従業員採用や定着率の向上、パフォーマンス評価など、さまざまな目的に対してアプローチが可能です。

――dotDataを活用した成功事例を詳しく教えてください。

 3社ほど、具体例を提示したいと思います。

 1社目は、日本航空(JAL)の子会社であるJALエンジニアリングです。同社は、航空機の不具合によるフライトの遅延や欠航をゼロにする、という目標の下、ビッグデータ分析を用いた航空機の故障予測に取り組んでおり、それを強化すべくdotDataを導入しました。具体的には、フライトや整備のデータをdotDataで分析し、不具合の予兆となりうるパターン(特徴量)を発見・抽出する「仮説探索型分析」を実行することで、これまで整備士の経験に頼っていた仮説検証型分析では得られなかった不具合の予兆を検知することができるようになり、故障予測の強化につなげています。

 2社目は、金融業界の三井住友信託銀行。多様化する顧客のニーズに最適なタイミングで的確に応えるために、dotDataを用いてより高い精度の顧客ターゲットリストを作成。また、データから導き出された成約につながるパターン(特徴量)をもとに、各顧客に提供すべき商品を「商品別ニーズフラグ」として営業担当者に提供しています。結果、成約率が最大で20倍にアップしたほか、これまで感覚で判断していた営業ノウハウをデータで裏付けられ、営業担当者にスキルの横展開ができるようになりました。

 最後に、製造業の横浜ゴムです。横浜ゴムは、タイヤの構造やゴム材料の設計開発プロセスで、人とAIの協奏を目指す「HAICoLab」(ハイコラボ)という構想を打ち出し、dotDataを導入しました。タイヤの試作評価で取得したデータをdotDataに投入し、効率的なタイヤ設計プロセスの構築を目指しています。これまで設計者の経験に頼っていたタイヤの設計プロセスにおいて、dotDataがデータから抽出した特徴量が新しい気づきを与えてくれることで、タイヤの性能と開発・製造プロセスを改善できるようになりました。

 このように、dotDataはさまざまな業界の多様なユースケース、ビジネスの課題に対応できる点も強みの一つです。

北米で高まる「特徴量」への注目度

――あらためてですが、dotDataを創業した経緯を教えてください。

 NECの研究員時代に担当したニュージーランドの通信事業者とのプロジェクトがきっかけです。当時のニュージーランドでは携帯電話の契約の70%以上がプリペイドで、非常に高い解約率が大きな事業課題でした。

 このプロジェクトでは、機械学習のモデルを利用して顧客の解約の予兆を検知することで解約率を低減することが目的でした。プリペイドの顧客には、基本的な「属性データ」がないため、私とチームメンバーが数ヶ月の時間と労力を費やして、データから、数千もの解約につながる行動のパターン、つまり特徴量の仮説を手作業で設計しました。この経験から、企業におけるデータ活用や機械学習のような高度な分析を広く普及させるためには、このプロセスを解決する必要があると考え、特徴量自動設計技術を開発したのです。

 これまでは、データサイエンスの分野では特徴量設計とは専門家の経験によって設計され自動化は難しい、というのが定説でした。世界に先駆けていち早くこの特徴量自動設計技術を開発し、常識を覆したことが、dotDataが高く評価されている理由であり、未だ他の企業の追随を許していません。

――御社は累計7460万ドルの資金調達に成功しています。資金の使い道について教えてください

 dodDataの特徴量を中心とする製品強化は、継続的に行っています。5月9日には、dotDataのコアである特徴量自動設計技術を独立した製品「dotData Feature Factory」としてリリースしました。dotDataの創業以降、ユーザーとの協業を通じて、企業のデータソリューションにおける最大の課題はビジネスデータからの特徴量の発見と抽出であることを改めて認識したことが、きっかけです。特に、北米では機械学習の細分化・コモディティ化が進み、高度なデータアプリケーションの開発を加速するために、特徴量を企業のアセットとして整備するという考え方が普及しつつあります。

 また、多種多様な企業向けの機械学習やビジネスインテリジェンス(BI)ツールが登場し、目的に応じたツールの選択・活用が可能になりましたが、企業全体として見ると事業部間でのデータ活用連携ができないなど、サイロ化(縦割り構造)の問題が生じています。企業が有するさまざまなデータの潜在能力を十分に活かせていないという課題があるのです。

 これに対し、「dotData Feature Factory」は、異なるソースからデータを統合し、BI、機械学習、AIアプリケーションで効果的に利用できるようにすることで、企業データのサイロ化の課題を解消します。「dotData Feature Factory」によって、企業は特徴量を組織全体で共有し、データソリューションの開発を圧倒的に加速することができます。さらに、特徴量設計のプロセス自体を蓄積し共有することによって、属人化しやすいデータ加工の「ノウハウ」を再利用可能なアセット化することができます。

 このように我々は企業が抱えるデータ利活用の課題を解決し、企業の事業成長を加速し、イノベーションの創造へとつなげていけるよう、dotDataの製品強化、機能拡大に全力を投じて取り組んでいます。

image: dotData HP

「データの民主化」に向けてパートナーと協業

――他企業とのパートナーシップ締結を考えていますか。また、どのような形態のものがベストだとお考えでしょうか。

 パートナーとの協業は、我々にとってとても重要で、共にユーザーの多種多様なニーズに応えられるソリューションを提供していきたいと考えます。

 例えば、大塚商会との協業では、同社の「DX統合パッケージ」にdotDataのAI機能を実装しています。DX統合パッケージの利用者は、主に中小・中堅企業でデータ活用人材が不足している企業も少なくありませんが、このソリューションを活用することで、データの準備や加工、機械学習モデルの構築などAIに関わる様々な高度な作業を意識することなく、「商品需要予測」、「販売数予測」、「人員適正配置」などの高度な分析を利用して、速やかに効果的な業務戦略施策につなげることができるようになります。

 企業における事業課題はそれぞれ異なります。我々は、このようにパートナーと協力して共同開発や拡販を行い、より多くのユーザーにdotDataの価値を届けたいと思っています。

――最後に、御社が向こう12カ月で注力していくことについて教えてください。

 専門的なスキルを持つ人だけでなく、誰もがデータを活用できる「データの民主化」を支援するという我々のミッションは、創業以来、今も変わっていません。これからも、時代の変化をいち早く捉え、ユーザーの課題解決やニーズに応えるために、dotDataのコア・コンピタンスである特徴量自動設計技術を軸に、製品開発・機能拡張に注力していきたいと思います。



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