(2021年にFiverrが買収。2023年6月追記)
ピューリッツァー賞の受賞者などが講義
―まず御社の事業内容を教えてください。
CreativeLiveは教育ライブストリーミング会社です。私たちは写真、ビデオ、デザイン、音楽、工芸といったクリエイティブの分野に注力しています。そして、クリエイティブによって生計をたてていくための教育も提供しています。
―クリエイティブだけでなく、生計の立て方についても教えているのですね。
私の両親の世代は1つの仕事しかしていませんでしたが、私たちの世代は一人で生涯に5つの仕事をすることになるでしょう。そして次の世代は、一人で5つの仕事を同時にすることになるでしょう。このように時代は変化しているにも関わらず、現在の教育システムは、そのような学びの機会を提供できていません。一度にたくさんのことを学ぶ環境がないのです。
私たちの目的は、これらの問題を解決することにあります。私たちは単に教育をするだけでなく、世界トップクラスの専門家たちへのつながりを作りたいと考えています。ピューリッツァー賞の受賞者やニューヨークタイムズのベストセラー作家から講義を受けることができるのです。これは本当に世界トップクラスの講師陣だと言えるでしょう。
専門家を新しい”ロックスター”に
―どうやってすぐれた専門家たちを集めたのでしょうか?
もともと私はトップクラスの写真家たちと知り合いでした。そしてトップクラスの写真家を集めたことで、デザインや音楽などの分野でも、トップクラスの専門家を集めることができたのです。
教育分野には、定額で低品質なコンテンツを提供しているサービスが多くあります。しかし、トップクラスの専門家たちはそういったサービスに関わることに抵抗があります。高いクオリティのサービスに関わりたいと思っているのです。その点、クリエイティブの分野においては、CreativeLiveが最も高いクオリティを持っています。そして私たちは専門家たちを、ユーザーの目指すべき目標として扱います。彼らを新しい”ロックスター”だと思っているのです。
―どのような収益モデルになっていますか。
ユーザーは誰でも無料で教育コンテンツを見ることができます。ユーザーが課金するのは、動画を購入して自分の好きな時に見たいと思った時に限っています。
―専門家はどれくらい収益を得られるのでしょうか。
詳細な数字については公開していませんが、なかには月に2、3日の授業をするだけで十分な収益を稼ぐ専門家も存在しています。現実的にお金を稼ぐプラットフォームとなっているのです。
ただ、エキスパートたちはただ単にお金を稼ぐために来ているわけではありません。彼らは同じ分野の人々との仲間づくりや、他のすばらしい専門家たちと知り合うためにも参画しています。また、多くの生徒とつながることで、彼ら自身のブランドを作る手助けにもなります。
オンライン教育プラットフォームとしての3つの強み
―御社のビジネスの市場規模はどれくらいあるのでしょうか。
教育市場全体で見れば、年間1000億ドルの市場規模があります。そのうち、クリエイティブに関する教育市場は年間50~60億ドル程度でしょうか。クリエイティブはアートという側面だけではなく、ビジネスの側面もありますので、市場規模はとても大きいと言えます。
またクリエイティブを用いて、お金を稼ごうとする人は増えています。しかし、専門学校に通ってクリエイティブを学べば、自分のやりたい仕事に就けるというわけではありません。実際には学校で学ぶカリキュラム以外にも、もっと多くのことを学び続けなくてはいけません。そういった学習意欲を持った何千、何万人のために、CreativeLiveは存在しているのです。
―オンラインの教育プラットフォームは数多くあります。御社の強みは何でしょうか。
大きく分けて3つあります。1つ目は、先ほどお話したようにトップクラスの専門家を集めていることです。他の教育プラットフォームでは、多くの教師はあまり知られた存在でなかったり、教師自身がプロフェッショナルとはいえないレベルであったりします。CreativeLiveは本当にプロな専門家を選りすぐって集めているのです。
2つ目は授業の仕組みです。CreativeLive以外のサイト、たとえばYoutubeでもフォトショップの使い方やビジネスの始め方などのビデオを見ることができますが、その内容は十分ではないと思っています。CreativeLiveでは、世界トップクラスの専門家が自分のノウハウ、秘訣を公開してくれます。またユーザーはその専門家に質問することもでき、多くのことを学ぶことができる仕組みになっています。
3つ目はクリエイティブをテーマにしていることです。私たちは、これからクリエイティブは新しいリテラシーになると信じています。写真やビデオやデザイン、音楽、工芸、そして生計をたてる力は、これから重要なスキルになっていきます。今後、多くの人がフリーランスになっていくでしょうし、フルタイムの仕事をしている人も別の仕事をして稼ぎたいというニーズが増えていくでしょう。私たちはそのニーズに応え、特定のスキルだけでなく、そのスキルを用いてどうやって稼いでいくかも教えていきます。
写真家としてナイキやアップルの広告キャンペーンを手がける
―Jervisさんはもともと著名な写真家です。写真家になった経緯を教えてください。
若い頃、私は自分がしたいことではなく、他の人が望むことをしようとしていました。両親、親族、そして世間から評価されたかったのです。私は大学生になっても、他人が生きたいような人生を歩んでいました。サッカーの奨学金で大学に入り、プロになる機会もありました。しかし、私はふと立ち止まり、その流れに従うのをやめました。大学を中退し、哲学の博士号もとりませんでした。そして写真家になる道を選んだのです。常識的な道を外れて、自分の道を歩むことは、私にとって簡単ではありませんでした。しかし、自分の道を歩み始めた時、「自分は正しい道を進んでいる」と感じました。世の中には、私のような人々が何万人もいることを知っています。勇気さえあれば、自分の夢を追い、本当に実現させることはできると信じています。CreativeLiveも、その助けとなるはずです。
私が写真家としての道を歩み始めた時、やっと自分のキャリアが始まったと感じました。そして仕事は仕事ではなくなり、ただただ楽しくなりました。私は写真家としての成功を求めて、ナイキやアップルのような大規模な広告キャンペーンを何年も手がけました。この当時の経験は何にも代えがたいものです。世界トップクラスの写真家だったという経験をもとにして、現在のCreativeLiveは生まれています。もちろん私はいまだに写真は大好きですし、3ヶ月に一度は広告キャンペーンを手がけています。しかし、いま集中しているのは、100人以上のスタッフが働いている、このCreativeLiveです。
―写真家として成功を収めていたにもかかわらず、なぜCreativeLiveを起業することにしたのですか。
私は自分の独自のキャリアを歩んだ時、自身の新たな一面を発見することができましたし、多くの機会にも恵まれました。そして人生のビジョンが大きく変わりました。私はそれをいつか具体化し、誰かにシェアしていきたいと思っていたのです。
当社の共同創業者であり、私の友人でもあるCraigは、もともと写真家時代に一緒に仕事をしていました。Craigはずっとクリエイティブな人々と一緒に仕事をしてきた、テクノロジーの最先端を行く人間でした。
そしてこう思ったのです。彼の持つテクノロジーと、私のクリエイティビティをあわせて、クリエイティブ教育のプラットフォームを作れないかと。私や彼が教えるだけでなく、写真、ビデオ、デザイン、工芸など、様々な専門家たちとグローバルでユーザーをつなげられたら、どんなに素晴らしいだろうと考えました。私たちは2010年の春にその構想を具体化し、サービスをローンチしました。すると、サービスは急成長し、すぐに5万人のユーザーが集まり、どんどん伸びていったのです。
最初の一歩を踏み出す人をインスパイアする場所に
―今回の記事は、日本人の読者が読んでいます。日本の写真家やデザイナーなどについて、どのような印象を持っていますか。
これまで私は多くの時間を日本で過ごしてきました。日本から生まれたカメラのテクノロジーは素晴らしいですし、日本の文化もクリエイティビティにあふれています。日本は文化的に自己表現が苦手なようですが、これからの時代、素晴らしいものはインターネットではシェアされていきます。日本の写真、デザインなどにとって、新しい時代が来るはずですし、私も大変楽しみにしています。
―最後に、御社の今後のビジョンを聞かせてください。
私はシリコンバレーのテックコミュニティの一員になれたことを幸運に感じています。なぜなら、シリコンバレーの風土は「Do It Yourself(自分でやる)」という起業家の考え方そのものであり、私たちのDNAにも大きな影響を及ぼしているからです。
CreativeLiveの役割は、ただ単にアートやデザインのクリエイティビティを教えるだけではありません。起業するような、最初の一歩を踏み出す人々をインスパイアする場所にもなりたいと思っています。私たちのコミュニティは、すぐれた仲間が集まり、アイデアで満ち溢れています。今後もこのコミュニティを通じて、人々をインスパイアする役割を担っていきたいと思います。