オンラインで「知識・スキル・経験」を売り買いできる総合型のスキルマーケット「ココナラ」を2012年にスタートしたココナラ(本社:東京)。取り扱うメインのカテゴリは15種類、トータル450種類の分野で、個人や組織のさまざまな課題や悩みをカバーする。テクノロジーを使った適切な相場形成や出品者の実績・蓄積データを基にした総合的な分析で、出品者、購入者双方の満足度を高めている。2021年はビジネス用途に特化した「ココナラビジネス」を始め、サービスを拡張した。「全てが揃うマーケットプレイス」として、ビジネスからプライベートまで幅広いシーンで利用可能なココナラの成長戦略について、代表取締役社長CEOの鈴木歩氏に聞いた。

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誰でも自分のスキルや知識を出品できる「スキルマーケット」

――御社が運営するオンラインマーケットプレイス「ココナラ」が生まれた背景や特徴について教えていただけますか。

 現在の代表取締役会長で、創業者の南章行が起業を考えたきっかけは、東日本大震災でした。先行き不透明な世の中で、誰もが自分らしく生きていける世界をつくりたいと願ったのがきっかけです。最初はヘルステック分野を考えていたようですが、プロダクトを作るタイミングで、さまざまなスキルを広く提供できるマーケットプレイスという形にたどり着きました。

 ココナラが新しかったのは「スキルマーケット」の形をとったところです。ココナラは自分の知識や経験を活かしたい人(出品者)がいつでもスキルを出品することができます。商流が「出品者起点」でスタートするところが、EC型のスキルのマーケットプレイスである特徴です。

 今ではココナラのスキル出品数は52万件以上まで拡大しました。ビジネスからプライベートまでシーンを問わず利用できます。購入者はいつでも膨大なスキルの中から、比較しながら一番ふさわしいスキルを選ぶことができます。

鈴木歩
株式会社ココナラ
代表取締役社長CEO
1982年生まれ。小学校5年生から中3までマレーシアで生活。早稲田大学法学部卒業後、2006年リクルート入社、FromA、就職ジャーナル、ゼクシィ、広告代理事業の事業開発、Recruit USA(ホールディングスの海外経営企画)に携わり、商品企画、営業、事業開発、経営企画を幅広く経験。2016年からココナラに参画。2017年に取締役COOに就任、2020年9月に代表取締役社長CEO就任。

――これだけの出品スキル数をどのように引き付け、実現されたのか、教えてください。

 EC型で始めた点と、購入者が気軽に買える価格を設定したことがあると思います。最初は15カテゴリ500円均一というワンコインからスタートしました。それが多くの出品者と購入者の獲得につながり、マーケットプレイスのトランザクションが増えていったという経緯があります。

 もう1つは、オンラインで完結できるスキルに絞って提供しているところです。例えば居住エリアが同じでないと成立しない変数の多いスキルは出品していません。オンラインだけでマッチングが完結できることを重視しています。幅広いカテゴリのラインナップを実現しています。

Image: ココナラ HP

オンライン取引が可能な潜在市場規模は18兆円

――これまでオフラインで行われてきた取り組みを、オンラインに置き換えようとしているのがココナラだとお聞きしています。今後の市場はどのように推移していくとみていますか。

 私たちが調査機関に依頼して算出したデータによると、オンライン取引が可能な非対面サービス市場の潜在市場規模は18兆円(個人や中小企業の取引)に上ります。このうち1.6兆円が2030年までにオンライン化できるのではないかとみています。現在、オンラインで取り引きが行われている市場規模は約1000億円です。レガシー取引をオンライン化していくポテンシャルは非常に大きいものがあります。

 従来のレガシー取引には4つの課題がありました。1つはマッチングの範囲です。必要なスキルの人を探そうとすると、これまでは紹介やコネクションに頼るほかありませんでした。しかし、ココナラなら多くのエキスパートのデータベースから簡単に選ぶことができます。

 また2つ目は、時間と場所の問題です。例えば、オフラインで仕事を頼もうとすると日程や場所の調整だけで大変ですが、ココナラはすべてオンラインで完結できます。マッチングだけでなく、途中のやり取りや、納品にいたるまでテキスト、電話やビデオ、チャットで完結できるのでとてもスピーディです。

 3つ目は信頼性の問題です。対面で知っている人や会社に仕事を頼むのは安心感があるものの、一緒に仕事をしてみないとクオリティが分からないという問題がありました。ココナラは出品者のスキルを、仕事の実績や件数、購入者レビュー、レスポンス速度など全てデータ化しています。出品者のスキルが可視化できているため、従来の対面取引よりむしろ安心して依頼できるよう工夫しました。

 最後は価格の問題です。オフラインですと、どうしても仲介にマージンが発生したり、店舗や事業者の固定費などがあったり、費用が高くなってしまいます。しかしエキスパートと直接つながれるココナラならコストを低く抑えることができます。

 ココナラは52万件以上の出品数と、会員登録数279万人(2022年2月時点)、約370万件に上るレビュー数を蓄積しています。これはオンライン型のスキルマーケットではトップです。もし後発に似たような取り組みをしようとする会社が現れたとしても、競合レベルまで持っていくにはかなりの投資が必要になるはずです。

新型コロナの影響で、オンライン完結のサービスに追い風

――2021年通期の業績は前年比で流通高は52%増、営業収益は55%増と高い成長性を示しています。事業が拡大している要因はどこにあると思いますか。

 先述したオフライン市場の需要からすると、まだまだ十分な数字とは考えていませんが、新型コロナウイルス流行の影響は大きかったです。非対面・非接触を望む人が増え、オンラインで完結できるココナラのサービスに追い風が吹いたと感じています。ココナラの購入者は個人から中小企業、大企業までさまざまですが、どの層にも関係なくデジタルトランスフォーメンション(DX)の波が来ています。

 ココナラが取り扱うスキルのメインカテゴリの中で、「制作・ビジネス系」と「相談・プライベート系」があります。もともとココナラは「相談・プライベート系」が強かったのですが、今では「制作・ビジネス系」が上回るようになりました。利用は中小企業から大企業まであまねく広がり、購入者、出品者1人当たりの取引額も伸びてきています。

 いまはこのビジネス領域からニーズを取り込むことが、最優先課題です。そこで昨年夏にビジネス向けに特化したサービス購入プラットフォーム「ココナラビジネス」を新しいサービスとして切り出しました。ターゲットを特定の層やスキルに絞るつもりはありませんが、今伸びているビジネス領域は拡大していこうと考えています。

――「ココナラビジネス」について詳しく教えてください。よく利用されているカテゴリはありますか。

 ビジネスに必要な環境を整えることを重視して作りました。例えば、請求書支払い、源泉徴収など商取引に必要な機能を用意しています。サイトを使って分からないことがあった場合は、チャットサポートに問い合わせいただければ、リアルタイムに回答もしています。プロジェクト管理機能では、招待したチームのメンバーら複数名とやり取りすることもできますし、承認やレビューといった案件管理もできるようにしました。

 ユースケースとしては新規事業のような場面を想定しています。新しいことにチャレンジしようとする時、社外エキスパートをうまく活用してもらって、スキル不足を補完してもらおうというものです。この方法なら、プロジェクトが立ち上がる度に、人を採用したり、組織を見直したりする必要がありません。

Image: ココナラビジネス HP

 またコスト面でも魅力的なものとなっています。例えば1000万円かかるようなロゴ制作も、ココナラビジネスに頼めば同じクオリティで数十万円しかかからないという場合もあります。そういう意味で、ココナラビジネスは事業のボリュームとスピードをアップさせるサービスとなっているのです。

――ココナラで出品されているスキルのカテゴリは多岐に渡りますが、どのように選定されているのですか。

 役務提供・サービスの分野で、基本的に合法的かつ倫理的に好ましいものであれば、出品スキルはあらゆるものを扱うというのがココナラのスタンスです。カテゴライズは常に工夫を重ねていて、15種類あるメインカテゴリの下は3階層で構成され、トータルで450種類あります。いま需要の多い分野がやがてメインカテゴリに上がってくるような感じですね。VTuber、YouTuberなどもとてもホットで人気のあるスキルです。ですが、まだ動画カテゴリの下になっていて、今はメインカテゴリになるほどの大きなトレンドにはなっていません。

――1人ひとりにあった弁護士が見つかる検索メディア「ココナラ法律相談」にも取り組んでいますね。

 法律相談だけはビジネスモデルが違うので切り出しています。ココナラでは取引が完了すると、購入者は取引価格のうち5%、出品者は20%の手数料を徴収される仕組みですが、弁護士法の観点で、弁護士報酬から手数料を取ってはならないルールとなっています。ですから、ココナラ法律相談の収益モデルは、広告掲載料から頂く形を採用しました。もう1つ、法律相談はオンラインだけで完結できないことも理由でした。ただ、法務はビジネスする上で必須のスキルです。あらゆるラインアップのスキルを提供するココナラにとって外せないサービスと考えています。

緻密なデータ分析で健全なオンライン取引を目指す

――新たな需要はどのように掘り起こしているのでしょうか。

 最近はDXの流れで、ホームページ制作やランディングページ、バナー制作などデザイン需要が伸びています。ただ、私たちは出品スキルの動きを追いかけて、分析し、需要が大きいスキル毎にカテゴライズしているので、基本的に人気の高いカテゴリしか並べていません。

 ですから私たちが需要を作ろうと仕掛けているわけではなく、大勢の出品者から自然に新しい需要が生まれている、それを私たちが拾い上げる、という表現が正しいです。これがマーケットプレイスとしての強みだと思います。

 例えば、一時期、LINEスタンプをクリエイターに作ってもらうブームがありましたが、ココナラ上で始めたのは私たちではなく、出品者たちでした。知らない間にスタンプ出品数がどんどん増えていって、出品スキルを分析する中で、後から「こんなのが今は人気なんだ」と発見したくらいです。

 ココナラの役目は、より多くのクリエイターやエキスパートに出品していただいて、ビジネスしやすい環境を整えたり、手助けしたりすることなのです。

――例えば、どんなことに気を配っているのですか。

 具体的に工夫していることとして、テクノロジーを使った適切な相場形成があります。もし同じサイトを作るのに、1人は1万円なのに対して、もう1人は500円で作りますと言ったら相場は崩れてしまいます。そこで適切な相場形成をするためにカテゴリごとの最低価格を導入しました。

 最低価格はお互いが満足できる、ちょうど良いレベルを見つけることが大切です。1000円でサイト制作しますという出品者がいたとしても、きっと購入者の満足するレベルにはならない。だから、データ分析を450あるカテゴリごとに緻密に行なって、どこにセットすると出品者も購入者も最も満足できる価格になるか探求しています。

「スキルを持つ人」と「求める人」をつないで社会課題に応えたい

――これから大企業など、どのようなパートナーシップを求めていきたいと考えていますか。

 現在の課題の1つとして、購入者にあたるユーザーをもっと拡大していきたいという気持ちはあります。何でも自前でやるのは限界がありますから、自分達がリーチできないような客層をお持ちの企業があればつながってみたいです。例えば、制作会社や不動産紹介会社、結婚式場など相談案件がたくさん持ち込まれるような企業とつながれば、ココナラが価値提供して解決できるスキルがあると思います。

 経済圏を広げていきたいと考えていますし、ココナラを起点にスキルを持つ人と、それを求める人がシームレスにつながって、社会の課題をワンストップに解決できるような企業とつながってみたい。今まではどちらかと言えば自前主義でしたが、会社上場を機に今後は事業提携やM&Aなどにも取り組んでみたいです。

――最後にココナラの長期ビジョンを教えてください。

 ココナラが掲げるビジョンは「一人ひとりが『自分のストーリー』を生きていく世の中をつくる」ことです。本来、つながることがなかったような個人や企業が、ココナラのプラットフォームを通じてつながり、チャレンジできるような世界を作りたい。そして人生の中で何度も、バッターボックスに立てるような世の中にすることが私たちの願いです。

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