2015年に創業したCloudNC(本社:英ロンドン)は、工場が自律的に精密部品を製造できる高度なソフトウェアを開発する。「ボタンを押すだけで、部品が完成する」という未来を創造するため、技術開発に邁進する。同社が開発する製品は既に企業でも導入され、通常は数時間かかる製造工程を、AIを駆使することで「数秒」に短縮できるようになっているという。学生時代から3Dプリントの設計に従事してきた同社の共同創業者で、CEOのTheo Saville氏にCloudNCの過去・現在・未来を聞いた。

スマホから航空機のパーツまで 飛躍的な生産性向上へ

――御社は、どんなサービスを展開しているのでしょうか。

 CNC(Computer Numerical Control)をご存知ですか。当社はCNC工作機械をAIと計算アルゴリズムの力を活用して、人の作業を必要とせず、自律的に製造できるソフトウェアを開発しています。一言で表現すると、製造業の現場における、製品の設計から加工までを自律的に行うシステムの開発を目指しているのです。

 CNC工作機械とは、ソフトウェアと工作機械を組み合わせた機械で、iPhoneの部品から航空機のパーツまで、金属をはじめとした、さまざまな部品を製造するために使われています。

 金属やネジを非常に精密に加工できるのがこの機械の強みなのですが、問題は、操作に高い専門性が求められるために、時間と人件費がかかってしまうことです。

 CloudNCは、膨大なデータを搭載したAIソフトウェアに最終的につくりたい加工物の3Dファイルを差し込むことで、設計から加工、品質管理に至るまで、すべての工程を自律的に実行するシステムを構築しています。これにより、CNC加工機を用いた製造の生産性が飛躍的に向上します。

Theo Saville
CloudNC
Co-Founder & CEO
University of WarwickでManufacturing & Mechanical Engineering with Business Managementを学ぶ。フリーランスのプロダクトデザイナーとして3Dプリントの設計・研究開発に従事する。2015年、CloudNCを共同創業し、CEOに就任。2021年、同社はWorld Economic ForumのTech Pioneer部門に選出された。

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――御社は、どのような問題を解決しようとしているのですか?

 製造業にイノベーションを起こし、ハードウェアビジネスの参入障壁を下げたいと考えています。今日の製造業では、カーペットから自動車に至るまで、あらゆる製品の製造は、工業機械を用いた精密加工というプロセスを必要としています。

 カーペットを製造するためにも、カーペットの素材を作り、加工するための工業機械の精密加工が必要なのです。しかし、この精密加工というプロセスには、人の手と時間がかかりすぎています。

 あらゆる製造業において、工場では部品や機械調達の専門家を雇わなければなりませんし、見積もり表を下請け各社に発送し、返送があるまで何週間も待つことも日常的です。

 実際に、部品が届くまでは平均11%のケースで週単位での遅れが発生していると言われているほか、4%のオーダーにおいて、品質の問題が発生しています。このように、複数のサプライヤーがいる製造業の世界では、属人性の高さゆえの問題が次々と起こっているといえます。

 当社のAI搭載ソフトウェアを使って、製造現場で「ボタンを押す」だけで部品を思い通りに設計できるようになると、どうなるでしょうか。製造とエンジニアにかかる時間が短縮され、クラウドコンピューターの分野で起こったことと同じようなイノベーションを製造業でも起こすことが可能になります。

 つまり、製造をより低コストに、より短期間でできるようになるため、多くの企業がハードウェアビジネスに参入できるようにになるのです。

3Dプリントのプロが考えた 作業を「数秒」に短縮するテクノロジー

――御社のサービスは、どんな企業が使用しているのでしょうか。

 CNC工作機械を使用している工場に、CloudNCのプロダクトを卸しています。彼らが従来使っていたソフトウェアに、私たちが開発した機能を統合させる、といった形です。

 具体的には「カメラ・アシスト」という機能を付与させます。この機能により、これまで手動で部品の「どこを削るか」「何で削るか」をソフトウェア上に記入していた代わりに、ボタン一つでAIがそれらの計算を数秒間で行うことが可能になったのです。従来のやり方では、数時間かかっていた作業を数秒で完結できるようになりました。

 具体的な企業名でお伝えできる例で言うと、Autodesk社というCAD(Computer-Aided Design)図面作成ソフトウェアを提供している企業が当社の顧客です。そのほか、軍需産業や宇宙開発企業、自動車産業に携わる企業で当社のプロダクトが使用されています。Autodesk、 Lockheed Martin との戦略的パートナーシップは、CloudNC のビジョンが大きな可能性を秘めていることを示しています。

Image: CloudNC HP

――CloudNCを創業した経緯を教えてください。

 私は学生時代から3Dプリントの研究を行っていて、大学卒業後も3Dプリントを使った製品開発や設計に従事してきました。しかし、3Dプリント技術が製造現場に役立つことは、実はほとんどないことに気づきました。3Dプリンターではソフトウェアの操作性は優れていましたが、現場で応用が利く場面は限られているのです。というのも、素材の問題やサプライチェーンの問題から、3Dプリントで作ることができる製品はごく少数なのです。

 そこで、CNC工作機械といった、伝統的な、現実の製造現場で広く使われている技術に目を付けたのです。CNC工作機械は先ほども話したように、あらゆる製品の製造に使われていますが、ソフトウェアの操作性が良くありません。

 もし、CNC工作機械のソフトウェアを、3Dプリンターのソフトウェアと同じように誰もが使いやすいものにできれば、製造業のイノベーションに寄与できるのではないかと考えたのです。

 7年前、共同創業者であるChris Emery(現同社CTO)と当社を共同創業した際、この分野は何億ドルもの市場規模に値するものではないかと考えていました。起業してからは、さまざまな困難に直面したのですが、現在では市場規模はどんどん拡大し、何十億ドル規模にまで成長しています。

――御社は、合計約7780万ドル(約110億円)の資金調達に成功しています。資金の使い道を教えてください。

 ソフトウエア・エンジニアリングに多くの資金を投入する予定です。CloudNCが開発する製品は唯一無二であるため、常に技術を磨いていく必要があります。今後、より多くの素材に対応できるようにし、自動化を加速させるためにも、優秀なソフトウエア・エンジニアを多く採用したいと考えています。

Image: CloudNC

日本は世界有数の精密加工強国 パートナーシップ構築を目指す

――日本市場進出は考えていますか?

 当社のパートナーシップでもあるCAD図面製作ソフトウェアを提供するAutodesk社から、6カ月以内(2023年2月以内)にCloudNCの技術を活かしたプロダクトがローンチされます。Autodesk社は日本にも多くの顧客がいるので、同プロダクトがリリースされたら当社も日本市場進出を果たしたと言えるでしょう。

 また、日本市場は当社にとってもとても魅力的です。なぜなら日本には、DMG森精機社やファナック社といった、工作機械・ロボティクスの分野において世界有数の企業が存在するからです。

 日本の製造業の中でも、メタルやプラスチックの精密加工のプロセスにおいて、ボトルネックを抱えている企業と、ぜひお話をしたいと考えています。

 個人的には、パートナーシップを組むのであれば、今がベストなタイミングだと考えています。なぜなら、本格的にCloudNCのソリューションを導入するためには時間もかかりますし、今後、確実に伸びていく分野であるため、(提携は)早い方が良いと考えています。

――日本の大企業と提携する場合、どのような形態のパートナーシップが理想でしょうか。

 ビジネスパートナーシップ、または投資という関係性です。日本は精密加工という分野において、世界をリードする国です。まずは、日本という市場を知るために、先述の2つのようなパートナーシップの形態がベストだと考えています。

――最後に、御社の長期的な目標を教えてください。

 私たちは、「クリックするだけで、複雑な製造工程抜きに製品が出来上がる」というビジョンを掲げています。そのためには、さまざまな技術的ハードルを乗り越える必要があります。そのプロセスは、とても楽しいものです。今後も、技術を磨き上げ、製造業の未来をつくっていきます。

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