大型ホテルからユースホステル、民泊まで、あらゆるサイズの宿泊施設経営者に向けて、予約・決済・施設管理などの機能をサービスとして提供するCloudbeds(本社:米カリフォルニア州サンディエゴ)。世界の観光業はコロナ禍でダメージを受けたが、同社は宿泊業のデジタル化の波に乗って急成長を遂げており、日本からもソフトバンクビジョンファンドやリクルートが同社に出資している。共同創業者でCEOのAdam Harris氏に業況や将来展望を聞いた。

旅で経験する「困難さ」を解消するクラウドサービス

――Cloudbeds創業に至るまでのキャリアや、創業の経緯についてお教えください。

 私には多様な経歴があります。キャリアの初めのころはウォール街の投資ファンドや投資銀行で仕事をしていました。ですが長時間勤務から少しブレイクを取りたいと思い、サッカーのコーチを経験しました。その後、さまざまな規模の企業を支援するコンサルティング会社を設立しました。そのなかで、ホテル業界と仕事をするようになり、Cloudbedsのアイデアが生まれたのです。

 実は私は小さな頃から旅行が大好きで、これまで60以上の国を訪問しています。共同創業者もとても旅が好きです。そしてこんなエピソードがありました。ブラジルを旅していてビーチコミュニティのホテルを予約しようとしたものの、ポルトガル語でないと受け付けてもらえません。

 そのためEメールで問い合わせしてもしばらく返事がなく、やっと返事が来たと思ったら、指定の銀行口座に宿泊料を振り込んでほしいと言われました。そのエピソードは私たちにとって衝撃でした。同じように、世界の多くの国でローカルの宿泊施設を予約することが困難であることに気づいたのです。そこで、世界中の独立系ホテルを支援しようと思ったのです。

Adam Harris
Cloudbeds
Co-Founder & CEO
University of California, Berkeleyを卒業。投資銀行、新興企業向けテクノロジーコンサルタントなど、金融やホテル、インターネットの分野で経験を重ねたのち、2012年にRichard Castle氏(COO)と共にCloudbedsを創業。

――Cloudbedsはどのようなサービスを提供していますか。

 私たちのプロダクトは、ホテル事業者向けのクラウドソリューションです。非常にシンプルで使い勝手の良い製品です。

 宿泊客がホテルにチェックインするとき、フロントデスクとやり取りをしたり、あるいは電話を通してやり取りをしたりすると思いますが、そのときに割り当てられた部屋の情報は、私たちのプロパティ管理アプリから提供します。クレジットカードなどによる決済についても私たちのシステムで処理します。施設内で飲食した場合の会計も加算され、部屋にタオルなどアメニティが必要であれば、スマートフォンからチャットでリクエストできます。それから、Booking.comやExpedia、Airbnbなどの予約サイトを活用したマーケティング支援も行います。

 各国のローカルホテルの事業者から、国際的なホテルチェーンまで、154カ国でご利用いただいています。北米が1番の市場で、2番目はヨーロッパです。アジアは現在急激に成長している市場です。ここ数年は毎年100%近い成長を遂げています。

幅広い規模や地域の宿泊施設に対応したプロダクトが支持される

――コロナ禍で観光業は大きな打撃を受けましたが、御社はどうして成長できたのでしょうか。

 2020年においても当社は成長しました。これはホテル業界では非常に珍しいことです。その理由として、私たちが素晴らしいソリューションを提供したことが考えられます。

 コロナ禍によってビジネスが混乱したとき、多くの古いテクノロジーは対応できませんでした。非接触でのチェックインが求められるなか、多くのシステムがそれに対応していなかったのに対し、私たちはできました。そのため、多くの宿泊事業者が私たちの新しいシステムにアップグレードすることを決めたのです。

 私たちが誇りに思う導入効果をお伝えしましょう。Cloudbedsのシステムを導入した宿泊事業者は、平均して社員1人あたり1日4時間、労働時間の削減ができています。客室の予約は20%以上向上し、予約に影響するレビュー数も30〜40%増加します。運営の効率化をしながら、より多くの宿泊客を迎えることができるのです。「事業が60%改善した」「利益が30%上がった」という宿泊事業者もいます。

 ホテルといっても大小あり、リゾートもあればゴルフ場近くのホテル、スタッフが常駐していないブティックホテル、ホテルとドミトリーを併設した施設もありますね。多くの競合は、特定のタイプや地域の施設に対応したサービスしか提供していませんが、私たちはさまざまな規模のホテルのニーズに対応しています。

 たとえば、ポルトガルに日本のカプセルホテルのコンセプトを取り入れたホテルがあるのですが、非常に人気です。季節によっては10〜25%の収益アップに貢献しています。ほかにも、ゴビ砂漠の小屋やコスタリカの熱帯雨林の中にあるツリーハウスなど、非常に幅広い選択肢を提供することに力を入れ、最高のプロダクトを作ってきたため、競合に勝つことができています。

Image:Cloudbeds

消費者と事業者の両面から、「豊かな旅行体験」を再構築していく

――今後の事業計画について教えてください。新しく注力されていることはありますか? また日本企業とのビジネスについてどうお考えでしょうか?

 当社はコロナ禍においても生き残り、成長するという大きなマイルストーンを達成しました。その結果、SoftBank Vision Fundからの出資にもつながり、国際市場での深化を次の目標としています。いくつかの事業買収の可能性もあり、今後2〜3年により収益性の高い会社になるでしょう。私たちにはチームも、プロダクトも、ビジョンもあります。集中力を高めれば、この先も非常に良い時間を過ごすことができるでしょう。

 新しいプロダクトとして、Googleとパートナーシップを組んだマーケティングソリューションの「Cloudbeds Amplify」があります。たとえば、Googleでサンディエゴのホテルを検索するとします。そこで表示されたホテルの検索結果から直接予約を入れられるよう最適化できるのです。検索している人のニーズを理解して、リアルタイムのデータを入手して提供します。私たちはホテルにとって非常に良い基盤を作りましたが、Cloudbeds Amplifyによってさらに次のレベルに引き上げていけると思っています。

 日本市場においても、旅行会社やポータルサイト、マーケットプレイスなどの良いパートナーでありたいと考えています。共同創業者のRichard Castleや財務担当副社長は東京に住んだ経験もあります。2人とも日本文化への愛と感謝の念から、日本でもCloudbedsが成長・拡大することを望んでいると思います。ですから、適切なパートナーを求めるため日本市場で何をするべきかを着実に学んでいるところです。

 私たちはパートナーシップに対してオープンな姿勢を持っています。投資のためのジョイントベンチャーも歓迎し、日本からはソフトバンクとリクルートの出資もいただいています。また、日本市場だけでなく、アジアからの旅行者が国際社会に与える影響力にとても期待しています。

Image:Cloudbeds

――長期ビジョンを教えてください。

 長期的なビジョンは、総合的な旅行体験を考えることです。消費者側と運営側の両方から、この2つを融合させたいと考えています。例えば、休暇を取るために飛行機に乗る数日前に、CloudbedsのAIが「東京に到着したら、旅行のヒントをあげよう」と、ホテルのチェックインに必要なものや、アップグレードの案内、ホテルへの送迎などについて連絡し、より豊かな体験を提供するのです。

 ホテルに到着したら、飛行機で移動したばかりで疲れているからと、フロントでの手続きなしに部屋に直行できるよう手配もできるでしょう。滞在中には周辺のツアーや美術館、レストランを案内し、すべてスマートフォンから予約できるなど、宿泊客の体験をデジタルで再構築します。そのようなシステムによって、ホテルのスタッフがホスピタリティを発揮できるようにすべきです。

 私は世界が素晴らしいおもてなしや素晴らしい旅行体験によって豊かになることを望んでいます。そのために、摩擦のない世界をテクノロジーで実現したい。私たち創業者は旅に情熱を燃やしていると同時に、技術者でもあります。もし世界が人々を温かく迎え入れ、より多くの人が旅に出ることができたら、世界は今よりも幸せな場所になるでしょう。私たちの目標は、人々をつなげることであり、それをテクノロジーで実現することなのです。



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