目次
・クリアラボが解決を目指す課題とは
・「徹底的なシンプル化」で他社と差別化
・創業のきっかけは「研究用ツールを誰もが使えるように」
・適切なパートナーいれば、すぐにでも日本進出
クリアラボが解決を目指す課題とは
―クリアラボはどのような課題を解決するスタートアップなのでしょうか。
クリアラボは、ウイルスや食品のゲノム(遺伝子配列)を自動的に解析する「次世代シーケンシング(NGS)」プラットフォームを開発しています。創業前は、プリンストン大学でのゲノミクス研究やイルミナ社でのDNAシーケンサー開発経験があり、「誰でもどこでもゲノム解析を活用できる世界」を目指して2014年に立ち上げました。

コロナ禍でPCR技術の認知度が一気に高まったことから、ゲノム診断は身近な存在となりました。しかし、PCRには大きな制約があります。それは判定結果が「陽性か否か」の二値判定にとどまる点です。
ゲノム診断が二値判定であることの課題は、大きく分けて2つです。1つは「情報量が不足していること」。例えば、COVID-19のPCR検査では「陽性か否か」はわかるものの、どの株に感染しているのか、変異はしているのか、などゲノムの全容を明らかにすることはできません。
クリアラボが解決する課題は、この二値判定の限界にあります。大きく2つの側面があります。1つ目は「情報量の不足」です。例えばCOVID-19のPCR検査では「感染しているか否か」は分かっても、感染株の種類や変異の有無、どの系統のクラスターに属しているかまでは明らかにできません。これに対し、クリアラボのNGSを活用すれば「オミクロン株に感染している」「具体的な変異箇所」「感染経路やクラスターの系統」といった詳細な情報を27時間以内に明らかにすることが可能です。このような深い解析は、公衆衛生における検査体制の変更や感染拡大の早期対応に直結します。
2つ目は「スピードと効率」です。従来の培養検査やPCR法では結果が出るまで数日から1週間以上かかることも珍しくありません。その間、汚染源の特定が遅れ、最悪の場合は汚染食品が市場に流通してしまうリスクもあります。クリアラボのプラットフォームを利用すれば、検査はわずか10〜27時間で自動的に完了。しかも一度の検査でリステリアだけでなく、サルモネラ菌や大腸菌など複数の病原体を同時に検出できます。
さらに特筆すべきは、「専門性の壁」を取り払った点です。従来、ゲノムを網羅的に調べるには博士号を持つような専門家の高度な知識と長時間の作業が必要でした。しかし、クリアラボの製品では、人手にかかる作業は「サンプルをプレートに分注する」「試薬を装置にセットする」といった単純な操作のみ。残りの工程は装置が自動で行い、再現性のある結果を導き出します。
こうした「情報の深さ」と「スピード・簡便さ」を両立させたことが、クリアラボのプラットフォームが病院や大学病院、公衆衛生ラボ、政府機関、さらには食品メーカーに至るまで幅広い顧客に採用されている理由なのです。

image : Clear Labs
「徹底的なシンプル化」で他社と差別化
―競合他社とはどのような点で差別化を図っているのですか。
次世代シーケンシングそのものは目新しい技術ではありません。すでに米国のゲノム解析技術会社イルミナ(Illumina)など大手企業が成功を収めています。クリアラボの大きな特徴は「ユーザー体験を徹底的にシンプルにしたこと」です。
多くの競合は、シーケンサーという「装置」や「検査キット」を提供するだけで、その先の運用は顧客任せです。薬品やカートリッジは別ベンダーから取り寄せる必要があり、操作も複雑で、博士号を持つような専門家が常駐しなければ現場で運用できないのが一般的でした。
クリアラボのアプローチは真逆です。ハードウエアだけでなく、クラウド解析を可能にするソフトウエア、必要な試薬や消耗品までをすべて含めた「一気通貫のプラットフォーム」として提供しています。ユーザーがやることは、サンプルを装置にセットするだけ。残りは装置とクラウドが自動で解析を行い、臨床や食品安全に直結する「行動可能な結果」を提示します。
さらに大きな差別化要素が「クラウド接続」です。すべての装置がネットワークに接続されているため、リモートでのトラブルシューティングが可能で、91%の問題は1時間未満で解決できます。これは現場のダウンタイムを大幅に減らし、利用者の満足度を高める仕組みとなっています。
創業のきっかけは「研究用ツールを誰もが使えるように」
―創業のきっかけについて教えてください
私はプリンストン大学でゲノム学の博士号を取得し、次世代シーケンスの市場リーダーであるイルミナに入社しました。2011〜2014年のいわば「次世代シーケンス黎明期」に在籍し、この技術の持つ巨大な可能性を肌で感じました。
一方で明確な限界も見えていました。当時の次世代シーケンスは研究用途に偏っており、病院や食品工場など一般の現場では活用できない「専門家向けの高度な研究機器」にとどまっていたのです。
私は「この技術を研究室から解放し、誰もが、どこでも使えるようにしたい」と考えました。その思いが2014年のクリアラボ創業につながりました。目指したのは、専門家に頼らず、現場で迅速かつ再現性のあるゲノム解析を可能にするプラットフォームの実現です。

image : Clear Labs
適切なパートナーいれば、すぐにでも日本進出
―クリアラボの成長を示す数字を教えてください。
当社のプラットフォームはすでに数年間にわたり販売されており、導入実績は3桁に達しています。米国では主要な大学医療センター、公衆衛生ラボ、病院システムに加え、食品製造・加工工場など幅広い分野で利用されています。米国外でも欧州や南米へ展開が進んでおり、グローバルに存在感を強めています。顧客層は公的機関と民間に分かれますが、実際には民間の比率が圧倒的に高いのが特徴です。
―日本市場についてお聞きします。進出を検討されていますか。
はい。次の大きなターゲットはアジア市場であり、中でも日本は非常に戦略的な位置づけにあります。これまで米国や欧州、南米での展開に忙殺されていましたが、いずれ必ず日本市場に進出したいと考えています。日本の医療システムは世界的にも先進的で、品質や精度を重視する文化は私たちの提供価値と非常に相性が良い。だからこそ本格的な展開を後押ししてくれるパートナーを探している最中です。
率直に言えば、適切なパートナーさえ見つかれば、すぐにでも日本進出に動きたいと考えています。
―協業に際して、重視している点は何ですか。
まずは技術的な理解度です。診断やライフサイエンス領域に精通し、装置の運用やサポートができることが前提です。その上で、輸入に関する物流インフラや税務処理、コールドチェーンを含む供給網管理に対応できる企業が望ましい。また、規制対応の知識や枠組みを持ち、製品の特性を正しく伝えられる力も必要です。
顧客ターゲットとしては、病院ラボや大学病院、厚生労働省の関連機関、さらには食品製造・加工企業などが中心になると想定しています。
―パートナーシップの理想的な形態はありますか。
当社は柔軟に対応できますが、最も関心が高いのは販売代理と投資です。日本市場に深く浸透するには、現地での販売ネットワークを持つパートナーが不可欠です。そして投資については「skin in the game(自らの資金を投じることで成功に強くコミットする)」という考え方があります。パートナーに資本的な関与をしてもらうことで、単なる取引関係ではなく、互いに成功を真剣に目指す強固な協力関係が築けると考えています。