量子力学の専門家でなくてもソフト開発可能に
Minerbi氏は物理学と電気電子工学の修士号を持つ。イスラエルのエリートプログラム「Cadet at Talpiot excellence」に3年間参加した後、イスラエル国防軍諜報機関で10年間勤務した。2019年に、量子コンピューティングの専門家であるYehuda Naveh氏(CTO)とAmir Naveh氏(アルゴリズム責任者)と共に、Classiqを創業した。
同氏によると、量子コンピューターは1980年代から構想されていて、その実現は「大きな革命」になるという。すでに、Google、IBM、Microsoft、Amazon、富士通、NTTなどの大手企業が量子コンピュータのハードウェア開発に注力しており、量子技術が産業にインパクトをもたらす未来が近づいているという。
量子コンピューティングにおいてClassiqは、ユーザーが量子アルゴリズムやソフトウェアを開発し、さまざまなコンピュータ上で実行できるクラウドプラットフォームを提供している。これまで、量子コンピューティングにおけるソフトウェア開発は、プログラミングスキル以外に量子力学の素養が必要で、非常に複雑な作業が必要だったが、これを容易にするクラウドサービスを提供したのだ。
「このソフトウェアは、量子力学の専門家だけでなく、その他の技術者にも利用されており、このアプローチは業界のブレイクスルーとされています。私たちのプラットフォームはRolls-Royce、HPE、東芝、HSBCなどの世界的企業に加え、400を超える大学、そして大規模な開発者コミュニティなどに採用されています」(Minerbi氏、以下同)
image: Classiq Technologies HP
住友商事が出資し日本拠点も開設。業界標準を目指す
Classiqのプラットフォームは2021年にローンチし、開発者コミュニティは急速に拡大している。2022年に多くの大学が採用し、何万人というユーザーの利用につながったからだ。
ユーザー層は大きく2種類に分けられる。1つは量子コンピューティングの専門家を持ち、より洗練されたソリューションを求める企業・団体だ。もう1つは、量子コンピューティングの専門家がいない組織。Classiqのプラットフォームは、複雑な量子コンピューティングの回路設計を抽象化できるので、容易に量子コンピューティングに参入できるという。
Classiqはテルアビブ本社の他に、米ボストン、アムステルダムにも拠点があり、2023年10月には日本拠点も開設した。Minerbi氏は今後採用を強化して、世界中の企業や組織と協力しながら業界標準のプラットフォームを目指す。
「さまざまなタイプの量子コンピュータ向けのソフトウェアを開発したいと望む人々を支援したいです。特に、日本の量子エコシステムは活力に満ち、強力です。私たちのエンドユーザーを中心としたアプローチが役立つでしょう」
2023年6月、東芝デジタルソリューションズとClassiqはゲート型量子コンピューティング分野での技術提携での合意を発表している。量子力学の原理を利用したデータの傾向を学習し予測や分類を行う手法などについて実証を行っている。東芝は量子コンピューティングの専門家がいない組織ながら、Classiqとのパートナーシップによりこの分野に精通するようになったという。
「私たちは、日本のあらゆる企業との連携を望んでいます。量子コンピューティングは自動車産業、製造業、電子設計自動化、AI、サイバーセキュリティ、製薬など、多くの業界に革命をもたらす可能性があるからです」
量子コンピューティングが世界を変える
Minerbi氏は、数年内に量子コンピューティングが世界を変革すると予測する。現在、社会はエネルギー、気候変動、人口問題、食料需要といった多くの課題に直面している。これらの問題の解消には科学的なシミュレーションが必要だ。炭素の回収や、低エネルギー消費の肥料製造、気候変動の物理学的なシミュレーションなど、計算手法は確立されているものの、現行のスーパーコンピューターでは計算に時間がかかりすぎる。しかし、量子コンピューティングであればより迅速に実行できる可能性があるというのだ。
前述のとおり、量子コンピューティングは極めて複雑であり、世界的な専門家たちもこれに苦しんでいる。量子コンピュータの構築自体も大きなチャレンジとなっている。しかしMinerbi氏は、これらの課題は解消しいずれは成功を収めるだろうとし、最後に次のようにコメントした。
「日本に拠点を開設し、日本の皆さんとビジネスできることを大変光栄に思っていますし、どんなパートナーシップに対してもオープンな考えを持っています。量子コンピューティングの準備はすでにできています。今こそ一緒に始めましょう」