インドの地方都市や低所得者をターゲットとするEコマース企業、CityMallは、個人や零細企業がWhatsAppに仮想ストアを立ち上げるプラットフォームを築いた。巨大ECとの違いは、彼らが地方の町や農村部にしっかり根付いたコミュニティリーダーの力を借りて、信頼関係のうえに販売流通網を構築したことだ。インターネットの力で地方に眠る低所得者のパワーを解き放ちたいという創業者のAngad Kikla氏に、コミュニティパワーを活用したEコマースとはどのようなものか話を聞いた。

インターネットの力で地方を変えたい

 インド西部の小さな町出身のKikla氏は、ボストンコンサルティングやアクセンチュアなどでコンサルタントを経験した後、BtoBマーケットプレイスや、トラック輸送のロジスティクス会社を起こした。2度の起業を経て、チーム力と企業文化を育てる術と、資金調達法を学んだ同氏は、2019年にCityMallを創業。その理由は、小さな町に住む人々の暮らしをインターネットによって変えたいという熱い情熱を持っていたからだ。

Angad Kikla
CityMall
Co-Founder Executive Operations
ボストンコンサルティングやアクセンチュアで、2年間、コンサルタントを経験した後、2度の起業を経て、2019年にCityMallを創業する。インドの地方出身というバックグラウンドを活かし、小さな町に住む人々の暮らしをインターネットの力で変えたいと情熱を注ぐ。

「インターネットは、インドの中産階級や都会に住む人々の生活を変えました。しかし、地方や田舎への影響は、まだ娯楽や通信手段に限られています。私は、これらの地域に住む人々の生活を改善するために、インターネットでできることがまだたくさんあると信じています。これこそ私が本当に情熱を傾けていることであり、初めの起業からずっとチャレンジし続けていることです」(Kikla氏)

販売流通網を担う、2万5000人のコミュニティリーダーたち

 CityMallの事業は、食料品や生活用品など身の回りの商品をオンライン注文で受けて届けるもの。ターゲットは所得の低いインドの地方都市に住む人たちだ。地域のコミュニティリーダーが注文を取り、まとめてCityMallから商品を購入する仕組みをとっている。グループ購入することで、単価を安くすることができるというわけだ。

Image: CityMall HP

 AmazonやFlipkartといった巨大ECプラットフォーマーとの違いを、Kikla氏は次のように説明する。「巨大なEコマースのプラットフォームは、インドの地方に住む消費者を取り込むことに完全に失敗しました。その第一の理由は、こうした地方に住む低・中所得者の平均注文額が非常に低いためです。また第二の理由は、彼らのような消費者はオンライン購入を信用していないことです。伝統的な信頼に基づいて購入してきた彼らは、アプリで直接注文したら終わりではなく、オンラインで購入をサポートする必要があります」

  コミュニティリーダーの本業は、主婦や理容師、ショップオーナーなどさまざまだが、地域社会において影響力を持っている人が大多数を占めている。彼らは、コミュニティから多くの注文をとるほど、単価が安くなるので、その分をマージンとして副収入を受け取れる仕組みだ。

  彼らは自分の村や小さな町のすみずみまで足を運び、優秀なセールスマンとして次々に顧客を獲得していく。また、購入者グループを巻き込み、維持するマーケティングリーダーでもある。CityMallは、コミュニティリーダーに商品を配送し、そこから購入者の自宅まで届けるだけでいい。つまり、彼らはCityMallの販売流通網において、マーケティングと物流の両面から重要な役割を担っているのだ。

 また、CityMallは、この仕組みを支える各種技術ツールを提供している。たとえば、梱包やサプライチェーン、プラットフォームでの価格設定、サプライヤーとのバックエンドでの交渉ができるプラットフォームや、コミュニティリーダーが自分のコミュニティで成功するためのモバイルアプリなどだ。

 こうした巧みな戦略のもと、CityMallはインドの15都市で2万5000人のコミュニティリーダーを獲得することに成功した。彼らとともに築いたエコシステムは、CityMallのビジネスをこの1年で15倍に急成長させるほど拡大しているという。

 パンデミックによる影響も、コミュニティリーダー志願者の増加につながっている。彼らの多くが解雇や工場の閉鎖などひどい経験に遭ったことで、収入の確保に不安感が広がっているためだ。パンデミックによって消費者が外出を嫌うようになったため、利用者の増加につながった部分もあったが、良いことばかりではなかった。倉庫や配達の働き手を失い、物流に感染対策の仕組みを構築しなければならないなど苦労した面もあったのだ。

 なお、同様なビジネスに追随する競合があらわれる懸念もあるが、これほどインドの地方に深く入り込んだ大規模なプラットフォームはまだ存在しておらず、事業を展開する年でのターゲット顧客の8割はCityMallしか利用していないという。

インド低所得者層に根付いたエコシステムを目指して

 2021年6月、シリーズBラウンドで、VCのGeneral CatalystとJungle Venturesから2250万ドルを調達した。資金は農村部で倉庫や配送などサプライチェーン整備と、新しいテクノロジーの開発投資にあてる。今後、1年から1年半の間に、参入する都市を6倍に増やす計画。技術投資は、急拡大を支えるためのバックエンドのインフラ構築にあてられるだろう。

 具体的には、モバイルアプリへのゲーミフィケーションの導入だ。ゲーミフィケーションとは、遊びや競争といったゲーム的な要素や考え方を、顧客やユーザーとの関係構築に利用しようとするもの。ゲームの要素を盛り込んで、コミュニティリーダーは楽しみながらカスタマージャーニーを成功に導く方法を学ぶ。また、消費者が継続して利用してくれるように、よりエンゲージメントが感じられるような体験につながるアプリ開発にも力を入れていく。

 日本企業に期待することとして、Kikla氏は「インドの小さな町や村には、潜在的なエネルギーがたくさん眠っています。私たちは、利用者と企業がWin-Winの関係を構築できるソリューションとプラットフォームを用意しているので、ぜひこのエネルギーを活用してほしい」と、インドの地方都市に日本製品で新たな商流をつくりたいと願う企業があれば、前向きに話し合いたいと述べた。

 そして最後に、CityMallは野心的でエネルギッシュな低所得者が、自分自身を高められるプラットフォームとして、小さな町や農村部に根付いた唯一のエコシステムでありたいと願っているとし、そのためにあらゆる商品、サービスを提供するスーパーアプリになることが自分たちのミッションだと語った。



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