連続起業家が、オンラインでの腕時計取引の課題に着目
高級腕時計は、時計好きのコレクターアイテムとしてだけでなく、資産価値が損なわれないため資金の安全な投資先として扱われる場合も多い。Chrono24は、新品、中古品、ビンテージ品などの高級腕時計を、世界中で売買できるオンラインマーケットだ。ドイツ出身の創業者で共同CEOのStracke氏は、父、祖父、叔父も起業家という家庭に生まれ育ち、自身でも数度の起業を経験した。Chrono24は2003年に設立された。
「これまで私は、ギフト用のマーケットプレイスなどいくつかのビジネスを手がけましたが、思ったほど成功しませんでした。前の会社を売却した際に、小さくても楽しくて成功するビジネスは何かと考え、時計のマーケットプレイスを思いつきました。もともと時計が好きで、eBayなどで何時間も時計を探すこともありましたが、あまり良い体験ではなかったからです」
2022年現在、Chrono24は120以上の国から3000社以上の時計ディーラーが出品する、世界有数のオンラインマーケットに成長しており、出品点数は50万点を超える。時計ディーラーやコレクターにはよく知られた存在となり、現在ではディーラーの募集には苦労していないという。Stracke氏は「業界では誰もがChrono24を知っています。ディーラーに知ってもらうことは重要ではありません。出品や売買など、取引方法に少しサポートが必要な程度です」と述べた。
高級時計を国際的に取引するとあって、厳しい販売者ガイドライン、信託サービスによる支払い、本物であることを示す純正品保証、保険付きの発送、返金保証など、買い手が安心して購入できるような手立てを整えている。
Image: Chrono24
コロナ禍の影響で消費と資産運用のニーズにマッチする
多くのオンラインビジネスと同様にChrono24もコロナ禍の影響を受けた。当初はビジネスが落ち込んだものの、その後大きく回復し、さらに成長していった。
「あまり言いたくはありませんが、ビジネスの観点では、パンデミックは大きな後押しとなったと言えます。パンデミックが発生した2020年3月から5~6週間ほど、私たちのビジネスは非常に落ち込みました。しかし、それを過ぎると人々は家に閉じこもらなければならず、休暇がキャンセルされるなどしたため、代わりに『リベンジショッピング』をするようになったのです。その使い道は高級時計にも及び、5月から7月にかけてはそれまでで最高の取引を記録しました」
実店舗が閉鎖された影響もあり、パンデミックが終息に向かいつつある現在もChrono24のビジネスは好調に推移している。Stracke氏は、2021年の取引高は約20億ユーロで、年間の成長率は40〜45%ほどだと明かした。
世界中のあらゆる腕時計のデータを集め、取引のためのインフラを目指す
創業当初は小さく始めようと、15名未満のスタッフでスタートしたChrono24だが、現在は600名以上が業務を支えている。業界ではすでに確固たる地位を築いているChrono24だが、現在はヨーロッパ以外の地域、特にアメリカやアジアでの成長に注力している。拠点はドイツのほか、ニューヨーク、香港にもあり、日本でのオフィス設立も構想段階にある。日本の取引規模は現在世界4位となっており、すでにChrono24に出品するディーラー150社以上と契約し、日本からの出品は8万点以上あるという。そして長期的には中国市場への展開を考えている。
「アメリカ市場ではChrono24はオンラインでのリーダーではなく、eBayが先行しています。ですからアメリカ市場でさらに成長したいと考え、大規模なマーケティングキャンペーンを展開しています。日本市場も大きいので、東京にオフィスを構えることも考えています。私たちのブランドの認知を拡大するために、さまざまなパートナーシップに興味があります」
Image: Chrono24
Chrono24のスマートフォンアプリでは、時計をカメラで撮影するとその値打ちを鑑定する機能がある。時計と取引のデータから、その時計の現在の価値がわかり、その推移を資産ポートフォリオのように確認できるのだ。Stracke氏はインタビュー中に自身の時計を撮影してその機能を披露し、「コレクションの価値が高まる様子を見ることができます。株式市場を眺めるよりもいい体験だと思いませんか? アプリは日本語にも対応していますよ」とアピールした。
現在、2万種類の時計を認識することができ、アプリのユーザーは自身の時計コレクションを保存できる。今後はあらゆる時計の情報を集め、ひとつひとつを認識してその所在を明らかにするなど、時計の取引に欠かせないインフラとなることを目指している。Stracke氏は今後の展望について次のようにコメントした。
「世界中にある腕時計のデータがかなりの勢いで私たちのデータベースにアップロードされています。私たちは今後、すべての腕時計取引の一部になりたいと思っています。これまで時計に興味を持たなかった人にもこのプラットフォームにぜひお越しいただきたいと考えています」